log osaka web magazine index

 

:::: 第2回放送  かわいい物理学/音 vol.1::::

Windows Media version
QuickTime version

第1回放送 ライブ展覧会"Infra-mince"はこちら

 

 "かわいい物理学/音"

ロックとSFを愛する物理学者・菊池誠先生によるとっても楽しい物理学講座。「物理」と聞いただけで拒否反応を示してしまう文系の皆さんにもわかりやすいように解説します。今回は“音”をテーマに3回シリーズでお届けします。

音は空気の波です。そうですね。では、ギターがなぜ鳴るか説明できますか。弦が振動するから?それでは答の半分にしかなりません。身近な音もよく考えてみるとなかなか深いものなのです。

PROFILE
:: 菊池 誠(きくちまこと)
1958年、京都生まれの弘前育ち。大阪大学サイバーメディアセンター教授。物理学者。しかし、その実態は単なるロック親父。最近プログレ系 テルミニストとして神戸チキン・ジョージにミュージシャン・デビューを果たす。SF評論家と呼ばれることもあるが、その実態は単なるSFオタク。訳書に「ニックとグリマング」「メアリと巨人」(ともにP・K・ディック。後者は共訳)。と学会会員。妻はボーイズラブ愛好家。息子はオタク見習い。

ホームページ
http://www.asahi-net.or.jp/~dm6k-kkc/MCT
http://www.cp.cmc.osaka-u.ac.jp/~kikuchi/

 

第1回「音ってなんだろう? 疎密波と周波数」

 疎密波

それでは、今日は音とは何か、音の科学という話をしたいと思います。まずは音というより楽器の話ですが、例えば、これはウクレレですね。全然チューニングが合ってませんね。それから、これはリコーダーですね。小学生のほうが上手いですね。で、こいつがサンポーニャですね、サンポーニャ。ま、こんな音がしますね。それからこれはハーモニカですね。調子笛ですけど、中身はハーモニカです。それからケーナですね。ケーナは・・・なんか、今日は楽器のセレクションが偏ってますね。下手ですみません。このように、いろんな楽器がいろんな音を出すんですけれども、今日はその音についてお話ししたいと思います。

まず音とは何かという話から始めます。音というのは、空気の中を伝わる“波”です。それは多分皆さんよくご存知だと思いますが、“波”というとすぐに水面の上の波を思い浮かべますけれど、実はそういう波とはちょっと違っていて、音の波は“疎密波”といわれます。“縦波”とも呼ばれます。それは、空気の濃いところと薄いところ、あるいはもっとちゃんと言えば、気圧の高いところと低いところができて、そのしましまが伝わっていく、その濃い薄いが伝わっていくようなものです。で、口で言ってもわかりづらいと思うので、この“スリンキー”で説明します。これは100円ショップで買ってきたニセ・スリンキーですが。普通の水面の波をもしこれで表そうと思ったら、例えばこんなふうに揺れるもんだと思ってください。こういうのを横波と言います、縦に揺れてるけど横波といいます。で、縦横はどうやって決まるかというと、波の進行方向に対してどっちに揺れているかで決まります。いま、波の進行方向に対して横に揺れていると横波。で、“疎密波”あるいは縦波というのは、こういう波です。わかるでしょうか。こちら側から例えば少し濃い(スプリングがつまっている)ところをちょっと押してやると、濃いところが伝わっていきます。このスリンキーでは、伝わって戻ってきますが、これがずっと長ければ、濃い薄いがさらに先へ伝わって行くわけですね。このスプリングのつまっているところと空いてるところができて、いわば、つまっているところがヒュウンと進んでいくという感じになります。これが縦波というものです。

縦波が音になるためには、決まった周期で決まった頻度で縦波の振動が伝わる必要があります。ここにマンガで書いてきましたが、どのように音が発生してどのように認識するのか。マンガですけども、これはスピーカーだと思ってください。ここが振動して、空気の濃い薄いがつくられます。で、この濃いところがキューッと進んでいきます。次々に濃いところがやってきます。そうすると、この下手なのが耳ですけど、耳の中に鼓膜という膜があって、それがこの濃いのがやってくると押されて、薄いのがやってくるとひっぱられるということで、薄いのが到着するのに合わせてこれがキューッと揺れます。すると、波がある周期で揺れます。ここに書いてある変なものが脳みそですけれども、波を神経が受け取って脳みそに伝え、脳みそが「あ、音だな」と理解するわけです。

実は音の科学というものは結構複雑でして、音が発生するところから伝わっていって鼓膜に届くぐらいまでは物理現象なんですけれども、その音を人間がどのように認識するかは、実は人間の生理的な仕掛けであるとか、神経回路、あるいは、脳の情報処理ですね。鼓膜が今来た波を感じるのは、単に濃い薄いを感じるだけなんですが、それを「あ、音楽だ」と、あるいは「雑音だぞ」と感じるのは、脳が判断しているわけです。だから、そこは脳の情報処理の問題になってきて、その切り分けは非常に難しいです。ですから音の科学というのは、どこまでが物理でどこまでが生理的な、あるいは神経科学的なものかわからない部分があり、なんとも言えない部分もあるんです。そこのところを、雑ぱくにお話ししたいと思います。

 周波数

音は空気の疎密波ですから、たとえば手でこうやってキューッと押したり引いたりしてやれば、空気の疎密波の濃いところ薄いところができて音が出ます。で、それをあと、何回揺らせばいいのか。1秒間に20回以上揺らすことができれば、一応音になります。あまり速く強く動かすと風が起きるのでだめですが、軽く動かして1秒間に20回揺れると音になります。つまり、人間が音として聞くことができる疎密波の濃い薄いの回数というのは、最低、1秒間に20回ぐらいで、多くて1秒間に2万回ぐらい。その間の頻度で揺らしてやれば音として聴こえるわけです。その頻度の違いを“周波数”と言います。その“周波数”を、人間は一体何として認識するのでしょう。実は音の高さとして認識します。この“音叉”は、実は1秒間に440回振動します。そうするとこういう音になります。この音は標準の「ラ」です。オーケストラのチューニングに、今はもうちょっと高い音使うんですけれども、この音を「ラ」としてチューニングします。じゃ、振動の回数が変わるとどうなるかなんですが、これの440の半分の220回だと実は人間は一オクターブ下の「ラ」だと感じます。880回にすると一オクターブ上の「ラ」と感じます。そのまた倍の1760回だと、さらにオクターブ上の「ラ」として感じます。つまり、振動する回数が倍々になっていくとちょうどオクターブ、オクターブ上がっていくんですけれども、それはなぜそう感じるかっていうのは実は人間の脳の問題ですから、あまり物理の問題ではないかもしれません。
BACK TO TOP