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+ 徳山由香

国立国際美術館非常勤学芸員などをへて、コンテンポラリーアートの研究、企画、運営に携わる。 2005年10月より文化庁在外研修によって、フランスにて研究・研修に励む。

+ 田尻麻里子

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+ ピエール・ジネール

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PROFILE
ART CORE JAPAN

ART CORE JAPAN は、バーチャルなスペースをアーティストに提供する。すなわち、ウェブ上に展開するこのスペースを運営するART CORE JAPAN .orgは、実質一人の手−札幌に住む真砂雅喜さんの手による無形非営利組織である。

アーティスト・インデックス

ART CORE JAPANの主たる活動は、2000年8月から蓄積され、2004年2月現在10ヶ国45人分のアーティストのプロフィールが掲載されているアーティスト・インデックスである。自身もアーティストである真砂が、出会ったアーティストのことをより広く紹介したいとの思いから始まったこの行為に対する、本人の意志は明確で、地方/中心/世界、年齢や経験といったあらゆる既成の評価基準を取り除くため、全てのアーティストが、ウェブという仮想の空間の中で同じラインに立つという設定に置かれる。イメージと最小限の言葉によって構成されるそれぞれのプロフィールは、シンプルなつくりながら、アーティストに関する必要な情報が無駄なく掲載される。つまり、一見とりつく島もないほどクールに突き放されたような印象を受ける、このヴァーチャルスペースは、「多すぎる仲介を極力通さずに直接的に繋げること」という目的のもと、彼らと彼らの作品に関心を持つ全ての人に開かれているといっていい。

300MBのART CORE JAPANのスペース

ネットワーク/アート

等価性と直接性という、まさにウェブの特質を最大限に利用することによって拡がるこのネットワークは、実際のところ、真砂とアーティストとの間の直接的な信頼関係に支えられたものである。例えば、インデックスにも紹介されているチョーク・ダグラス・ビアーとの関係を見てみよう。1999年、展覧会に出品するためハンブルグを訪れた真砂が、同地にてターベンストラッセ13という小さなアートスペースを開設したビアーと出会う。その後2000年にはビアーが北海道岩見沢での彫刻キャンプに参加、そして2002年にはS-AIR札幌アーティスト・イン・レジデンス・プログラムにて再来日、再会を果たす。また逆に真砂は、2003年のハンブルグでのビアーの展覧会に参加、他の札幌出身のアーティストと共に、同地での作品発表の機会を得る。

「プラットフォーム・ターベンストラッセ」展
(ハンブルグ、2003)

こうしたアーティスト同士の交流を通して、たんなる情報交換にとどまることなく、真に信頼できる人間同士の関係を築くこと、またその関係が自発的に拡がることこそがネットワークそのものであるという実感を手にした真砂は、このART CORE JAPANという活動を、プロジェクトでもなく、美術の普及行為でもなく、自身のライフワークと位置づける。すなわち、それは、真砂個人が責任を持つ、完全独立な一個のオーガニゼーションであるという。

ネットワーク/札幌

信頼関係というネットワークは、むろん札幌においても形成されているからこそ、ART CORE JAPAN が可能となっている。そもそも4年前にこの活動を始めた当初、真砂は、アーティストとして、あるいはデザイナーとして様々な分野を横断的に行き来していたこともあり、札幌市内のヘアサロンFITS COREのオーナーである高橋裕樹氏の、アートや音楽、ファッションといった若者達の文化を育てることによって札幌の街に横の繋がりをもたらし、ひいてはそれが街の産業となれば、という思いを共有する。そこで彼は、FITS COREのすべてのアートディレクションを担当することによって、様々な街の情報収集と発信を手がけ、FITS COREサイト内にART CORE JAPANのドメインの提供を得ることとなったという。

FITS CORE

FITS CORE店内では、ART CORE JAPAN企画の展覧会が開かれることもあり、また作品はそのまま店内に展示され、店員と客とが一対一でコミュニケーションをもつヘアサロンという場の中で、サロンの客がアートとの接点を自然に持つことができる。実際に、デザインや音楽に携わっていたり、アートに強い関心を持つ客達が、作品を購入していったり、あるいは作家達と新しいコラボレーションが始まることもあるなど、こうして同じ街に住むアーティストと同世代の敏感な若者達とのコミュニケーションを生むこと、またこれを起点として新しいネットワークが拡がることこそが、この地のアートの力を底上げすることだろう。

FITS CORE内、高幹雄のペインティング、チョーク・ビアーの立体作品
FITS CORE内、高幹雄の作品

札幌/各地

軽々と海を飛び越えて繋がるアーティスト同士の密で直接的な関係、あるいは街を舞台とする自然発生的なネットワーク、この両方を保つことを可能にするのは、おそらく真砂を育てた札幌の土壌といえるだろう。
真砂が美術を学んだCAI/現代芸術研究所では、はやくから研修旅行や学生同士の交換展などによって、直接海外の若い作家達と交流の機会が得られ、また1999年から札幌で始まったS-AIR札幌アーティスト・イン・レジデンス・プログラムによって、さらに多くのキャリアを経たアーティストと出会うことができ、また同様に、若いアーティスト集団PRAHA Projectの活動においても、国内外各地との独自のネットワークが拡がっている。
それは、いわゆる「中心」からの距離の遠さゆえの自由とでも呼ぼうか、札幌から各地へ、世界へ、ダイレクトに繋がっているのである。それはすなわち、集中と上昇を志向するヒエラルキーとは逆の、周辺から周辺へと拡散しつつ集積する、まさしく「網の目」の世界を現実のものとしているようでもある。

北海道、千歳の空より

自らの住む街と地域の人々との関係を礎としつつ、急速に発達するコミュニケーション手段をものとし、外の動きに対して常に心を開いていること、それは、真砂のいう「資金や国籍・居住地にとらわれない新しいアートのコミュニティー」を、ウェブ上に実現するだけでなく、実は、現実のものとするための鍵ともなるのではないだろうか。

(徳山由香 取材06/02/04)

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