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+ 徳山由香

国立国際美術館非常勤学芸員などをへて、コンテンポラリーアートの研究、企画、運営に携わる。 2005年10月より文化庁在外研修によって、フランスにて研究・研修に励む。

+ 田尻麻里子

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+ ピエール・ジネール

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PROFILE
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岡山で活動するmeats [ミーツ]は、後楽園の入口へと至る橋のたもとに事務所を置く。メンバーの小石原剛さんから、自分たちの住む岡山という街を楽しくしようという強い思いと、これに対する確信に満ちた活動ぶりを聴くことができた。

ミーツ事務所のはいるビル

動/コミュニケーション

music / entertainment / art / town session の頭文字と「出会い」とが掛け合わされたこのグループの活動を一言で述べるならば、街を耕し、人を発芽させるというものだろうか。その活動を具体的に見てみよう。
映像やアーティストによるドローイング・ライヴ、あるいは持ち寄ったおもちゃなどのイベントとともに開店する「ミーツカフェ」は、決まった場所を定めず、岡山市内各所、一日限定でゲリラ的に開かれる。カフェは、ミーツのメンバーが廃墟や空き店舗といった街の中に埋もれているような場所を発見することから始まり、スペース準備は秘密裏に進められ、告知も直前まで行わない。それは、「出会いはその場その時にしかない」という切迫感によって、受け身で様子見がちな街の人々に、足を運ばせるための策だという。

ミーツカフェ

あるいは、もうすこしゆるやかな、1週間単位のカフェが「カフェ国吉」である。ミーツの事務所が入る、明治時代に建てられた建物の1階が、簡単な作品も展示できるようなカフェスペースになっており、カフェを開いてみたい/作品を展示したい人、さまざまな世代の人達に、有償で貸すいわば「レンタル・カフェギャラリー」である。いわゆる「貸画廊」と異なる点は、ただ壁に絵をかけて待っているだけではなく、人に足を運んでもらい、自分の表現を見てもらうための工夫を、自分たちで考えるための場、すなわち経営の実践かつ、発表、コミュニケーションの場としたいという意図にあるという。

レンタルカフェ国吉

また、イベントに参加するだけではなく、これに積極的に関わりたい、あるいは自分自身で立ち上げたい、という人々を対象に開催するのが、たんなる座学に収まらず、イベントの実施まで立ち上げる「アートマネージメント実践道場」や、レクチャーや情報交換、共同研究の場とする「NPOと考える岡山のまちづくり勉強会」である。地域の方々から様々な業種の人々が参加するこれらのプログラムは、アートをめぐる環境や街づくりを担う人材を育てるためのプロジェクトで、「みんなをテーブルにつかせるための場」だという。それは、自分たちだけでやっているよりも、むしろ自分たちの行動をサンプルとして、その方法論を仲間に伝え、共有することによって新しい仲間を増やし、そうして街に常に新しい空気を送り込むことによって、自分たちも活性化するという彼らの確信に基づいている。

NPOと考える岡山のまちづくり研究会

プレ・ヒストリー

あくまでも経験に裏付けられた展開を見せる彼らの活動の源は、今から約11年前の 1993年、岡山の空きビルを利用した「自由工場」というアートプロジェクトに遡る。ミーツの中心となるメンバーの3人、美術家・教師である小石原さんに加えて、音響・舞台関係、広告代理店業に携わる彼らは、この自由工場のマネージメントに参加し、その経験を活かしてプロジェクト終了後も、アートプロジェクトの可能性を探り続けていた。そしてついに95年「アートワークみの」を実施する。岡山市立御野小学校の100周年記念を、たんなる記念碑的行事に終わらせず、年間を通じた美術・音楽イベントで祝ったもので、地域の多くの人々を巻き込んでのプロジェクトだった。
このプロジェクトの成功によって3人の「なにかしよう」という意志は、次第に「なにかできる」という確信へと固まり、1998年12月、NPO法の施行を契機にミーツ設立を決意、徐々に活動を開始し、2000年4月に法人として認証された。美術教育や会社経営などの本業を続けながら彼らがもつビジョンは、「公的なサービスと民間の企業の間に欠けているもの」をミーツで実現していくというものであった。

禁酒会館(2002年2月までミーツの事務所が入っていた。後に、彼らのプロデュースによってイベントもできる複合施設に改装。)

環境/個の表現

「育てる」「つなぐ」「場をつくる」の3つの言葉に表されるミーツの活動は、誰もが、一人でも多くの人とコミュニケーションを持つための場をつくること、そうして風通しのよい街−本当の意味で誰に対しても「開かれた」すなわち、チャンスがある街をつくることといえる。実際、岡山には新しく文化や福祉を手がけるNPO、Tabula Rasaが生まれようとしている。人と街は、着実に育っているといえるだろう。
小石原さんは、「自分たちはアートのために活動をしているわけではない」と言い切っていたが、逆に彼らは、アートを生み出す人と環境が自立することに、力を注いでいる。彼らは、アートによるコミュニケーションの本質−多様性、変化を受け入れること−を信じているし、これを、多くの人が関わって様々な事象を考えるための道具として、使いこなすことを実践しているのである。

表現者の側に立ち戻ってみれば、個々が担うアートによるコミュニケーションの形は多様であるが、各々がその多様さの中で、自分だけの表現を見出すことによってこそ、このように豊かに耕された環境の中で優れた実りをもたらすことができるのではないだろうか。言い換えるならば、コミュニケーションを、仲間内の馴れ合いとするか、自立した関係への手がかりとするかは、私たち自身にかかっているともいえるだろう。

(徳山 由香 取材:23/12/03)

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