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内田淳子、変化する菩薩 西尾雅
 羊団「Jericho エリコ」(98/3)の再演ではなく「新作」の意気込みがタイトルの「2」にうかがえる。脚本部分の変更は、妹の登場する後半をばっさりカット、新たに包帯男と姉の最後を明らかにする。が、何より大胆な演出が違う作品を印象づける。1公演で限定60人を指定席とした会場は極限まで暗く、開演15分前の開場で席に着くや舞台には既に役者2人はスタンバイ。手前下手のワゴンに座す内田は古いお人形、頭に包帯を巻いて奥に立つピエールはブリキの兵隊と化したかに微動もしない。空調音の停止をキッカケに突然口を開く人形、魂が入り甦った彼らは過去を語り始める。

 ヴォイス・トレーナーの訓練を受けた発声が、木霊のように闇から現実へワープする。唇を大きく開け、一音一音がくっきり粒となった音はときにセンテンスがズレ、壊れた機械のように空間をきしませる。初めほとんど動きのない彼らが、しだいに広い舞台を侵食する。男は片隅に盛られた砂を飛び散らせ、天井から袋が落下する。砂が散った舞台は中東の砂漠というより荒涼とした月面を思わす。落下した袋を男がぶちまけると中からさまざまな靴が飛び出す。

 初演に比し、明確になった時代と場所。戦後すぐシオニズム運動下のイスラエル入植地。傷ついたバレスチナの男と出会ったのは、先住の妹を頼って来たユダヤの女。夫と死別したばかりの女は、夫の亡霊であるかに男に向かって愛憎をぶちまける。最初のろけていた女は、子宝に恵まれない不運を恨み、夫の不倫をなじり出す。看護婦でありながら夫の病気に気づかず、無為に死なせた失態を糊塗するかに。

 女の隙をつき、襲いかかる男。女の持つ夫の保険金目当て、それともユダヤ人への復讐? 石をぶつけられ、女も男同様に傷を負う。死を前に女はナチス収容所で殺された幾多の同胞を思う。散らばった大小さまざまな靴が彼らの遺品とわかれば背筋が凍る。男は靴をぶちまけ空になった袋に女を詰め込む。死体処理のその行為が抱き合いセックスしているようにも見える。手を取り、舞台奥=彼岸へ旅立つ2人。敵対し殺し合う現実世界がいつか融和し、愛に昇華するというのか。夫の不倫の子を見捨てた女にも、いつかわが子を宿すことができるというのか。

 亡き夫への愛憎に引き裂かれる妻。内田の表情は険しい憤怒と柔和な笑顔を瞬時に変え、めまぐるしく夜叉と菩薩を往還する。個人間の愛憎も人種間のそれと同様激しい振幅を見せる。愛を希求しながらも憎悪にさいなまれるが人の原罪。同じ会場で公演された日韓プロジェクト「海と日傘」(03/3)にたびたび現れる「赤」を「回避された生の激しさ」だと小暮宣雄氏は指摘する(4/3付、朝日新聞)。今回の演出で、石をぶつけられた女は、口紅を用い自分で額に傷を描く。漫画的でこっけいなその仕草は、赤が単純に生を肯定的に象徴するのではなく、同時にその愚かさと不安定さの警告ともなることを意味している。


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