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ANIMAL 松岡永子
 ポツドールの大阪初公演。インディペンデントシアターセカンドのこけら落とし企画でもある。非常にコンセプチュアルな作品。

 舞台いっぱいに大音量の音楽。
 高架下らしいふきだまり。ラクガキだらけの壁。散乱するゴミ。集まっている若い男女。
音楽は彼らの持っているラジカセから。彼らの声はその大音量に掻き消されている。言葉はない。一台の自転車を二人以上で乗り回し、殴り合い、ふざけあう。

 この段階で登場人物の個別認識はできない。たいていの芝居ではこのあと、人物間でやりとりがあり、それぞれの名前が示され個性や関係が表される。しかし、この芝居には言葉はない。最初から最後まで一言も。音楽が途切れることがないわけではない。音楽がないとき、彼らは一言も発しない。
 無言劇とは違う。騒音によって聞こえない、という形で、言葉によるコミュニケーションを完全に排除した芝居だ。この徹底性はすごい。
 言葉のない舞台を眺めているとサル山のサルを観察してる気分になってくる。
サル一頭一頭に名前を付ける観察方法は日本の霊長類学が発祥らしいが、そんなに丁寧な観察をしていなくても見えてくる関係はいくつかある。言葉はなくてもその程度のことはわかるように作られている。

 女は一人だけ。恋人らしい男がいるが、ちょっかいを出す男もいる。彼氏は怒るが彼女は心配ないとなだめる。騒ぎには加わらない、やや距離を置いている男は一人用テントを組み立てている。
 彼らの騒ぎはエスカレートし、やがて「ちょっとやりすぎて」、結果、一人の男が死んでしまう。

 突然手にしてしまった死体を、モノのように扱いゴミのように処分しようとするブラックな映画や芝居はこれまでにもたくさんあった。だが、彼らの反応は思いの外ドライなものではない。死者に敬意を払うことはないが、自分を決定的に困らせるものとして死体を重要視する。

 死体を囲んで彼らは皆、無言のまま膝を抱えている。日が暮れて肌寒くなり、一人が上着を着ると全員が一斉に上着を着る。泣き出した女につけこむ横恋慕男のせいで喧嘩になった恋人たちが仲直りすると、友愛の情が皆に感染し、お互いの肩をたたき合い抱き合う。死体を捨ててこようとして失敗、互いを責め合い、集団内の相互暴力が高まり罵り叫ぶ声が高まって何を言っているのか聞こえそうになった瞬間、一人がラジカセの音量を上げて自分たちの叫びを掻き消す。彼らは、言葉・意味・思考を怖れているらしい。

 集団内で発生した行為(友愛にせよ暴力にせよ)があっという間に全員に伝染し、増幅するさまは獣というより群衆だろう。思考のないところでの群衆行動を観客は眺めている、という趣向だが、試験管内で起こる実験の様子を見ているようでもある。
 芝居にアクシデント、作る側の意図しなかったものを見ようと期待する向きには不満が残るかも。


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