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7倍楽しめるひとり芝居 西尾雅

7本のひとり芝居をつなげて1本の芝居に仕立てる前代未聞の企て。そもそもひとり芝居フェスティバルが劇場企画で先行、好評恒例化に伴うスペシャル版での登場。中央が吹き抜け、円いドーナツ状のホテル7階フロアの全7室。FM局スタジオの702号室から送る生放送25分間の出来事。その間の各部屋ひとりひとりの顛末が4人分で1演目、バージョン違い2演目を連日公演。ラストシーンのみ7人全員が登場してオチがつく。DJ登場分が2演目で重なるのは進行の基準、各部屋でラジオを聞けばタイミングがわかる仕掛け。1演目でも当然完結するが、全日2演目上演の意欲を買って二つとも観るが正解。

ち密に張りめぐらされた伏線が、勘違いやダブルミーニングのおもしろさを満喫させてくれる。あの音が、この電話が別の部屋でどう受けとめられたか解ける瞬間が心地よい。他愛ない馬鹿話をミステリの味付けで包む。既にヨーロッパ企画と合同で同時間の別シーンを表裏連続で見せる「サッカー」を上演済だが、ゲームや推理パズルが得意なヨロキカより人間臭く、座付き作家ならではの役者にアテたキャラ、シチュエーションが効果を上げる。ひとりでテンションを上げねばならぬ役者は大変だろうが。

三谷幸喜のシチュエーションコメディでも次々起こるトラブルを糊塗しようとしてさらにトラブルが広がる悪循環がよく描かれる。トラブルのキッカケとそれをかき回す次の布石は、人数が多いほど組み合わせは多彩となる。ひとり芝居は、それをすべてひとりでこなす役者の精進の場となる。電話やラジオ、銃声など音のキッカケが手助けをする。ワンフロアの宿泊客が疑心暗鬼、それぞれ目的を果たそうと悪戦苦闘する同時間。別々の部屋にいながらにして思惑は交錯し、思い込みは暴走する。いわばひとりよがりとデスコミの大集積。彼らの愚かさを笑えるのは俯瞰できる観客だからこそ。彼らひとりひとりの一生懸命は、ひとり芝居に取り組む役者の挑戦に重なって、涙ぐむほど笑えたその涙がちょっぴりしょっぱいことに、観劇後に気づく。

DJ以外に生放送出演予定のロッカー、缶詰の作家、その編集者、作家の映画化作品に出演したい女優、そして殺し屋と殺し以外引き受ける何でも屋。編集者は作家を監視して原稿を催促するが、作家は仕事など放っぽり出して早く女優とイチャつきたい。編集者は何でも屋に作家を縛るよう注文するが、部屋番号を間違えた編集者の指示でロッカーを拘束。が、そもそも素人以下の何でも屋は簡単な縛りすらできず、縛られてもいないロッカーはロッカーで縛られたと錯覚する。あわれは、生放送のゲストロッカーが来ないDJ。パニくったDJは自滅。

いわば、プロになりきれず自爆する人たち。自称何でも屋の普通レベルすらクリアできない仕事ぶりは特別ひどいが、黒尽くめのカッコだけキメた殺し屋も弱気、ハードボイルド趣味が高じただけ。編集者は20代最後の誕生日をひとり祝うため作家のツケでケーキを注文する寂しい女。この公私混同じゃ仕事もカレシもできようはずがない。新進女優に来る仕事はアシカの声の吹き替え。声優ですらないじゃんとツッコミたくもなる。書けない作家、段取り間違えるDJ。頭は空っぽだがCM出演中のロッカーはまだマシ。

こうあるはずと自分で思う姿と実態に大きな勘違いが生じる。落差に彼らはもがき、そのあがきようが笑いを駆動する。彼らの愚かさは、けれど私たちの映し絵。ひとり芝居7人中の白眉に夢見る女優を私は挙げる。彼女が鏡を二つ手に可愛いと自己暗示をかけるこっけいさに共感する。直後に「むなしくなんかないわ」とつぶやく自覚も含めて。人はエステやダイエットに励むが、理想は叶うことがはるかに少ないと知っている。それでもあせりに駆られ、そうせずにはいられない。作家のようにとりあえず寝るという選択を含め、生きることは私たちに行動を常にしいる。伴わない結果の自虐、それが笑いに転化する。

ひとり芝居のキモは作家の役者観察の鋭さに尽きる。いっけんこわもてだが繊細な宮都の殺し屋、しっかり者と見えてお間抜けな小山の何でも屋、可愛く見えて肝の据わった梅本の女優、老け役をやらせれば関西小劇場界で右に出る者ない菊池の作家、美人でちゃっかり屋の三谷の編集者、スリムで見栄えいいが高いテンションがうっとおしい太田のロッカー、仕切りたがるがツメ甘い山田のDJ。本作に詰まっているのは網の目に張り巡らされたトリックだけでなく役者すべて、その欠点までをくるむ作演出家の愛とそれに応えた役者の踏ん張りなのだ。

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■一人芝居
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