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愛は女が書き換える〜湖の中心で、愛をさけぶ 西尾雅
明確なテーマを使用された3曲が示す。ヒロイン百合の結婚願望は懐メロ・小坂明子の「あなた」、生贄から生まれ変わった夜叉ケ池の主の悲劇はラヴェルのピアノ曲「亡き王女のパヴァーヌ」、全編をシャンソン「愛の賛歌」で締めくくる。池の主・白雪姫は、かつて映画で玉三郎が演じた近寄りがたい神秘的な存在。その大役にHEP HALLプロデュース「ハムレット」でタイトルロールを演じ終えた浅田百合子を起用することでも演出は明快。美形だが、ボーイッシュな魅力と殺陣もこなせる身体能力を持ち、お馬鹿もやってのける根性が買われる。

つまり謎に包まれたお姫様ではなく、今どきワガママ女の子の白雪。千蛇ケ池の若君に恋する彼女は晃(赤星)と暮す百合(田所)、2人の愛に親近感を持ち同情的。彼ら夫婦が鐘を守ることで自分が夜叉ケ池を離れられず、千蛇ケ池へ行けないジレンマを承知の上で。白雪の同情は、いわば恋する女の連帯感。そもそも原作に登場する女性は白雪姫と百合の2人のみ、雨乞いの生贄に百合を選ぶ村人は男性で、百合を素裸に剥き竜神に捧げる行為に性的ゆがみは隠せない。が、今公演は男優2人、後は女優で固めた真逆の布陣。百合を生贄にする村人を女性に置き換えることで、結婚した女への同性の嫉妬、足の引張りに意味が変わる。

夕餉の支度(実は米に水を含ませる翌朝の準備の米とぎ。ここでも百合が料理上手で家庭的とわかる)をしながら「あなた」を口ずさむ百合の幸せは村人の非難に踏みにじられ、暗転する。彼女は死を選び、晃も後を追うが、2人は転生し、湖と化した元村の水底で永遠の愛を誓う。泉鏡花らしいロマンを現代に引き寄せる手法に角らしい強引さを見せる。百合が米をとぐ清流はビニールプール、波板とダンボールの庵など得意のキッチュな道具立て。古典に構えずオレ流を貫く。

当初、百合の新婚生活はおままごとのようだが、試練を経た2人の愛は至高の純粋さに昇華する。泉鏡花が描いた構図は、結婚しない女が増えた現代、純愛と制度としての結婚はけっしてイコールではないという女性の抗議に読み換えられる。

キーワード
■クラシック・ルネサッス
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