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杉山さんちに行ってきました。 松岡永子
 杉山家って石上露子の生家かあ、と屋敷内の案内板を読んで初めて気づいた。
「明星」の歌人、旧家の跡取り娘であったため若くして筆を折り、わずかな歌と詩しか残っていない薄幸の佳人。けれどイメージと違って実業的才能もあり、戦後家業を切り盛りしていたのは夫よりも彼女だったらしい、といった話は新聞雑誌で読んでいた。家が富田林だということもそのとき読んでいたはず。でもまったく結びつけて考えなかった。
 寺内町の町屋として重要文化財指定を受けている旧杉山家住宅に入って、なんとなく納得するものがあった。古さに重みがあり、しかもどこか開明的。「明星」歌人が育つのにふさわしい場所だという気がする。

 その旧家の座敷で、富田林の言い伝えを採集・再話・伝承している人たちの語る民話を聞く。
エメスズキのコンテンポラリーダンス付き。
 角屋(つのや)とその隣の間との襖を取り払って、八畳ほどの二間を続き部屋にし、語り手を囲むように座る。

『豆狸と地蔵さん』
 病気の父親のためにお地蔵さんに願掛けに行く子どもと、お供え物が欲しくてついてきた豆狸の可愛らしいお話。

『平尾峠』
 「何か」に憑かれて死人の身体が動くちょっと怖い話。雨戸をたてきって聞く演出。(雨戸なんて久しぶりに見た)

『嫁に行ったキヌ』
 「つるのおんがえし」狐バージョン。座敷から縁側、庭をながめる。エメスズキが動いている。
 狐の嫁入り(日照雨)で見あげた空にヘリコプターが飛んでいたり、庭で踊っているその後ろをトイレに行く人が横切ったりするのもご愛敬。本来の語りというのはそういう予定外のものも語り込んでしまうものだろうが、今回のプログラムにそこまでの融通無碍さはない。

 派手なダンスではない。柿のような渋い朱色のきものの襟もと、足もと、帯に黒をあしらったシックな衣装。ゆっくりと歩を進める動き。緩やかに流れる時間がつくられる。
 お話の内容は素朴で地味。それが生活の場に近い言葉で語られる。これはこの場所で語られることに意味があるお話だ。鮎が捕れたのはすぐそこの石川だよ、と語る身近さがとてもいい。

 座敷と縁側、聞き慣れたイントネーションの語りとゆるやかな動き。一緒にここにいて同じものを見聞きしている人たち。額縁舞台のように外からながめるのではなく聞き取るのではなく、日常の中にある特別な時間・空間の中にいる自分を感じる。これは現代ではとても贅沢なことになってしまっているのかもしれない。

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