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ハードボイルドを裏返すギャグ、両者の調和 西尾雅
主宰する劇団ファントマとは違う出演者5人だけのプロデュース公演。少人数だが、ひとり芝居も可能な実力派を噛み合わせて見どころ満載。美術や衣装も最小限、アンサンブル起用もなし、ワキ筋も省いたコンパクトな内容だが、ファントマを代表する3人と腹筋善之介、福山俊郎の顔合わせが魅力。低予算を逆手にえん魔スピリットが凝縮されてお得。

顔や身体の傷跡は殺し屋稼業の勲章。足を洗ったはずのコック(福山)の店へ集まるはかつての同業者ばかり。連絡係ポストマン(腹筋)の今回の依頼は、誰かひとりの指名ではなく3人全員まとめて。狙う相手がこの世界の超大者ゴルゴダならそれも納得。3人がかりでも歯が立たないが、この店に誘い込む段取りがつく。いざその時。

5人の過去それぞれがひとり芝居で語られる、いわば持ちネタコーナー。落語の時蕎麦をハードボイルドアレンジしたえん魔。スーツ、シャツ、ネクタイまで黒づくめ殺し屋スタイルのひとり語りは、主役が殺されるブラックなオチ。

語りのうまさ、観客を引き込む勘の良さに脱帽。腹筋は、普通のラブレター配達人が闇の世界の配達人に堕すまでを、例の荒唐無稽な香港拳法アクション風痛快コミック仕立てで展開。美津乃はシングルマザーの悲しさ、子供を手放さざるを得ない殺し屋を悲喜劇にし、福山は毒殺専門の殺し屋が舌を生かし料理人になるまでをボケを交じえた端正な演技でこなす。

最も笑えたのは、必殺仕置き人パロディの浅野ひとり芝居。他の4人が客席に回っての容赦ないヤジに浅野が応酬。的確な4人の指摘はさすが手練れ、光速ツッコミは愛の鞭。ダメ出しに応えるべく全身で反応するマジメさが笑いを加速する。言葉をあびせられる浅野はアドリブの快楽と立ち往生の責め苦の狭間でのたうつ。その必死さは爆笑もの、笑い過ぎて涙すらにじむ。

と、個人技バトルのガチンコ勝負が本作の見どころだが、もうひとつえん魔のライフワークであるハードボイルドギャグもクローズアップ。チャンドラーの小説や映画ゴッドファーザーからインスパイアされたノワールの世界、ストイックな美学をみずから笑いで壊しにかかる。現実はそんなカッコいいものじゃないというテレがそうさせる。

小説は読者に想像力を羽ばたかせ、大画面の映像は観る者を圧倒する。が、演劇は目の前の役者が出発点。ハードボイルドの痩せ我慢は痩身の肉体にこそ似合う。推定100キロ超の体躯に恵まれたえん魔が、舞台でクールを装うだけで既に可笑しい。理想を秘めつつも現実を認め、ヤツはそれを笑い飛ばす。観客誰しも抱いているはずの自分の理想と現実のギャップを、いち早く突き放す。悲しみを小さく押し殺しながら。それが本物のハードボーイルド、人はそこに惹かれ、喝采を送る。

いっけん拒絶するかのハードボーイルドに潜んでいるのは裏返しのやさしさ。本作のラスト、ゴルゴダに追い詰められて絶体絶命。が、えん魔の相棒である猫が一声。機転の鳴き声で敵の位置がわかり、形勢は逆転する。命を賭けた老猫の献身に3人は救われたのだ。一寸の虫に五分の魂、ハードボーイルド精神ここにあり。カッコ良くなくてちっともかまわない。えん魔流美学には大いに泣かされ、笑わせられ、納得させられる。

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同公演評
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