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メルヘンを成立させる大人の知恵 西尾雅
死は再生の始まり。生物だけでなく、モノも輪廻転生したっていい。古きまま保存するのではなく今の時代に沿った新しい利用が工夫されよう。作られし時の想いを生かせば、形を保守維持するだけでない次の展望も開ける。例えば町家や蔵をリフォームしたレストランやショップがそう。古い着物のリメイクや伝統の柄で染められたアロハシャツもブーム。モノを懐かしみ、故人を思い出すことは大切だが、それを自分がどう生かし、どれだけ自分の支えとなるかがはるかに重要なのだ。

カラビンカ桟敷席の約50人の観客の前に、懐かしい床屋の椅子が1脚。開演、いったん暗転後の明るくなった椅子上に、ちょこんと横座りした満面笑みの少女(川島陽子)。両親共既になく、久々の実家で彼女を発見して驚くたける(竹下雅哉)。実は祖父の葬式を終えたばかり。病弱だったたけるの幼少を知る少女と会話がはずむが彼女に心当たりはない。そこへ3人組が現われ、今はここ千林を離れて住むたけるをなじる。姉は既に大津で美容院を経営、継ぐのはたけるしかない。祖父が守ったこの家を手放すことに彼らは反対し、古い家屋の良さを力説する。

この3人組、ご近所おばさんには見えないのでたけるは幽霊と疑うが、実は家に住みついた大黒柱や姿見の鏡、剃刀の精霊。貴重なこの家を壊すなと訴える彼らに応え、たけるはカフェに改造して彼らの良さも残すと約束する。彼らが去り、少女が家を出て入れ違いに姉が帰る。姉はこの家になじみ、そして死んだはずの猫とすれ違ったという。少女は外出できないかつてのたけるの唯一の遊び相手だった猫の化身だったのだ。

たけるは誠実にとまどい、少女はとびっきりのキュートさで謎ふりまき、そして精霊3人はアンティークの大切さを3様に訴える。全員に共通するのはこの家を愛した祖父への想い、その祖父への愛だ。誰もがいつかは死にあるいは消滅する。この世ならぬモノの姿を借りて祖父はメッセージを残したかったのかもしれない。精霊や幽霊は死と生をつなぎ、過去と未来を橋渡しし、町の保存と開発を拮抗させる。古きと新しき知恵の支点となる。壊すことはたやすい。私たちが今問われているのは、古きモノに託されたメッセージをどれだけ読み解くかだ。

謎解ければ子供にも受け入れられるメルヘン。それを大人の寓話として成立させる要素は千林や福島というなじみの地名や、たけるの勤務先である阪神百貨店食品売り場などというディテールのリアルさにある。ほぼ素舞台に観客の想像力を呼び起こす役者の存在感も大きい。

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