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世界を創造する童話 西尾雅
劇団とプロデュースそれぞれの長所欠点を克服すべく試みた旗揚げにして最終公演。演劇経験のない応募者も含むオーディション選抜25名が半年間のワークショップを経て、1公演8ステージの発表を最後に解散するというもの。その名もハーフイヤーシアターが潔い。メンバーのうち2名は制作に回り、役者1名は病気のため急遽客演による代演となったが、素舞台で特有の全員アンサンブルを兼ねる激しい動きを見せる。舞台デビューにしてほぼ出ずっぱりで2時間半を超える体力と精神力は驚異。

主宰末満はパンフでワークショップブームに警鐘を鳴らす。講師の与えるカリキュラムをこなすだけの今のワークショップは役者の考える力を育てないと。その批判からメンバー全員がアイディアを出し合う創造集団をめざす。半年の活動でも演劇を通じて人は変わることを証明しようとする。実際23名もの集団が左右から現われあるいは散り、隊形を整えて円を描く様は壮観。ゲームエンタメ感覚と哲学的宇宙観が相乗されたテーマだけでなく、アンサンブルの素早い展開でもピースピットは惑星ピスタチオを最も良く継承している。わずか半年でそれがなされた事実は、役者みずからに考える能力と表現する体力をつけさせる彼の勝利といえる。

保村大和が絵を描く末満自身の絵本を演劇化。さまざまな猫が暮らす太古の時代。彼らが住む猫の谷と呼ばれる世界では摂理が支配している。うまく摂理に働きかければ魔法のように願いがかなうが、摂理を曲げる願いはその猫を石に変え砂に砕く。ニャンプーはその力に欠ける劣等生、無口なニャロが友人、優等生のニャンスリーはそんなニャンプーが心配でいつも傍にいる。彼らは記憶を失った少女猫を森で発見し、ニャナと名づけるが、彼女にデスタンプが押されてしまう。デスタンプは謎機関車に乗せられ谷を去らねばならぬ印、それは彼らにとって死の宣告。ニャナを救うべくニャンプーたちは冒険に出て、谷の秘密を探る。

既に谷には次々と異変が生じている。猫の谷を覆う世界の中心、降臨樹の寿命が尽きようとしており、世界が滅び始めていたのだ。それを予期して苗が準備され、十一匹の勇気ある猫が守っていたが、その一匹黒猫ニャンスの裏切りで苗は行方不明になる。ニャンプーたちはニャナこそその苗であり、新たな降臨樹となる遺伝子だと知る。

デスタンプを押されたニャナはついに謎機関車に乗せられる。ニャナを追ってニャンプーたちは自分にデスタンプを押し谷に別れを告げる。機関車内でも続くニャンスとの戦い。ニャンスリーたちは摂理の本にない願いを唱えて防戦するが、摂理を書き換えた報いで石と変わり、次々逝く。残るニャンプーにニャンスは本当の目的を明かす。苗から新たな降臨樹が再生されようともそれは世代交代した別の世界。ニャンスは苗のバックアップを生かし、古い降臨樹の中身を書き換えてイチからの再生を図ったのだ。

いずれにしろ今の猫の谷は滅びる運命にある。消滅した世界にニャンプーだけが残される。力を持たないニャンプーはそもそも摂理の外にある。ニャンプー以外何もない世界。悠久の眠りから目覚めた彼は、手の中の苗に気づく。そして白紙の摂理の本にも。苗を育てたくて彼は摂理を唱える。苗の成長を想像すること、それは世界を創造すること。ニャンスリーたち仲間のいるかつての世界を願う。ニャンプーこそいないが、元の世界がほぼ再生される。けれど言葉を元に戻す直前に、摂理を書き換えた報いでニャンプーもまた石となる。永遠に言葉を失った新しい世界の猫がニャーと鳴く。それは自分たちをまた創造した彼を慕う悲しい泣き声なのだ。

注目すべきは、行方不明の愛猫を悲しむ少年を童話作家である叔父が慰めるお話という体裁を取ること。叔父はむろん末満自身、現実の甥や姪あるいは子供時代の自分を想定してのお伽噺の2重構造、創造から生まれる新たな創造という入れ子構造がおもしろい。創造はエンドレスに続く、それは想像から生まれるという主張にも共感できる。それを机上の空論ではなく、肉体の駆使で生む方法論に拍手を贈る。

存在の不確かさ。自分と世界の関わりあるいは生と死、今あることの不思議を言葉で語ったり哲学で論じたりせず、エンタメで観せ、考えさせる点で末満は傑出している。半年限りの半素人集団がそれをやってのける。彼らをまとめ上げる手腕には感嘆しかない。

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