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理想的な死に際 西尾雅
アカペラミュージカル「猫堀骨董店」(ドラマシティプロデュース)の中心的なメンバーとして小劇場にとどまらない活躍を見せるTAKE IT EASY!がまた一歩ジャンルを踏み越える。ファンクバンド(Under-age)の生演奏をバックに綴られるオムニバス5話はコンサートとまがうポップかつおシャレな感覚でいっぱい。ミュージカルともボードビルともまた違う新しい音楽劇は、かつて大衆文化の一大拠点として栄えた新開地の新しもの好きの血脈を受け継ぐ。

リーダーの山根が振付を担当するダンスシーンはむろん、酒瓶をジャグリングのように空中回転させカクテルを作るフレアという技も披露されパフォーマンスとしても楽しめる。随所に挿入される音楽や客席階段に渡した花道を使った演出で劇場はライブハウスと化す。じっくり取り組んだ芸術作品というより一気に客の心を掴む大道芸のパーティが催されているようだ。

軽く明るいテイストでまぶすのは、テーマが死そして葬儀だから。これは死者を悼み、悲しむだけで終わらせない新しい葬送の提案でもある。いわばミュージカルのスタイルを借りた企画書といったところ。私ごとだが、たまたま齋藤美奈子著「冠婚葬祭のひみつ」(岩波新書)を読了したばかり。同書には私たちが常識と思い込んでいる葬儀や結婚の様式がいかにごく最近の風習に過ぎないかが論証されている。女性向けのさまざまなウェデング雑誌が部数を競う中、自分らしい葬儀も夢ではなく、TAKE IT EASY!が本作で披露したアイディアも近い将来実現するやもしれない。

死に際し、故人あるいは縁者の希望どおりの葬儀を執行する5人組(TAKE IT EASY!=山根千佳、中村真利亜、清水かおり、松村里美、前渕さなえ)。彼女らに葬儀を依頼したのは、遺産目当ての家族の中で誰が真に自分を愛していたか知りたい社長(福田昌治=元オレンジルームプロデューサー)、愛犬の死を信じたくない飼い主(田所草子=元TANTRYTHM)、掃除機や文房具の故障廃棄を嘆くモノフェチの男(平林之英=世界一団)、自分の死を美に高めようと思いつめた芸術家(真心=Giant Grammy)、わが子の死が信じられず隠れんぼしていると思い込む母親(石井テル子=アクスピ)。全5話は1話ずつ進行せず、カットバックで他の話のエピソードが挿入されるのが、多重世界を得意とするTAKE IT EASY!らしい。

前作「カ・ドゥ」が輪廻転生をテーマとしていたため、死に興味を持ったという彼女ら。深刻でせつないテーマを扱いながら、最後はカタルシスに満ち、歌でハッピーに締めくくる。現実はこれほどうまくはいかないかもしれない。けれど死は誰にとっても避けられないからこそ、今を大切に生きていたい。そして葬儀も自分らしくありたい。お願いできるものなら彼女らに私も葬儀を依頼したいと観劇後は真剣に思ってしまった。

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