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関西小劇場の顔見世 西尾雅
昔は大晦日の夜中まで借金の取立てや支払いで追われ、年を越すのは大変な事だったとか。大掃除を済ませ正月の飾りつけをし餅も用意して新たな年がようやく迎えられる。一年間に溜まった垢を落とし禊を済ませて来る年を待つ。それが昔も今も変わらぬ習いだが、年末恒例の石原正一ショーの観劇が年越の行事に欠かせないものとして私には加わっている。

年末の公演は、なんと今回で10年目だそうで(これが第17回公演となる)、おそらく主宰の石原自身もこれだけ続くとは当初予想していなかったに違いない。キャパに余裕のあるHEP HALLでは3度目だが、あの狭いカラビンカで客の数より多いと思われる(←そんなはずはないが)20人近い役者が派手なオープニングダンスで登場した際は感動で震えがきたほどだ。

そもそも個人のプロデュースユニットでこれだけ長く続けている例を寡聞にして他に知らない。東京では本谷が主宰する「劇団、本谷有希子」があり(「劇団ひとり」は川島省吾のソロパフォーマンスなので当てはまらない)、関西では末満健一がピースピットを主宰するが、石原正一ショーの特筆すべきは出演者の数がハンパじゃないこと。今回は東京と大阪でほぼ総入れ替えで計28人、大阪だけでも18人が舞台狭しと登場する。むろん劇団員はおらず(チケット発売日に劇団事務所=おそらくは本人自宅=に予約の電話をすると石原本人が応対に出たこともある)、作・演出の石原以外はすべて客演というのにだ。

役者がこぞって出演する理由は何か?石原のネットワークの広さはむろんだが、役者である石原ならではの役者を活かす配慮にその秘訣はあると思う。主人公以外は登場場面は、ほぼ平等に割り振られ役者の個性で展開が組み立てられる。これまでは、よく知られた漫画(釣りキチ三平)やTVドラマ(太陽にほえろ)、芝居(三人姉妹)などが元ネタで取り上げられ全編笑えるパロディに構成されていた。

とりたててストーリーに深い意味があるわけでも、屈折した笑いで現代を批評するのでもない。毒気のない健康的で古典的な笑いが、観客のみならず役者にも今や新鮮なのだ。誰もが知るあのキャラを生身の役者がどう演じるかにも毎回注目が集まる。つまり扮装して成りきることが魅力であり、自分ではない誰か他人を演じるという演劇の原点を役者と観客で共有する楽しさなのだ。

そもそも石原正一ショーは、石原が個人で行っていた路上漫画朗読なるパフォーマンスを集団アンサンブルに発展させたもの。路上で漫画本を片手に、フキダシの台詞を朗読しつつそのキャラを体現してみせる大道芸というか即興劇の延長線上に思いがけない収穫があったともいえる。ホンがなければ役者はただの人。けれどホンに頼らなくとも、よく知られた話をつなげることで、アンサンブルはふくらみ、役者それぞれのキャラは光り始める。石原はたったひとりだが、石原正一ショーは毎回プロデュースながら役者集団のたしかな輝きを見せている。

今回は夏目漱石「坊っちゃん」と映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」をコラボ。親の権威を嵩に学校を牛耳る生徒会長に反旗を翻す生徒(「美味しんぼ」原作者でもある雁屋哲+池上遼一・画の劇画「男組」と同じ設定だ)がタイムマシンで過去に飛び、偶然にも独裁者の生徒会長の先祖と出会う。それが漱石の原作では、他人の恋人を奪い学校の実権を握ろうと画策する赤シャツその人。

2つの学園話がカットバックで進行するが、ドタバタ調の未来編に比べれば、発表当時は賑やかだったろう漱石編が今ではしっとり落ち着いてメリハリが効く。未来編の主人公が赤星マサノリ(sunday)、漱石編の主人公・坊っちゃんが澤田誠(Amusement Theater劇麟)、生徒会長と赤シャツの1人2役が山浦徹(化石オートバイ)の噛みあいもうまくマッチ。古典の気概を残しつつギャグをまぶすイマドキの作風が効果を上げる。

メインキャスト以外の役者の見せ場も散りばめる。後藤英樹(そとばこまち)の「機動戦士ガンダム」ネタなど定番は観客が心待ちにするほど。いわば紅白歌合戦と同じ年末の定例行事。そう、これは関西小劇場の顔見世なのだ。向こう1年間の契約更改を起源とする顔見世は、関西の南座では年末の風物詩とも新年を寿ぐ吉例ともなっている。小劇場今年一年の掉尾を飾る石原正一ショーは、新たな年での自分たちの飛躍を期し観客の吉兆を祝う関西小劇場役者陣打ち揃ってのご挨拶でもあったのだ。

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