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パロディからあふれ出す愛 西尾雅
てんこ盛りのネタと笑いに包まれた演出家いのうえひでのりの舞台への愛。あまりのトラブルに立ち往生した時、人は笑うしかない。虚脱して対処が出来ない悲劇の最中でも、表情がゆるめば絶望も底を打つ。無理にでも笑い顔を浮かべるのは健康にもいいとか。劇団みずから内容なし、ただお笑いのみと豪語する新感線久々のネタものは、実はギャグではなく偉大なる愛に満ちあふれている。

そもそもパロディ満載の脚本に加えて、スキあらば共演者を出し抜き笑いを取りに走る出演者間のバトルが楽しい。吹き出すのをこらえ、後ろを向いて肩を震わせる役者に観客もつられる。けっして身内受けに堕さず、観客を置き去りにしない新感線だからできる一体感だ。

新感線ならではのサービス精神は、ネタものを称しながら、元ネタを知らない観客にもそれなりに笑える工夫をこらす親切ぶりに表れる。たとえば1幕ラストの風呂場での、湯あたりしたエマニエル(保坂エマ)を助焦(右近健一)が口説くデュエットは「エリザベート」の「闇が広がる」でトートがルドルフを誘惑するシーンの歌詞と曲のみならず振付までを真似たパロディだ。

ここでのエマニエルはまっ裸という設定で、役者は肌色のタイツを着用し、音楽に合わせて桶とタオルで局所を隠す仕草が爆笑を呼ぶ。古典的な宴会芸だが、WAHAHA本舗がこのネタを得意としたことを踏まえた本歌取りでもある。演劇ファンには2重3重に笑える仕掛けだが「エリザベート」やWAHAHA本舗を知らない客にも裸踊りだけで十分に笑える。「闇が広がる」間奏での国民的愛唱歌であるドリフターズ「いい湯だな」の挿入も強力なサポートだ。

「犬顔家の一族の陰謀」はもちろん「犬神家の一族」のもじり、それも76年版角川映画を基にしているが、紗幕に映されるオープニングの映像からも映画への熱愛が伝わる。タイトルバックや出演者紹介、映倫ならぬ絶倫のマークまでパロって手を抜かない。

有料パンフレットは、¥2800とけっして安くないが、相変わらずの完成度の高さに絶句(アートディレクション&デザイン:東學)。事務用封筒に入った事件簿の体裁だが、ノート表紙やページの汚れのリアル感が尋常でない。縁は日に焼けて茶色味を帯び、牛乳瓶らしきものを置いたり、中身をこぼしたりの跡も点々、写真はすべて粘着テープで止めた風と凝りまくる。

レトロに仕上げたパンフレットとは別に、角川文庫そっくりのパロディ文庫も同封されている。新感線ゆかりの作家陣による金田探偵(本作の主人公・金田真一耕助之介、かねだ・しんいち・こうずけのすけと発音)のサイドストーリー集という趣向だが、挟みこみ栞(「おしりとしてお使いください」のクレジット)や最終ページの文庫目録まで、これまた一行一行が笑わせる。

そもそも原作では探偵・金田一耕助は、すべて事件発生後に謎解きする。つまり彼には未然に事件を防ぐ能力はない。事件が起きなければ推理小説も成り立たないから、これは作者が抱えるジレンマでもあるわけだが、探偵としての金田一の事件解決能力への疑問が本作が生まれるヒントとともなる。映画化された「デスノート」を応用した解釈は意表をつき正鵠を射る(ネタばれになるので詳しくはふれない)。

けれど、探偵という職業から醸される「うさんくささ」へのツッコミは、そのあやしさを愛すればこそ。事件発生を食い止められず、ムダに村中を走り回って現場に遅刻する金田(宮藤官九郎)の奮闘ぶりは、いじらしく憎めない。いわば壮大な空回りという彼の持ち味が、いい大人が真剣にネタものを演じる新感線(いまや商業演劇での成功も勝ち得たというのに)に重なって見える。

かつての小劇場ブームから誕生した劇団初期には、誰も芝居で食えることなど考えもしなかっただろう。ネタものに新感線がこだわり続けるのは、成功してもなお芝居とお笑いが好きというルーツに誇りを抱き、志を忘れまいと自戒する証なのかもしれない。

これまた新感線のルーツである馬鹿馬鹿しい「かぶりもの」が大量復活したのもうれしい。風呂場のシーンでの幾つもの登場のインパクトはさすが。動かない装置が実は役者の着ぐるみとわかる瞬間にお約束のカタルシスが満喫できる。

ある意味、新感線を代表するキャラといえる逆木圭一郎は、金田以上に推理で活躍しない本庁派遣の探偵・敗地大五郎(まけちだいごろう)役で登場。捜査の役にはまったく立たないが、着ぐるみのインパクトだけは風呂場集団を差し置いて最大級だ。人生の意味とか社会の役になどと一切考えないマイペースは、観劇後に「おもしろかった!」以上の何ものをも残さない本作のナンセンスを凝縮している。

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