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たとえ多重世界であろうとも生命はひとつ 西尾雅
夢と現実はどちらがリアルか。生き続けるのと死ぬのはどちらがつらいか。もし自殺するとすれば練炭と有毒ガスのどちらの中毒死が楽か。世界が連続する2つの選択肢の細かい枝分かれで成り立っていると仮定すれば、もうひとつを選んだ先にまったく違う世界が広がっているはず。A級Missng Linkは、物語に託して未来はひとつじゃない、可能性は無限にあると訴える。

不思議の国のアリスの登場人物をハンドルネームにしたネット自殺の集団。夭折したリーダーの意思を継いで映画を完成させようとするサークル。2つの話がカットバックで同時進行するが、ネット自殺の話はどうやら劇中劇の映画の内容のよう。

かつて野田秀樹や鴻上尚史が用いた多次元世界や容れ子構造をほうふつとさせるが、ここにはあふれ出る言葉遊びもギャグも高揚感もない。静謐でときに諦観すら漂わせる本作のたたずまいは、閉塞感に満ちた現代を象徴している。けれども、底に流れるのは希望を捨てるなという強いメッセージだ。

ネット自殺を決意するに至った個々の事情も、映画のシーン編集のようにカットバックで挿入される。かつても夏合宿で映画製作する話が登場したが、映画や文学をよく取り上げるのもA級Missng Linkの特徴、まるで映像と文字をリンクするカギは演劇にあるとでもいうように。

ネット自殺志願者の理由はさまざま。アリス(横田)は、よく出来た姉と比較されるコンプレックスと恋人の死。白兎(内藤)は落ちこぼれ、スパルタ教育の収容施設(戸塚ヨットスクールみたいなもの)からの脱走者。帽子屋(松原)はマルチ商法詐欺で金も友人も失くす。チャールズ(アサダ)はロリコン趣味がバレて仕事はクビ、妻とも離婚、最愛の娘からも拒絶されている。

今は使われない地下室(きのこ栽培に転用された元防空壕)で、彼らは睡眠薬を飲み、練炭を使った一酸化炭素中毒を決行するが失敗に終わる。ナムジー(森田)が彼らを発見し、練炭の火を消してしまったからだ。「虚構が人を救う」という呪文を唱えて彼らを救った彼女は、近くの施設に住む知的障害者だ。

いっぽう、もうひとつの映画製作の話。リーダーの自殺で危機に陥った映画サークルが、追悼映画を撮ることで再生を図る。脚本を買って出た友人(幸野)とリーダーの恋人だった主演女優(横田)は、いわば彼の死を弔う同志。撮影中は気丈に振舞う彼女だが、恋人の自殺から今も立ち直れていない。

集団自殺に失敗したアリスが寝たきりになっていることが彼女の姉から告げられる。アリスは皆が目覚めた後、ひとりで有毒ガス自殺を試み(トイレ用洗剤と害虫駆除剤を混ぜれば硫化水素ガスが発生するし、塩素系漂白剤と酸性洗剤を混ぜれば塩素ガスが発生する)、意識が戻らないままなのだ。生き残った者を責めるアリスの姉(横田)はアリス本人そっくりだ。

が、ラストではアリスとまったく顔の違う姉(森田)がアリスの死を語る。アリスが生き残り、植物状態になった世界と死んでしまった世界、その2つがどこかで分岐している。アリスそっくりの姉は、あるいは心ならずも生き残った自殺志願者たちの贖罪意識が見せる幻かもしれない。

本人の望みを基準にするなら、死ねば自殺は成功、延命は失敗だろう。けれど、要介護に陥れば、無意識の本人を含め関係者すべてが不幸に巻きこまれる。いや、そもそも自殺に成功も失敗もありはしない。自死を決意しなければならない人生こそが既に問題なのだ。

映画が無事クランクアップした直後、主演女優が姿をくらます。小道具の練炭を抱える彼女を見かけたとの情報で、脚本家はロケ現場の地下室に急ぐ。果して、洗剤を混ぜる寸前の彼女を見つけ、後追い自殺を食い止める。

彼女を助けたい脚本家の願いが、彼女が助かる世界へ彼らをトリップさせたのだろうか。練炭を抱えていたはずの彼女が選んだのは、なぜか有毒ガスの方だったのだ。

中毒が練炭か有毒ガスか。自死したのか生き残ったのか。たしかに世界はひとつではなく、いくつもの似た世界が重なって存在しているのかもしれない。が、これだけは絶対確か。自分の生命はただひとつ、死ねば2つと代わりはないのだ。

違う世界を目指しながら、同じ過ちをくり返す私たち。同じような

マルチ商法に次々ハマって借金地獄を重ね、愛する人の自死に傷ついた者が、さらに後追い自殺する。くり返される負の連鎖を止め、救うのは、たしかに「虚構」に託した希望だけかもしれない。

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