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ト■ランク 松岡永子
 昨年11月に公演した『100年トランク』のスピンオフ作品群。
 1時間弱の小品を5週連続、毎週末(2月第3週〜3月第3週)に公演する。毎回ゲストを迎えての男女二人芝居。
『100年トランク』と連動しているが、見ていなくてもひとつづつでわかるようになっている。

『ト1ランク』は本編よりずっと以前の物語。一瞬不条理劇かと見まごうお洒落なテイスト。
 大きなベッドの上に座った男女がトランクを前にして話をしている。トランクに荷物を詰めて出ていこうとしている妻を夫がなだめているらしい。
 日が沈んでまた明るくなると、同じベッドの上同じ男女が、久しぶりに帰ってきた風来坊の兄が妹に無心するところを演じている。日が沈んでまた明るくなるたび、ふたりはさまざまなシチュエーションを演じる。
 二人はある日世界に取り残された見知らぬ同士で、救助が来るまでの時間を一緒に過ごしている。女に残ったのはベッドだけで男に残ったのは非常食を詰めたトランクだけだった。時間つぶしと正気を保つため、いろんな人物関係を演じている。救助の来るみこみはない。
 最終的にやることはやっぱりこれか、って虚しくない? といいながら、結局二人に残っているのは愛し合うことだけのようだ。
 ここからは映像。とても美しい画だった。
 波打ち際にベッドが打ち上げられている。周囲に人はおらず、からっぽのトランクが一つ。
 黒い帽子黒いコートの男がそのトランクを拾い立ち去る。
『100年トランク』をみている者は、終わりの時からやってきたそのトランクが、今度は世界の果てを目指す旅に出ることを知っている。

『ト2ランク』はスリリングなミステリっぽい味付け。
『100年トランク』の1シーンに出てきた、男にバラバラにされて箱詰めで運ばれる女の子。バラバラにされる前日のお話。
 派手な服装の女の子が閉店直前のカフェにやってきて、30分を過ごす。サイレントカフェと称しおしゃべり禁止の店内で、大声で携帯電話をかけ、買ってきた服を店いっぱいにひろげる。
 他にお客さんはいないから誰にも迷惑かけてない、という。
 店のマスターの「普通じゃない」という語に対してヒステリーを起こし、散らかした後は箒を持ち出して自分でかたづける。常識的ではないが「他人に迷惑をかけない」という自分のポリシーはきちんと守っているらしい。
 彼女は他人の心が読めるため、人間関係がうまくいっていないようだ。
「誰でもいいから泊めてくれる人を探す」という彼女にマスターは「誰でもいいというのは誰でも良くないということだ」といい、実は自分は妻を独占したいあまり殺してしまったんだ、と告白する。
 彼女は他人の心が読める。「奥さん、誰でもよかった、という奴に殺されたんだ」
「愛憎の果てに殺された、という方がましな気がして」と肩を落とすマスターは、でも、二人で一緒に生きていくことができなくなったのは同じなんだ、と呟く。
 彼女は片眼をふさぎ、見えすぎるから少し目を閉じることにするといい、店を出て行く。
 店の外を、明日出会う彼女をバラバラにする男が通った(『100年トランク』に出ていた彼は、誰でもいいから一緒に旅に出る娘を探していた)。彼女は半分目を閉じていたから、男の思惑に気づかなかったのかもしれない、とも思う。

『ト3ランク』はポップで若い。
 毎回、芝居の前にその回の登場人物を中心にした『100年トランク』のダイジェストビデオが流れるが、この回のは特によかった。ゴミ分別のスペシャリスト・分別子(ぶん べつこ)の仕事を、英語解説・日本語字幕で綴ったもの。
 芝居は彼女のプライベート。分別子の部屋の前で元彼が待っている。荷物を取りに来たらしい。
 帰ってきた分別子は、荷物は好きに持ってって、といい、持って帰ってきたトランクをひろげその中で寝ようとする。部屋の中はゴミでいっぱいで寝る場所もない。
 仕事が忙しすぎるの、といい、どうしても分別できないものがあって持って帰ってきた、という。トランクは燃えるゴミに決まってる、という元彼に、外側の話じゃない、と答える。
 元彼の耳に歌が聞こえる。トランクからだ。トランクが開くと、残っている想いの影が歩き回る(オルゴールの蓋を開けたみたいだと思った)。
(これを)見てる? 聞いてる? と問う元彼に、見てるわよと答える分別子は別の所を見ている。何年も一緒に暮らしてきたけど、今は同じものを見ていないみたいだねと元彼はいう。

 男と女が二人で一緒に生きていくいろんな形をさまざまな趣向でみせる。
 空間がカフェであることをうまく使って、狭い場所を活用している。この後(執筆は3/8)4、5もまた違った趣向を凝らしているのだろう。

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