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映画館のロビーでまどろみ見る同床異夢 西尾雅
98年9月の初演(OMS)から5年を経ただけで佐藤、工藤、上宇都、金田が退団、半数以上のキャストが入替わったことに驚く。3人が不動の持ち役をキープ、三上が役をコンバート。加世の父である映写技師は、姿を見せない初演から設定にあるが、今回は映画舘の閉館へ強い抗議を見せて登場する。悦子に連れ添って来たAV監督が悦子を女神に見立ててカットを撮るシーンなど、わずかな改変はあるが脚本はほぼ元のまま。家出したAV女優の妹と兄の再会、その兄妹愛がひとつのテーマだが、ひたむきで陰りのある佐藤をキャスティングした初演を新鮮に思い出す。今回、佐々木に代えて健康的な印象が強くなり、揺れ動く感情の振幅も増す。キャラがカブってる金田から田矢のチェンジはスムーズ、若干違いをあげればエキセントリックながら明るい金田と、ぼよよんとマイルドな田矢。上宇都、中村は奇しくも共に劇団☆新感線出身、勝気な性格ながら婚約目前ブルーで悩めるキャリア・ウーマンを熱演。

郊外の商店街にある名画専門映画館の閉館日、ゆかりの人々が集うロビーの一日を追う。映画館の入るこのビルを所有する慶太は、先の市議選で次点落選したばかり。選挙資金の物入りが閉館の一因でもあり、映画館スタッフには割り切れない思いがくすぶる。同ビルの店子のよしみで慶太を応援した津由子も悔しさを隠さない。慶太の妹のAV出演が有権者の反発を招き、票を減らしたと信じるからだ。長年音信不通だったその妹悦子が閉館を聞いて駆けつける。悦子もまた家族への屈折した思いや仕事の悩みを解消せずにいる。本日の上映は「火垂るの墓」と「2001年宇宙の旅」、映画の好き嫌いや解釈は人それぞれ。選挙の応援にもしがらみがつきまとう。草野球チームのわが監督よりも仕事優先で他候補を支持せざるを得なかったり、在日で選挙資格がなかったりと立場はさまざま。問題は、他人の痛みに気づきにくいことにある。意識しない差別で不快にさせる加害者は、そのことに気づこうともしない。

妊娠に動揺するみどりは、恋人雄介の先走った行動に苛立ちを募らせる。みどりの気持ちに気づかない身勝手を彼女は許せない。が、彼女もまた在日の歯科医へ向けるいたわりを差別と自覚しない。歯科医もまた、海外の戦後処理ボランティアで下半身不随になったと称する島田を不審に思う。誰もが自分の傷に敏感なのと対照に、差別を玉突き先送りする。選挙に熱中するあまりピアノ教室の生徒を減らした津由子は、AV出演の悦子に責任を転化して嫉妬を誤魔化す。映画だけではなく草野球にも解釈の相違は出る。ヘボの雄介はエラーをイレギュラーのせいにするが、弁解ではなく彼は半ばそう信じている、信じこもうとする。それは津由子も同じ、そう信じることが彼の、彼女の夢であり、よりどころなのだ。

同じチームにあってそれぞれに違う試合観。選挙では投票相手の選択以前に投票できるか否かで、既に思惑はズレている。映画館の閉鎖をめぐってもむろん軋轢はある。悦子が家を飛び出し、女優として東京で暮らすのも事情あってのこと。血を分けた2人だけの兄妹でも違う思いが交差する。閉館に立ち会い、ひとつの時間を共有している誰もが、実はまったく異なった思いを抱く。映画館を引き継いだ慶太は文化芸能にうとく、選挙公約どおりスポーツの方に関心がある。映画館経営がそもそもミスマッチだったのだ。元甲子園児の彼の時間は試合に破れ、応援した父がスタンドで倒れたあの日で止まっている。優勝の夢敗れて以後の人生を彼は認めない。彼が大事に持つ甲子園の土は、その瞬間を刻む止まった砂時計に他ならない。

運命の転機が訪れる。トップ当選者事故死の報が入り、慶太の繰り上げ当選が決まる。慶太は甲子園の土を悦子に頒ける。止まっていた彼の砂時計が、また落ち始める。それは妹との和解、そしてエールを送ること。閉館という終わりが、議員活動という始まりにバトンをつなぐ。このロビーが、思いの循環するメビウスの輪であり、映画という虚構と現実をつなぐ接点だったのだ。地下にあって地上の夢を育む場所。ここでは誰もが、明日を夢見て今日という現実を生きている、たとえそれが同床異夢であろうとも。

                 役名    再演     初演
映画館主、草野球監督、選挙落選  平山慶太  森本研典   ←
慶太の妹、AV女優          悦子  佐々木淳子  佐藤めぐみ
映写技師             野々村勝治 南勝     (登場せず)
映画館受付、悦子らの従姉妹       加世 前田有香子  北山あき
加世の夫、かつて慶太とバッテリー    慎吾 三上剛    工藤俊作
酒屋、草野球仲間         青山雄介  前田晃男*  北岡啓孝
エアロビコーチ、雄介の恋人    森下みどり 中村なる美* 上宇都理恵
ピアノ教師、慶太の選挙応援    望月津由子 篠原裕紀子  ←
歯科医、在日韓国人        新井明子  岸部孝子   ←
ケーブルTVスタッフ       島田邦子  田矢雅美   金田典子
悦子出演AV監督         高橋隆一  林真也*   三上剛
                       (*客演)   (←同)

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