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人の業を救う宗教の融和 西尾雅
ひとり芝居というスタイルもあるが、通常複数が登場する演劇において出演者2人は対話の最小単位だ。羊団は1年置きに金替と内田の2人芝居を重ねて4回目、2人だけの可能性を見極めるストイックな姿勢を貫く。演出は一貫して水沼が担当、前回の「むずかしい門」で水沼が脚本を手がけた他は松田作品に固執する。竹中直人の会が主演の竹中と作・演出の岩松了どちらが欠けても成立しないように、羊団も基本は松田正隆の世界を表現するためにある。かつて松田が主宰した「時空劇場」の看板役者2人の間に散る静かな火花、空気すら一瞬で変える佇まいを今も小空間で味える、これこそ演劇の至福だろう。

ところどころ石が転がるだけ、砂漠を思わす荒涼たる地に扉と窓だけの舞台。地に根を生やしたように固く閉ざす扉が外と内を隔てており、ついに開け閉めされることがない。訪問者との会話はのぞき穴越しに交わされるだけ。驚くほど小さな天窓が、閉ざされたこの世界と外との乖離を象徴する。照明は極限まで絞られて暗く、わずかに2人を照らす。砂漠に伸びる影は、まるで初めて月に降り立った宇宙飛行士のように人類の孤独を背負う。

わが子を寝ている最中に押しつぶし殺した大女のマギーが、それを悔やむのか子供に見立てた人形を縫い、埋める。何人ものわが子を寝ながらに殺した彼女は石もて追われた過去を思い出し、その石がやわらかく食べれるパンなら良いと奇妙な妄想に迷う。扉の外に立つ神父ギリガンがのぞき穴から顔を出す。

マギーとギリガン神父の2人が、監禁されている少女マリーと青年グレンにすり変わる。グレンはマリーを12年間も閉じ込め、性的虐待をくり返す。グレンの母はうすうす少女の存在に気づきながら口を出さない。父は2本の指が送りつけられて以来、生死も行方も不明のまま。父親の不在と母親の見ぬふりがグレンを増長させる。上着の裏地に世界の切手を貼り付け、世界コレクションを気取る。

時空はさらに転換する。向かいのグレゴリオ家でグレン家が噂される。グレンの母は死に、グレンは逮捕されるが、監禁された少女は見つからず仕舞。どうやらバラバラに解体されたらしい。そう語るグレゴリオの母はロボットのようにぎこちない。グレオリオがバラバラのマリーを手に入れ、人形のようにつなぎ合わせ再生したのだろうか、自分の母親同様に。

またも場転、マリーとギリガン神父が扉越しに向き合う。冒頭の世界に円環するが、扉の外内は入替わり反転している。背を見せこちら側に立つ神父が、扉の向こうでうずくまるマリーに声をかける。元の世界に戻ったのではなく、ねじれネガポジが翻った世界に来てしまったのだろうか。夕焼けのように赤い光が、飛び散る白い羽毛を染める。羽毛は、埋葬地から掘り出され、たたきつけられた人形の詰めもの。外にも白い灰が降り、すべてが暗転に沈む。

マギーとマリーのM、ギリガン、グレンとグレゴレオのGはどうやらMANとGOD、人と神を意味するらしい。神に向かって、人はおのれの存在を問いかける。産むたびに子供を殺す母親の過ち、生を得ながら無駄に終わるその不毛を、暴力と争いをくり返す人類の愚かさを、核爆発によってついに滅びる世界を。人形に詰められた羽毛は人間なら臓物。地面に撒き散らす自分の中身が、地上に舞う放射能の白い灰に重なる。それは消滅する自身への手向けの花なのか。

2人芝居の対話を突きつめると、神と人の対峙に行き着く。ソドムとゴモラ、バビロンの搭、そして核戦争。永遠に愚かさをくり返す人なるもの。神はなぜそれほどに不完全な人を創造したのか。人がフランケンシュタインのように死体をつなぎ合わせるのは、神が人を創った過ちのくり返し。だとすれば人の愚かさも神の雛型に過ぎないのか。

石を投げないでと女は請う。では、パンなら良いのか。パンは石の対極ではなく、実はイコール。憎悪として投げられる石を女は嫌う。けれども、糧たるパンでつなぐ生が人を苦悩させる。生は神に与えられた慈悲であり、同時に試練である。人はたしかにパンのみでは生きられない。愚かさと過ち、そのくり返しに生きるのだ。

マリーに強いた監禁の12年という数字は暦の12ケ月そして干支の12支を象徴する。ここにも、未来永劫くり返す人の業が暗喩される。西洋と東洋、異なる思想もときには同じ数字を共有する。テロと戦争の原因のひとつは、イスラムとキリストそしてユダヤの宗教観の違い。本作の舞台となる荒野はキリスト教世界観によるが、石を積みまた崩す賽の河原は仏教的世界観そっくり。ここに宗教の普遍性、それが融合する彼岸に人が救われる可能性を示している。


キーワード
■宗教 ■終末
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