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成田「雄さん(=上野雄三)は、(3日間のシテのうち)大阪から一人だけやから」
上野「うん、すごい緊張してんねん」
山本「雄さん、『自然居士(じねんこじ)』って…」
上野「えー、4年前…」
山本「2度目ですか?」
上野「2度目です」
成田「実は玄(げん)ちゃん(=味方玄)が、‘僕、この『自然居士』やりたいなー’って言うたんですよ(笑)」
片山「あんた何回『自然居士』演ってんねや(笑)」
山本「‘『自然居士』好っきゃから何遍でも演る!’って言うさかい、ダーメッ!キミは『邯鄲』!言うて(笑)」
味方「そんなん演りたいうちに演らな(笑)。旬のもんですから!」
上野「玄ちゃん、こないだHEPホールでも『自然居士』してたやん」
味方「あれ〜?そやったかな(笑)。なんで知ってはるん?」
上野「知ってる知ってる(笑)」
味方「おっかしいなあ(笑)」
片山「『自然居士』は舟出さはるんですか?」
上野「出しませんよ、そんなん。そんなことしたら(師匠に)エラい怒られる」
味方「なんでですか?それ、いっぺん(師匠に)言うてみはったら」
山本「雄さん『自然居士』は二へんめでしょう?」
成田「てっちゃんと今回の催しについて、よく話をするんやけども、おシテも地頭も含めてやけど、出来るだけ、ハジけてもらえるようにしたいなっていう…」
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上野雄三 |
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上野雄三は、大阪天満宮前の朝陽会館に本拠地を置く、上野家の三男として生まれた。
現当主は長兄の朝義。次兄の義雄は大鼓方である。
そういう環境にあって、本腰を入れて能に取り組むようになったのが比較的遅かったという雄三は、舞台の上でも謙虚だ。
おととしの秋、上野雄三の『融(=とおる)』を観た。
とにかくダンディで恰好よかった。
それまでの彼の舞台に見られた、萎縮しているような謙虚さは影を潜め、その、大胆で、しなやか美しさの中に、私は、ただひたむきで真面目なだけではない、青白い焔のような役者の情熱を垣間見たのだった。
その時に、上野雄三の『自然居士』は、さぞ恰好よかろうと思った。
TTRの二人から、「雄さんの演目はもう決まってんねん」と、『自然居士』を告げられた時、思わずニヤリとした。
作り物の舟は、観世流の『自然居士』では普通は出さないことになっている。
琵琶湖のほとりで、自然居士が人買い商人の舟にとりすがる場面は、普通は、観客に舟があると想像してもらっているわけだが、近年、<古式>などと称して、舟を出す演じ方がされるようになった。
浦田保浩「これ、僕の演目やけど。候補曲として最終的に『巴』と『殺生石』が残って、結局、『殺生石』の<白頭(=はくとう)>に決めさせてもうたんやけど、僕、『殺生石』の<白頭>にこだわってるわけやないし。前に同じコンビ(=シテ・浦田、地頭・片山)でいっぺん演ってるし。会としては『巴』と『殺生石』とどっちが魅力的なんかなあ、趣旨に合うのかなあと思って。とにかく僕、希望ないんですよ。」
全員「希望ないのっ?!(笑)」
浦田「いや、今年たまたま、6月から7月にけっこう気の張るシテがあって、いろんなものがあるからかもしれんけど…」
成田「でも、<花形能舞台>一番頑張ってね(笑)」
浦田「はい(笑)頑張ります!有難うございます!いや、だから、『殺生石』の<白頭>を120%やりたいわけでもないねんけど、今日、地割(=じわり=地謡の配役)を見て、もし、『巴』のほうが楽しめるなら、そういう理由で演目を替えてもいいし。僕自身が迷いつつ演目を申し上げたというのが正直なところなので…あ、でも僕、あれよ、言い方悪かったかもしれへんけど、やる気がないとか、そういうことやないからね!(笑)」
山本「(笑)ちゃうちゃう、そんなふうにはとってへんけど(笑)。もちろん、‘なんでもやりまっせ!’というふうに言うてくれはるんは有難いねんけども、それとは別に、‘でも演んねやったらこっちのほうが自信ありまっせ!’とか‘こっちを演ってみたい’とか、どんな理由でもええから、とにかく、最終的に、おシテに演目を選んでもらいたかったんで」
浦田「僕、こういうふうに言うてもらって演らせてもらうの始めてやから」
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浦田保浩 |
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京都の浦田家の長男、浦田保浩。
父は保利。弟は保親(=やすちか)。
私が大阪に定住した頃、彼は、ちょうど観世宗家の内弟子として東京にいた。
私は、東京に行くまでの彼の舞台は観たことがない。
彼は、京都に戻ってしばらくして、弟や同年代の他の役者とともに<心味の会>を結成した。
私は、<心味の会>や浦田家の定期能などで何度か彼のシテを観てきたが、ずっと京都にいた弟・保親のおおらかさに比べて、彼からはエネルギーの波動を感じたことがなかった。
出来るはずの人なのだ。
だから観に行く。
でも、なんだか物足りない、その繰り返し…。
「あの人はそんなもんじゃないねん!」と、山本哲也は言う。
山本「とにかく保浩さんが、‘『巴』か『殺生石』やったら、僕は『殺生石』やな’って言わはった時点で、『殺生石』に決めたんや。僕はそれを尊重したい…。それが結局、催しの趣旨にも繋がると思うので、そのへんを大事にしたいと思うてます」
浦田「さっき、ハジけてほしいて言うてくれたやん?ハジけるって、イマイチわかるようでわからんとこもあるんやけど」
片山「ま、せやけど、曲目とか演出のことは別にハジけることとは関係ないやん。せやさかいに、『殺生石』でオーソドックスな演り方でもハジけようがあるしさ」
山本「各々が抱えてる、どうしても外せない枠ってあるじゃないですか。特にシテ方っていろんな枠があるじゃないですか。その枠みたいなもんが、好むと好まざるに関わらず、今回の<花形能舞台>では、相当、無い状況になると思うんですわ。そういう意味で、普段、例えば、試してみたくても出来ないことでも…それが、同じ動きの中で、足の運び一つ、発声一つでもいいし、謡い方一つでもいいんやけど、そういうものに触れたいというか、そういう意識で参加してもらえるのが理想やというふうに思うてるんですよ」
浦田「いや、僕は、純粋に、見に来はるお客さんが『巴』と『殺生石』とどっちが見たいんかなあと思て」
山本「(笑)保浩さん!とりあえず、そんな受身の考え方いらんて(笑)」
浦田「(笑)とりあえず、今んとこ受身になってるからな(笑)、とりあえず今は!(笑)」
成田「僕らが今回、この4人のみなさんにお願いしたのは、この人たちとやったら、間違いなく自信が持てる舞台をお客さんに見てもらえる、と思ったわけで、それがどんな演目であっても舞台の上で精一杯ぶつかり合えたらと思ってるわけです」
そう。
演目や演出のことではなくて、一人一人の意識の問題ではないだろうか…。
技術は、もうあるのだ。
その先は、能の役者として、人として、どんな経験をどれだけ積むか。
そして、そこから何を得るか…どれだけ悩むか…。 |
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