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若手音楽家をとりまく現状(シンポジウム議事録)

 先日(1/14)にクレオ大阪中央で現在の大阪AISアーティストの演奏を聴き比べることの出来るコンサートとして「大阪AISショーケース」を開催しましたが、それに先だって「若手音楽家をとりまく現状」と題してシンポジウムをおこないました。約1時間のシンポジウムを文字に起こすと、とても長くなってしまうので、要点のみに集約しようかとも悩んだのですが、平日の17時からの開催ということで、ご来場されたお客様が少なかったので、来られていない方にもなるべくその場の雰囲気がそのまま伝わるようにと思い、録音に近い形で掲載することにしました。

 今回のパネリストは、2003年度、2004年度と継続して選考委員をつとめていただいている先生方の中からお2人、打楽器の北野徹先生、評論家の福本健先生、AIS選抜アーティストからは高田剛志さん、萬谷衣里さん、芳村雪さんの合計5名と、私が進行役として参加しました。

井内:本年度のAISのオーディションを先日開催しましたが、残念ながら「該当者無し」というオーディション結果となってしまいました。今年度のオーディションの講評と、昨年度、今年度とどういった基準で選考をされているかおきかせください。

福本:まずは私たちがオーディションで選ぶ際の基準を少し話したいと思います。
 最初に録音審査をしますが、その時には音だけを基準に判断していますので、オーディションの会場で演奏をしているのを見て初めて「あ、知っている人もいるな」といった状況です。特に昨年度は応募も多く、すでに関西でずいぶんと活躍されている方もオーディションで見かけたのですが、基本的には「これからより多くの大阪の人たちに聴いてもらいたい」と思える人を選ぶことを第一の姿勢にしました。ですので、すでに多くの人たちに名前を知られているような方はもちろん演奏レベルは高くても昨年度は選びませんでした。
 もう一つは、これは他の選考委員の先生方はどう思ってらっしゃるかわからないのですが、最近の演奏の傾向として、非常に技術的な水準が高くなっていて、難しい曲を間違いなく演奏する人は多いのです。このオーディションでも、録音審査の時にもオーディション会場でも技術的には非常に高いレベルにある人がたくさんおられました。ただ、音楽というものは機械的に正確というものではなく、演奏している人の持ち味、持っているものが聴く人に何らかの感銘を与えるかどうか、簡単に言うと音楽性が豊かであるかどうかです。それがない、ただ正確に早く弾いている方には、昨年度はお引き取り願いました。その結果、昨年度はかなりたくさんの方が受験したのですが、5組を選びました。選ぶ時にはこれから先演奏会をいろんな場所でやっていくことも考えて、例えば5人選んだ時に全員がピアノであると、公演として変化に乏しいので、バラエティに富んだ演奏家を選ぶこともある程度は考慮に入れました。だからといって無理矢理珍しい楽器を選ぶという意図はなかったのですが。
 今年は、昨年ほど多くはなかったのですが、そこそこの人数の応募がありました。昨年度選ばれたメンバーのオーディションだけではなく、実際のクレオや区民センターの公演を聴きにいって、どの程度の演奏をするのか確認をしたのですが、それに匹敵できるだけの実力の持ち主がいらっしゃらなかったので、本年度は該当者なしとなりました。

北野:福本先生がおっしゃったこととほぼ同じようなことになりますが、最近とみに気になるのですが、世の中が全てデジタルな世の中になってきていて、アナログ的な音楽が非常に少なくなってきている。非常につまらないことなんだけれども、すごい所にこだわりながら音楽をするとか。福本先生からお話がありましたが、メカニックの部分では皆さんすごく上手になっていらっしゃる、しかしそこには味がない。世の中がデジタル化されればされるほど、アナログ的な、こだわりの部分が我々芸術家には求められていると思います。去年も今年もデジタル的な演奏は対象外としました。
 去年選ばれた方を見ていると、まず一番に私自身が聴衆としてもう一度聴いてみたい。それ以上に、一緒にお茶を飲んだり、お話をしたりしたいと、演奏を通して人間的な魅力を感じることが出来る。それは年代、世代を超えて、すごくチャーミングな人間的な魅力を持ってらっしゃって、それが音楽を通して私には伝わってきたのです。それで去年5組の方を選ばせてもらいました。その後、私はなかなか予定があわずに、演奏を聴きには行けていないのですが、色々な所から話を聞くと、私が思っていた以上にチャーミングな演奏をなさっていると言うことで、非常に安心をしています。私は大学で教えていますが、レッスンの時に学生達に「私がまずあなたの最初のお客ですよ。そのお客を満足させないことには、いろんな方を満足させることは出来ない」と言っています。私はオーディション等に臨む時には同じような姿勢で臨んでいます。昨年選ばれた方はメカニックの部分もきっちりと押さえた上で、アナログ的な魅力を十分に持っていて、私がもう一度聴いてみたいと思える人たちで、選ばれた彼らは次代の日本あるいは世界の音楽支えていってくれる人たちだと自信を持って言えます。
 今年はと言うと、録音審査の時からもうひとつ光るものを持っている人が少なかったと思います。テープは音の裏側が何も見えないのですが、自分の音楽を録音するその時にもアナログ的なこだわりを持って録音している人と、そうではない人が録音を聴いても伝わってきます。そこには音楽にかけるハングリーさが現れてくると思います。「いい演奏をしたい」「演奏をする場があるのだったら何とかしてつかみたい」、何か場を与えてもらうのではなくて自分で作り出すんだというハングリーさは音楽家にとって重要だと思うのです。私は28か29歳の時に何もかも自分でやって、赤字を出しながらリサイタルをしたので、それから考えると今の人がとてもうらやましいと思います。しかし、こうやってサポートをしていく仕組がある時に、そのサポートを受けるチャンスをものに出来るかどうかを決めるのはその人自身です。そういうハングリーさを持ってもらえたならば、今年も何人か選ぶことが出来たのではないかと思います。オーディションの会場でもそういうハングリーさが、ちょっと足りなかったなと思いました。オーディションの会場に出て来た時に、いい演奏をするんだけれども、すでに芸術家で無い。私たち芸術家は、舞台に一歩出ると芸術家。そこで何かアートをしている、ということが求められるのです。だけど、オーディションの時に、ジーパンを履いて出てくる。そうするとやはりジーパンの音楽になるのです。そうではなくて、自分はこういう意図で、こうしている。すごい演奏家はバックステージとオンステージでは全然顔つきが違うなんていうことは、よく聞くと思いますが、その辺のハングリーさや、切り替えが出来るような人がここに(高田・萬谷・芳村を指して)並んでいるのだと思います。そのあたりが去年と今年の大きな違いだというのが、私の感じ方です。


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