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16 京都の夏の体感温度 5

《京都の暑い夏 Hot Summer in Kyoto》講師インタビュー Vol.8

                                     聞き手&翻訳:宮北裕美


 
  クルト・コーゲル (ベルギー/ブリュッセル)分析的かつ丁寧な彼のコンタクト&インプロヴィゼーションの指導は、あらゆる受講者に好評を博している。ニューヨークでダンスと建築を10年間学んだ後、拠点をヨーロッパに移し、パフォーマー、振付家そして指導者として活動している。ウルティマ・ヴェス、ローザス、ガロッタ、PARTSなどヨーロッパの一流カンパニーで指導を行っている。ヨガ、フェルデンクライス、ボディ・マインド・センタリング、ロック・クライミングなどの知識を活かし、より効果的な指導を探求し続けている。(提供:京都の暑い夏)
 


 今回のワークショップで面白かったことは何ですか?

クルト 広島と京都の講座全てを通して通訳(注:元木寿香さん)に恵まれていました。何をするか見せるだけではなく、受講者が自ら動くにはどうしたら良いかを理解してもらえたのではと思います。
 毎日ワークショップの最後には、受講者が私の誘導に従って動いてくれて、安全を確保したり、いつもと違う踊り方を身に付けるためのテクニックや、原則的なものも含めて特定分野への理解を深めてもらえたことに心を動かされました。コンタクト・インプロヴィゼーションの身体的なコツをただ習得してもらうだけでは面白くないので、彼らが今後も自ら探求し続けられるような方法を身に付けて欲しかったのです。例えば今回課題にした2、3の分野は、クラスの最後で踊ると彼らのやり方で再現されていたりするわけです。これらの特定分野は注意深さが必要な上、アプローチの方法が少し変わっているので、時には経験豊富なダンス上級者の方が切り替えができなくて難しいようですね。

 普通のアプローチとは何が違うのですか?

クルト パートナーワーク全てを2つの基本領域に分割する方法が一つ挙げられます。そのうちの一つがリーダー(導く人)とフォロワー(ついてゆく人)といいます。特徴は腕を使って相手を手伝ってはいけないことです。床で自分自身を支えたり、バランスを取るために腕をのばすなど、構造を明快にするためだけに腕を使わなければいけないのです。これを“インビテーション”と呼んでいます。相手を持ち上げたりするかわりに、誘導していることを体で知らせたり、どのくらい誘導しているかを合図しなければいけません。例えばお茶に誘われた時、あなたはキッチンに入って冷蔵庫を覗いたりしませんよね。招待してもらったことをただ受け入れるはずです。人を助ける時、助けられている人が自由であることは重要です。
 誘導する人は、構造や安定性やひとつのポジションを無理なく保てる方法を明快にするべきです。誰かを手伝うために、やりとりが中断されてしまってはいけないのです。招待を受け入れる人がバランス感覚や自分をどう取り扱うかを身に付けることも、とても重要だと思います。

もう一つがムーバー&パートナーといいます。ムーバーは動きを探し、パートナーは少しだけ影響を与えるという、異なる機能と役割を担います。パートナーはムーバーの為にいるとも言えます。動いている人を操作せずに、ただ触れるにはどうすればよいか、ということを主に行いました。ソーシャル・ダンスやタンゴ、バレエに至るまで、ダンスでは巧みに操ることを見せます。指で触りにゆくというよりは、触れているのが指だというだけなのです。相手にこうして欲しいと指を通して伝えるのではなくて、身体がどこにあるかを意識してもらう為に触れているのです。この一本の指を使ったやり方をone touch one impulse と呼んでいますが、受講者はこの方法も注意深く行い、すばらしかったです。

パートナーに触れると自己受容感覚が刺激されます。自己受容感覚(固有感覚)とは身体内部の状態を知るための感覚で、この感覚器によって空間における自分の存在を認識しています。グラスにぶつかりそうになった時に感知できるのも、寝ている時にも腕を曲げ伸ばしたり、手を動かしたりできるのも、自己受容感覚が働いているからなのです。
 自己受容感覚は情報を集めるだけで、それを処理しているのが意識なのだと理解しています。自己受容感覚は温度感覚や嗅覚と同様に一感覚器で、空間における身体の位置を示す働きをしていますから、体の右側を上にしたり、逆立ちしたり、横に傾くことができのもこのためです。one touch one impulseはこの自己受容感覚を高めるためのエクササイズになっており、受講者の感覚も高まっていっていました。一度の接触で感覚を研ぎすますことを何度も行うこのやり方で理解力を高め、受講者は何度もこの感覚を呼び戻し利用していました。とても良かったです。

 舞台での緊張をどう利用したらいいですか?

クルト パフォーマンス・テクニックを身に付けることです。今回のワークショップではコンタクト・インプロヴィゼーションの基礎に焦点を置いたのであまり教えることができませんでしたが、普段は教えています。どうやって静止したり、視線を集中させるか、エネルギーをどう導くか、意識をどう集中させるかなどの表現方法は重要です。

第2に、即興する際は精神集中の訓練が必要になるので、空間の4方向との関係や、他のダンサーや焦点との関係をどう意識するかを教えています。このように色々と難題がありますが、緊張を解決するために色々やっていると楽しくなってくるはずです。建築家と同じで、美しい空間を築くだけにとどまらず、電気系統や配管をどうするか、空間をどう循環させるかを考えておかなければなりません。観客の前での緊張を追いやって、ダンサーが没頭すべきことを持てるようになるということです。

この他、静止することも練習しています。今日禅庭で「閑」という字に出会いました。静けさ、ゆとりを持つという意味ですね。動作の間にある静止、間(ま)のことでしょう。私はこれを刺激と分割と呼んでいますが、舞台での緊張から逃げずに、ただ止まって、起こっていることを意識する方法ですね。

 なんだかとても哲学的な感じがしますが?

クルト とても実用的じゃないですか。哲学的でもあるかもしれない。でも哲学は必要だけれど、あまり助けにはならないですからね。まず静止を意識することがひとつ。あとは顔の位置や視線、どこを見るかなどを意識することは重要で、ちらちら見なくてもよくなります。何をするか、フォーカスの使い方、触感も役に立ちます。これらがテクニックですね。

 では舞台前にいつもやっていることなどはありますか?

クルト 舞台前に汗をかくのが好きなので、ウォームアップをたっぷりやっています。すごくよく汗をかく方なのですが、私には重要なことです。少し疲れる位の方がいいみたいですね。

 ダンス初心者への良いアドバイスですね。

クルト そう、ものすごく疲れるまでやること。5キロ位走るとか、めちゃくちゃ疲れたらいいですよ。というのは冗談で、エネルギーはちゃんと保っておかないとね。
 ダンサーはもう少し有酸素運動に配慮しないといけません。日本人のコンテンポラリーダンサーはこのところが少し弱いなと思います。身体構造や身体調整に対する意識が少し低い気がします。有酸素運動というのは心肺能力を高めるもので、ダンスは有酸素運動ではありません。
 5、6年前に医者からどんな有酸素運動をやっているかと尋ねられて、私は何のことか分からなかったのですが、その時に勧められたので、今は水泳をやったりや自転車に乗ったりしています。自転車なら1回1時間くらい、水泳なら1.5キロほど泳いでいます。水泳はダンサーに最適ですね。私は週に3回ほど泳いでいます。今はツアー中なのでできませんが。

 自分の身体管理はどうしていますか?

クルト ひとつは水泳です。泳いだ後は気持いいですよ。個人的な意見ですが、ダンサーは独自のウォームアップ方法を持っておくことが重要だと思います。私はピラティス、ジャイロトニック、ヨガを組み合わせたものを1年位かけて作り上げました。それぞれの要素をすべて取り込んで、美味しいミックスジュースみたいに混ぜたもので、毎日1時間位やっています。
 自宅にいつでも使えるウォームアップ・スペースを設けるといいですよ。私の場合、リヴィングルームの一角にマットを引き、ボールやラバーバンドなどでエクササイズできるようにしています。そこにあった植物を移動させて、壁に穴をあけて、クリップを埋め込み、ラバーバンド・エクササイズできるようにしました。独自のラバーバンド・エクササイズもあるのですよ。ダンサーはアスリートですから、筋力強化は大切です。身体管理を怠ると、ダンサーを全うできないです。

 どんなダンサーを良いダンサーと思いますか?

クルト 先ほどの話とつながりますが、トップレベルのアスリートであることです。身体管理と栄養管理に気を配る必要があります。喫煙は最低ですね。私も以前はタバコを吸っていましたが今はやめています。体にとっては有害です。
 身体的な点以外では、読書や、芸術全般で起こっていることに関心を寄せるなど、他の芸術分野を学習することは有意義だと思います。私は建築の勉強をしていますが、インスピレーションが湧きますよ。映画も読むことにつながるのでいいですね。
 独自の視点を持つべきであって、そういったことに疎いダンサーの時代は早く終わるべきです。ダンサーは最近需要が高くて、新たなムーブメントを起こしたり、創造力の源にしたいから、みんなダンサーを巻き込もうとしているんですよね。だから、ダンサーも色々な分野の知識を養ったり、ダンサー本人の感性を磨く作業が重要になってくるのです。なぜ踊っているのか、なぜそれが自分の踊りなのかを自問自答することが大切なのです。

 京都の暑い夏とかかわりをもったきっかけは?

クルト 2年前にツアー公演で来日したのですが、その公演にここの人とつながりのあるのミュージシャン、take-bowが参加していて、京都と大阪で一緒にパフォーマンスをやったのです。この時京都で3日間ワークショップも行ったので、森裕子さんと知り合いになり、私のワークショップが面白いということで今回フェスティバルに呼んでもらいました。ですから今回初めて暑い夏に参加したことになります。

 京都の暑い夏のユニークだと思うところはどういうところですか?

クルト アジアの美学や哲学がとても刺激的なのでとりあえず参加を決めました。もう一度日本へ行きたいなと思っていたので、今回の参加はとても楽しみでしたし、アジアや日本で教える時にはその土地の文化に呼応した方法を探るべきだと思っていました。
 日本のダンサーはコンテンポラリーダンスやパートナー・ダンスのスタイルを日本人独自のものにして習得してゆくところがすごいなと思います。だからヨーロッパやアメリカのコンタクト・インプロヴィゼーションやコンテンポラリー・ダンスをただ複製しようとするのではなく、日本のダンサーがこの独特の文化に確信を持ってゆけるよう、手助けをしたかったのです。
 先日坂本さん達のリハーサルを拝見しましたが、繊細で軽やかでとても美しいパートナーワークだったので、期待が持てました。このフェスティバルのユニークな点は、オーガナイザーがヨーロッパ、アメリカ、日本でムーブメントリサーチに携わる最高の講師陣を集めてフェスティバルを開催し、たくさんの生徒やダンサーに門戸を開こうとしていることだと思います。ヨーロッパやアメリカからこれ程多くの講師に来てもらうには、それなりの資金も必要ですから、このフェスティバルの存在や公的機関、その他後援団体からの助成無しにはやってゆけないでしょうし、オーガナイザーは時間をかけ準備してきたのでしょうね。

                                   (2006年4月26日 京都)



編集付記:今週でインタビューシリーズは終わり、来週はキッズクラスとビデオダンスのレポートとなります。ワークショップの合間をぬって講師にアクセスしてくれた宮北さん、藤田さん、そしてメンバーの奮闘にもかかわらず、フェスティバルの講師陣すべてのインタヴュー、アンケートをカバーすることはできませんでした。う〜ん。残念。ご協力いただいたみなさん、本当にありがとうございました!

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