log osaka web magazine index
日々是ダンス。踊る心と体から無節操に→をのばした読み物
文・写真
+ dance+編集委員会
dance+とは
ダンスを楽しむ研究サークル。情報編集のほか、ドキュメント、ビデオ鑑賞会などをとおして、ダンスと地域、ダンスと生活をつなぎます。

- 古後奈緒子(メガネ)
窓口担当。守備範囲は前後100年ほど。
- 森本万紀子
エンタメ担当。
- 森本アリ
音楽家/ガラス職人/グラフィックデザイナー/DJ/家具職人/映画助監督/大家/自治会会長/NPOスタッフなど。
- 神澤真理 NEW!
日常の中にある「おもしろそう」を発掘中。

記事へのご意見、ご感想、上記活動への参加に関心をお持ちの方はこちらへ→  danceplus@gmail.com


16 京都の夏の体感温度 5

《京都の暑い夏 Hot Summer in Kyoto》講師インタビュー Vol.7

                                     聞き手&翻訳:宮北裕美


 
  ディディエ・テロン (フランス/パリ)抑制された日常的な動作の中から、人間のおかしみ、狂気等様々なエッセンスを見事に表現する彼の作品は、ダンス界と演劇界双方から大きな注目を集め、世界中のフェスから招待を受けている。ドミニク・バグエ、マース・カニングハムに師事。'86年、フランスのモンペリエにカンパニーを設立。'96年、Villa九条山に滞在、禅を学ぶ。近年立て続けに「静岡春の芸術祭」、「利賀演劇祭」をはじめ、京都・東京でも作品の発表を行い大きな話題を呼んでいる。(提供:暑い夏)
 



 今回のワークショップで面白かったことは何ですか?

ディディエ 今年は肉体的にも精神的にもいつもと違う体験をしてもらいたかったので、ダンサーに新しい作品を創ってもらうかわりに、私が今創っているソロ作品の一部をやってもらいました。作品の準備方法は色々あって、流行もある。最近はインプロから何かを見つけてゆくやり方が主流のようなので、あえて振り付けを課したのです。やることが決まっている、それをどうすれば良いか。これやって、次これやってという感じでね。面白いでしょ、今までと違った姿勢が必要だからね。
 それに、今私が試していることをダンサーと共有したかったし、作品づくりで非常に実験的なことをやっているので、ダンサーをその実験に巻き込みたかったということもありました。動きを止める、そこからどうやって次の動きに移るか、どうやって退場するか、小さい動きをどうするか。こういう細かいことはとても難しいし、歩き方ひとつ考えることも面白いアプローチですよね。全員同じ動きをやってもらいましたが、そういう意味で一人一人にとっては実験的だったと思います。できあがった作品よりも再創造する過程が大切で、ずっと面白いですね。


 


 
 
 
 どんなダンサーを良いダンサーと思いますか?

ディディエ 心と体を上手くコントロールできる人だと思います。体はコントロールできているのに精神がついてきていない時があるように、これはとっても難しいことなのです。例えば今回ワークショップでやった動きには、プリエの状態からぱっと動き出すみたいな、細かい制限がたくさんありました。単純な動きだったのに、膝を曲げて立つようにしただけで、とても変な踊りになったりした。そこで少し変わった足の運びをしようと思ったら、そればかり考えていては駄目で、精神と身体のコントロールが必要なのですね。
 体を上手く操るのはもちろん大切だけど、心を落ち着かせることも重要で、精神を安定させる為には雑念が取り払われていないといけないと思います。集中するのも一つの方法です。心と体がひとつになって集中できるのが良いダンサーで、そういうダンサーはどうやって集中するかを見つけてるのじゃないかな。他の色々な事柄や緊張に左右されないで、精神が解放されているのが良いダンサーだと思うので、私は常に心と体のことを考えています。

 舞台での緊張をどう利用したらいいですか?

ディディエ とにかく集中力ですね。私の場合、ダンサーとして舞台に立っている時は一つの仕事だと考え、舞台で何をしないといけないかを明確にしておいて、それを実行しています。何かを証明しようとか、自分を表現しようなんてことはせず、ただ舞台でやるべきことだけをやる、ということですね。集中すると観客は気にならなくなります。
 ただ大勢の前で発表する時は不安みたいなものはあります。作品を好きになってくれる人もいれば嫌いな人もいて、途中で出ていってしまったり、逆によく理解してくれたり。観客全員に受け入れられる作品を創ろうとしているわけじゃないので、気にしても仕方がない。より細かい部分にまで集中するようにすれば、不安や緊張は感じなくなります。この集中力が続かないダンサーは、やり過ぎてしまって、結果的に面白くなくなってしまうのですよ。
 やっぱり集中力ですね。どう動いてどう止まるかというような、やるべきことをやる場所が舞台で、個人的なことをやる場所じゃないと思っているので、舞台で自分自身をありのまま出すという考え方はあまり好きではありません。だって日常生活の行動と舞台って全然別のことじゃないですか。

 自分の身体管理はどうされていますか?

ディディエ なんと言っても座禅です。体も心もリフレッシュされるので。毎日だいたい15分から45分くらいやっていますよ。
 初めて座禅を体験したのは1986年にフランスにいた時で、とても感動しました。座禅のことをもっと知りたくて助成金を申請してヴィラ九条山に来た程で、その時に禅寺で修行もしました。
 禅寺での修行はとても興味深かったです。ダンスによく似ていて、非常に緻密なのに一種のゲームのようで、時間がものすごく凝縮されています。毎日3時に起きて40分座禅を組み、10分程散歩をする、それを延々11回繰り返します。とにかく座り続けていて、食事の時も正座しないといけませんから、肉体的な違和感を覚えるのです。
 座禅はほとんど動きませんが、肉体的鍛錬として優れています。ヨガよりも座禅の方に強い繋がりを感じますね。身体、背骨、作品、ダンスなど様々なことに繋がってゆくと感じることがあります。座禅を行っている時は常に直立の状態なので、体がまっすぐ上に向かっている状態を強く感じるからかもしれません。ただお尻が辛いんですよね。そこを、座禅を組み雑念を払っていると何かが開けてくる。これが秘訣と言えますね。

 京都の暑い夏とかかわりをもったきっかけは?

ディディエ 最初に日本に来たのが1993年。鈴木忠志氏の招聘でミツイフェスティバルに参加しました。1996年に助成金を取ってヴィラ九条山に滞在した時、坂本さん、森さんと知り合いになりました。2000年にも鈴木氏が静岡のフェスティバルに招待してくれたので、その時坂本さんと森裕子さんに連絡し、京都を訪れたんです。翌年暑い夏と静岡のフェスティバル両方から声をかけてもらい、それからは毎年暑い夏と静岡に来ています。だから今は日本に来ることが多いですね。昨年は利賀フェスティバルにも参加しましたよ。鈴木忠志氏が私の作品を気に入ってくれて、サポートしてくれたのが大きかったですね。静岡と利賀で私の5作品全て上演している位ですから。昨年坂本さんや森さん達と創った新作「借家人」は東京でも上演されて、非常にいい関係を築けました。今ではたくさんのジャーナリストやプロデューサーに名前を知ってもらっています。

 京都の暑い夏がユニークだと思うのはどういうところですか?

ディディエ “私にとっては”ということに限れば、日本でやっているところです。日本の文化や人々は私にとって特別なんです。フランスとは全く違っていて、どこか違う星に来たのじゃないかと思うほど。また、茶道など、日本の文化には深く共鳴できることがあります。それと日本人は人の話をちゃんと聞いてくれるので、ヨーロッパとは違うなと感じます。
 「暑い夏」はたくさんの生徒が参加しているから面白いのと、毎年参加している生徒もいて、上達するのを見ることができていいですね。以前はそれほどワークショップは行わなかったのだけど、暑い夏をきっかけに、教える事が楽しくなりました。作品も見てもらえるようになり、私にとってもステップアップにつながったと思います。冗談をたくさん言うようにもなりましたよ。みんなすぐ反応してくれて本当にポジティブだからね。

                                    (2006年5月9日 京都)

page 1 2 next >>
TOP > dance+ > > 16 京都の夏の体感温度 5
Copyright (c) log All Rights Reserved.