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Books Archivesは「声」をキーワードに現代文学への開かれたアプローチを試みるウェブ放送アーカイヴです

 
Books Archives Vol.5
「吹雪の星の子どもたち」山口泉著(径書房刊/1984)から

《松明の広場》 に、チオマを責め立てる"プレシェンターレの奥様"とゼッコラ巡査長の声が響き渡っていました。山火事の嫌疑や、酒場での歌姫の仕事といった、その驚くべき内容に衆目があつまる中、とうとうチオマは語りはじめます。自然の中で、沢山の生きものたちを友に暮らしてきたチオマ。彼女が、《真冬の森博士》から名をもらった「紅い息をしたチオマ」であることを聞いた郡長さんとゴルノザ先生は、畏怖の感覚を覚えはじめます。




「吹雪の星のこどもたち」(山口泉著)を読みすすめていると
こころの中が砂地になっていくのがわかる。
細かい粒子の砂に、こころが砂漠のようになる。
そして、物語のことばがあたたかな霧雨のように降りそそいでくる。

登場人物の少女・紅い息をしたチオマは
こどもたちの『出発』を間近にした泥沼地帯で
「世界」について「永遠」について
そして、「いのち」について話し出す。
大人たちは面食らい、ある者は怒りだし、ある者は戸惑い
ある者は人生の記憶のなかにあった「永遠のいのち」を思い起こす。

チオマが語る。
いのちを持っている、ということは、弱さを持っているっていうこと。
お互いが自分をこの世界につなぎとめてくれている紐の細さを、弱さを
確かめあい、お互いの弱さをいたわりあったときに、永遠がはじまる。
ありようが変わっていくことが、永遠なのだと。

わたしは、こどもの頃から
世界と自分の関係をずっとさがしてきた。
幼いころは、何を問題としているのかさえ、わかっていなかったのだけれど。
高校生のときに、本書に出逢い、
「ああ、この本だ」と直感的に思い、この分厚い本にてのひらを重ねた。
そのときに、この物語の本意を理解できたとは到底言いがたいが
それからのち、ずっとチオマのことばがこころにあり
わたしは経験を重ね、世界と自分の関係をとらえ
とらえた上で、自分がどう生きていくのかを考え、態度として
日々を重ねる。
永遠がつねにはじまりつづけるように。