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銀河鉄道を遡る想い 西尾雅
初演(89年8〜9月、東京のみ、未見)と再演(91年8月、近鉄アート舘&新神戸オリエンタル劇場)を経て、12年ぶりの3演目。しかも、メインの中学生2人を除くキャストを総入替したWバージョン連続公演。同じストーリーをほぼ全劇団員総出演で演じるが、役柄違いで変化する微妙なニュアンスが興味深い。

夏休み、水泳が出来ずに特訓を言い渡された中学2年ヤンマとその友人が、小学生時代の代用教員に出す手紙を朗読する。小学校同窓の親友3人が、1人1日の出来事を次々に手紙リレーで話す。元代用教員は役者志望だが、今はケガで失職中。夏休み中の不思議な事件を綴る元教え子の手紙に、狂言回しの合いの手を入れる。

幽霊出没の噂が絶えない中学校の仲良し3人。カブトの父は彼女が生まれる前に死に、写真もなく彼女はその顔さえ知らない。泳げないヤンマは夏休み中もプールに通わされる。が、強制を嫌う彼女はプールの水を抜いて抵抗する。自由を求め規則づくめを批難する声は痛切。読書好きのアゲハは図書館通い。彼女らに対抗するのは、学級委員長ウスイケら担任に受けのいいグループ。思春期の群像描写が、忘れていた昔を呼び戻す。大人や先生そしてクラスの敵対グループとの葛藤。自分が何者とも知らず、認められず、ただ不安と期待渦巻く毎日をやり過ごす日々。キャラメルの芝居は、鮮やかにその日を甦らせる。それは、硬く閉ざされた感情を解き放つ力にやがて変わる。

学校に現れた男は、カブトの持っていた古いカメラで写真を撮る。が、不思議なことにその写真に昔の風景が写っている。男はウラシマタロウと名乗るが、実は死んだカブトの父ムロマチ、事故死の際、一緒にいたナナコは恋人ではないと妻に釈明するため一時現世に帰って来たのだ。が、妻アカネは信じない。ムロマチにとってナナコはただの友達、アカネへのプレゼントの買い物に付き合ってもらっただけだが、ナナコはひそかにムロマチを想っている。片思いに気づいてもらえないナナコも、また複雑な思いを抱く。交差する感情のもつれが、激高する言い合いに発展する。

不倫最中の死と夫を誤解し、閉ざされていたアカネの気持ちが、ついにほぐれる。既に死んでおり幽霊となって出現したムロマチを、写真に撮ることはできない。が、同じ幽霊のナナコが事故現場を写すことで、即死ではなかった父親のありし日が写真に残される。ついに親子を名乗らなかったが、妻が保存し、娘のものとなった古いカメラが真実を写す。父と出会い、カブトが大人へと成長する中2の夏。

時を経て了解される心がキャラメルのテーマ。妻の誤解を解くべく天国を脱け出し戻って来た夫、それをようやく受け入れる妻。それを多感な思春期の娘の視点で描く。観客への媚びとキャラメルを揶揄するのは簡単だが、カタルシスの涙も悪くないと私は思う。

本作は演劇特有の2重構造を取る。カブトの物語の外にある聞き手の元代用教員がもうひとつの視点となり、彼の心境が別のテーマを描く。カブトたちのいわば劇中劇の熱意に打たれ、元代用教員は再び役者の道を目指す。その決意に、高校教員と劇団の二股をかけたかつての作者自身が投影されている。自分の作品に自分が励まされる。観客として自分のために書く、その本音が大勢の共感を呼ぶ。

天国から不法脱出したムロマチとナナコは急いで天国へ戻らねばならない。帰る列車は銀河鉄道のオマージュ。銀河鉄道にも死と生を行き来する上り下りがあるらしい。幽体となって現世に戻った彼らは、天国からいったん乗り込んだことになる。死を運命として受け入れるとしても譲れないのは伝えたい思い。そのために銀河鉄道の逆走もいとわない。それは、宮沢賢治に敬意を払いつつ、新たな道を模索する成井の決意表明なのかもしれない。

Wバージョンの違いを、メインキャストのみ記すと

                     ドルフィン ビートル  再演
カブト                 藤岡宏美  ←     伊藤ひろみ
ヤンマ                 大木初枝  ←     石川寛美
アゲハ                 岡内美喜子 中村亮子  *
元代用教員クサナギ           西川浩幸  岡田達也  西川浩幸
ウラシマ(実はカブトの父ムロマチ)    細見大輔  大内厚雄  上川達也
ムロマチの友人ナナコ          前田綾   小川江利子 大森美紀子
カブトの母アカネ            岡田さつき 坂口理恵  遠藤みき子
                     (*岡田さつきと町田久美子のWバージョン)

Wバージョンを比べればクサナギ役を初演、再演そして再々演と演じた西川率いるドルフィンチームが圧勝。話の聞き役そして狂言回しがどれほどの難役かあらためて知らしめる。

キーワード
■再演 ■宮沢賢治 ■友情
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