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幻想で紡ぐリアルな事件簿 西尾雅
連続射殺犯として死刑を宣告された身ながら、数々の著書をものして獄中からも資本主義社会を撃ち続けた永山則夫。残念ながら、同事件を題材にした鐘下辰男の「tatsuya」は未見。あるいは山崎哲、坂手洋二なら事件が持つ社会的意味を求め、さらにリアルかつハードな切り口で迫るところだが、あくまで演劇の虚構性を生かし手作りの妙味で膨らますが大竹野正典。せつないダイナミズムで主人公の内面を掘り下げファンタジーに仕立てて墓碑銘を刻む。

練れた演出とこれ以上ないハマり役のキャスティング。永山則夫を風太郎、川田陽子の2人1役で演じて恐ろしく効果的。沈着で怜悧なイメージの女優・川田をピュアな少年時代の則夫に配し、百戦錬磨の芸達者・風太郎に迷い苦悩する成長後の則夫を役づける。事件前と後、希望と絶望、無垢と汚濁、あまりに対照的な2人にひとりの人間の実像を対比させる。少年の純粋な魂が、家族や社会に押しつぶされ、ついにはおのが手を汚し破滅する現実の残酷さ。その後悔やトラウマと、獄中で新たな武器として得た思想と希望がないまぜとなり、つかの間の夢へ彷徨い出す。男(風太郎)を先生と頼り、同志と慕ってまとわる4人の男たち。実際には彼自身が射殺した被害者が、妄想の中では反転し社会革命に目覚める契機を与えた殉教者そして熱心な則夫信者と化す。が、それこそが忘れられない痛恨の過去その亡霊の象徴、湧き出す希望そして未来に立ちはだかる障壁となる。

極限の貧しさの中、若さだけが少年(川田)の財産。海に憧れ、希望を抱き、輝くばかりの彼がしだいに色あせる。実家に逃げ帰った母(後藤小寿枝)に置き去られ餓死寸前まで追いつめられた幼少期の喪失感、可愛がってくれた姉(藤井美保)が貧乏ゆえ恋人に絶縁され気がふれた破談への怒り、中卒後集団就職で都会へ出るがどこにも受け入れなかった無念。貧乏や不平等、矛盾に満ちた社会への怨念がほとばしる。獄中での更正を経て理論武装することで、社会への怒りは増幅する。自分が生きたいという想いと他人の生命を奪ったことへの慙愧がせめぎあう。ときに自身の思想に傲慢になりながらも不安と罪悪感に震える。

自在に時空を超え、関係者が証言する則夫の内面。分裂した過去と現在、2人の則夫に共通し変わらないのは孤独だけ。彼にとって世界は、終生自分を拒否する巨大な壁のまま。憧れた南の海をめざし不法乗船を試みるが、身を隠した船上で激しい船酔いと脱水症状に襲われ挫折する。帰るべきは、あれほど嫌っていた故郷・網走、その果てに広がる冷たい海しかない。袋小路に迷い込んだ彼は長い時間をかけて母なる海と再会し、還るべき居場所はこことようやく知る。

キーワード
■犯罪
DATA

同公演評
音楽で昂まる相乗効果 … 西尾雅

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