log osaka web magazine index
text
+ 源甲斐智栄子

上方歌舞伎塾 出身俳優のこれから

 私の所属する関西・歌舞伎を愛する会でも、上方歌舞伎塾のお稽古道具などを寄贈するため、会員や関係各位が多くの支援寄付金を寄せて下さいました。
 支援寄付を募るにあたっては躊躇する声もありましたが、支援寄付下さった方々に研修発表会や卒塾公演のお席をご用意し、始めから上方歌舞伎塾出身俳優の成長過程を見守って頂ければ、塾出身以外の脇を勤める俳優さん達の芝居もこれまで以上に関心を持って頂けるのでは?と、相乗効果までも考えると、支援活動はただただ寄付を募るということだけに留まらないはずです。私自身、あの時期から自分がどうしたスタンスで歌舞伎と関わっていきたいかがはっきりしてきたような気がします。
 自分のことはけっこう後先考えずに思いつきまかせなのですが、好きなものに関しては、「これがこの先どうなるのか?」「どう繋がるのか?」「今、将来の何のためにこれをしようとするのか?」と結構慎重に考えてしまいます。そういう視点で物事を見ると、今は良かれと見えることでも将来のためにするべきではないことも分かるような気がします。

 お芝居探検隊の第10回では上方ゆかりの役者さん達の墓碑や足跡を訪ねますが、名優達の数多くが門外出身者からも輩出されています。そうしたチャンスはその都度名優達にとって大きな試練だったはずです。芸能の世界というのは「努力」とか「好き」という言葉だけでは補いきれない厳しい世界ですし、だからこそのスターでしょう。
 歌舞伎ファンを自認する私にとって、上方歌舞伎塾出身の俳優さん達の今後はとても大切なものです。「賢明な支援者とは何か?」を常々考えて行動したいと願っています。
 上方歌舞伎塾出身の役者さん達がまず勉強会でよく出来る、これも大切です。しかし、その先がもっと大切で、本公演で必要な役者さんになって欲しい・・・これこそが何十年後かに彼らが行き着く先であって欲しいと願います。彼らは、先生方がそうした願いを持って考えられたカリキュラムで2年間学んでこられたのですから。

 

歌舞伎ファン したいこと出来ること

 前に「どんなものでも裾野」っていうのを書かせて頂いたことがありますが、上方歌舞伎塾の出身者、また、塾出身者以外の方でも歌舞伎が好きで、歌舞伎界に入ってこられる若い方達は、これからも歌舞伎が好きで見続けたいファンの私にとっては、言葉が悪いようですが、今は役者さんの大切な裾野です。
 昔と違って、今は役者の仕事も歌舞伎以外に映像、商業演劇、他いろいろと数多くあります。その中、歌舞伎の世界は始めから中央に立てる可能性がナイに等しいような世界なのです。それでも歌舞伎の世界に入られた若者の歌舞伎への思いや、大事な息子の選択を受け入れられた親御さんのお気持ちを考えると、これから先、裾野が裾野でしかありえないシステムであり続けたなら、この裾野が広がる可能性はいよいよないでしょう。
 御曹司の方は小さい時から優れた環境で英才教育を受け、凄い役者さん達と同じ舞台を踏むという経験を積んでこられた人だから、門閥に生まれた人が幹部になれるのも当たり前なのかも知れませんし、歌舞伎ファンが自分の大好きだった俳優の面影を息子や孫である俳優に見ることが歌舞伎の楽しみの一つである以上、血が重んじられるのは当然なのかも知れません。
 でもやっぱり、今の時代においても、中年(10代以降)から歌舞伎の世界に入られた方でも、魅力や才能を感じる役者さん達はいるのです。
 役者さんに対してよかったことを褒めるのは簡単ですが、舞台で気になったことは言いにくいものです。好みのタイプにへばりつきたいファンもいれば、つまらないと思えば何も言わずに離れてしまうのもファンで、歌舞伎が伝統芸能といっても芸能であり人気稼業である限り、役者さんは将来のために色々な人と関わりながらも自身を見失わずいるのは大変な事かもしれません。

 私達ファンがこれからももっと歌舞伎を楽しみたいと本気で願うのであれば、脇や勉強会で実績を重ねる魅力ある役者さんにももっともっと気づいて、気づいたのならば、その持ち味を本公演でも見られるよう、押し上げてあげるための力添えを少しでも出来れば、それはこれから先の歌舞伎の発展のため、裾野を広げるための一助となるのではないでしょうか。
 上方歌舞伎の将来を占う意味でも、塾出身俳優の今後の活躍には大きな期待を寄せています。

<< back page 1 2 3 next >>
TOP > 溜まりことば
Copyright (c) log All Rights Reserved.