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曖昧な社会人になるための働き方思案
執筆
+ 岩淵拓郎
美術家・執筆家・編集者。
メディアピクニック
'73年、兵庫県生まれ。関西を拠点に、主に文字を使ったマルチプルピースやインスタレーションを制作。また98年にオフィス「メディアピクニック」を設立、雑誌や新聞での執筆、編集、各種コンテンツプランニングなどメディアにまつわる業務を行う。'04より北区南森町で住居用マンションを使ったクリエイティヴワークスペース「208」主催。
10月には天王寺区應典院で個展。くわしくはこちら


第3回 プロの仕事とプロでないシゴト(後半)

■「プロとしての社会性」と「それ以外の社会性」

私の友人になかなかの《男前》がいる。男前は某中堅印刷会社の社員で、社内のシステム管理を任担当している。ある週末、私と男前が小さな居酒屋で晩飯を食っていた時、男前の携帯電話に会社から電話が入った。男前の応対から推測するに会社のネットワークがトラブルを起こしたため休日出勤を要請されているようだったが、それに対して男前は何食わぬ顔でこう言ってのけた。「会社のシステムより自分の息子と遊ぶ方が日曜日の優先順位は高いですね。」彼はその少し前に前妻と離婚し、子どもを自分の両親に預けている。

今回も引き続き「プロとしての社会性」と「それ以外の社会性」についてである。「プロというの社会性」の上にのみ成り立っている仕事の脆さと弊害については前回で述べたとおりだ。そしてまた「それ以外の社会性」を持ちながら仕事をすることの重要性についても触れた。それでは実際に「それ以外の社会性」を持ちながら仕事を行っていくとは具体的にどういうことだろう。また、それはどのように実現可能であり、「プロとしての社会性」の部分とどのようにバランスを取っていくべきなのだろうか。冒頭のエピソードのことを考えると、それは極めてハードルの高いことのようにも思える。おそらく誰もが男前のような振る舞いが出来るほど男前ではないからだ。



■「それ以外の社会性」を主張すること

男前についてもう少し書いておくと、男前は現在の会社が本格的にデジタル化する際に小さなシステム会社から引き抜かれるかたちで数年前に入社した。あくまでも男前談ではあるが、現在機能している社内システムの全ては男前によって作られたとのことである。そのことを考えると男前が社内である種特別な立場にいることが想像できるし、だからこそ仕事と家庭を両天秤にかけることができるということも言える。もし仮に男前が正攻法的就職活動を経由して入社した新入社員であったなら、そのように振る舞うことは困難だったはずだ。しかしここで重要なのは男前の立場ではなく、むしろそれに至るまでの経緯である。男前はおそらく入社した当初から、その鼻持ちならない態度で「それ以外の社会性」を上司や同僚に対し主張してきたのだろう。

幸いにもそういった事例は、私の周りに少なくはない。例えば、IT系企業に勤務する知人は、実は知る人ぞ知るアンテナ系の《ブロガー》だ。ブロガーはブログを通して得た情報や人脈を会社の業務にうまくフィードバックさせることによって、まるで会社員らしからぬ自由を確保している。また、三度の飯よりもフランスが好きというフリーデザイナーの《フランス好き》は、毎年夏に1ヶ月ほど事務所を閉めている。独立当初はそれが原因でクライアントに逃げられたりといろいろあったようだが、今となってはフランス好きのバカンスは関係者の間では有名な話であり、イヤミのひとつふたつ言われることはあるにせよ、フランス好きの仕事はなんとか順調に回っているようだ。彼らは、意図的にせよ無意識にせよ、「それ以外の社会性」を長い時間をかけて周りに知らしめてきたという点において共通している。

仕事という文脈において「それ以外の社会性」を周囲に知らしめていくのは、われわれの多くが置かれている現状を考えるとかなり面倒臭いことだ。前回も書いた話だが、仕事において実際に求められるのは「プロとしての社会性」であり、極論から言うと「それ以外の社会性」はどうでもいいということになっている。もう少し言及すると、そういう暗黙のルールのようなものが仕事の現場にはミチミチに満ちていて、実際に誰から何を言われるまでもなく、いつのまにかルールを体得できるようなシステムなり力がそこには働いている。そんな中で「日曜日は子供と遊びます」だの「今日はオフ会なので残業しません」だの「8月いっぱい休みます」だのと言ったところで、普通は相手にされるはずもない。男前にせよブロガーにせよフランス好きにせよ、彼らが現在の状況を作り上げることができたのにはそれなりの時間と労力、またそれなりの才能が必要だったはずだ。おそらく彼らは「それ以外の社会性」と同時に「プロとしての社会性」についても人並み以上に知らしめてきたはずである。

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