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+ 徳山由香
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国立国際美術館非常勤学芸員などをへて、コンテンポラリーアートの研究、企画、運営に携わる。
2005年10月より文化庁在外研修によって、フランスにて研究・研修に励む。
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+ 田尻麻里子
+ ピエール・ジネール
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CCA北九州 |
CCA北九州は、博多と小倉の間、かつて製鉄で栄えた街、八幡に、1997年5月に開設された北九州市の助成を受ける非営利の公的学習・研究機関である。
CCAの活動を特徴付けると、「リサーチプログラム」における研究、「プロジェクトギャラリー」における作品の発表、「アーティストブック」によるドキュメントの3つの機能が挙げられる。それぞれを具体的に説明すると、リサーチプログラムは、国内外の若いアーティストやキュレイトリアル・ワークに携わる人を対象として募集し、受講生は、国際的に活躍しているアーティストや美術研究者といった講師によるセミナー、ディスカッション、ワークショップなどによる交流を通じて、アートに関する思考を深めると同時に、プロフェッショナルな能力を身につけるという学習的プログラムである。一方、プロジェクトギャラリーとアーティストブックは、リサーチプログラムに講師として招かれたアーティストによる新作の発表の場としてとらえられ、アーティストは、レジデンス期間中にギャラリーでは空間を占める一時的な作品を、アーティストブックではドキュメントとしての機能を併せ持つモノとしての作品を制作、発表することになる。
このような日本国内でも類を見ないプログラムを可能にしているのは、ディレクターの中村信夫、プログラムディレクターの三宅暁子の両氏のもつネットワークと実行力にほかならないが、それにしてもなぜ北九州で、という問いはあるかもしれない。今回対応して下さったCCA事務局次長の戸島さんからうかがった、背景となる北九州の美術事情−1987年、地域住民による「国際鉄鋼彫刻シンポジウムYAHATA'87」の開催、これを受けて、1989年から7年間、教育的プログラムとして「現代美術サマーセミナー・イン・北九州」という1週間の現代美術講座を開設−を考えれば、自然な流れとも見受けられる。とはいえ、開設から6年目を迎えて、北九州の街の美術がとくにCCAを中心として活発な動きをしているわけでもなく、ここで目指されているのは、北九州という地域の固有性よりもむしろ、国際的なアーティストの招聘とその成果によってKITAKYUSYUという地名と場所の記憶の集散、すなわち「欧米から見れば東京も北九州も同じ」という匿名性に焦点があてられているといえよう。
しかしながら、CCAから提供される情報とはすこし違った角度から視線を投じると、そこからはうかがいしれない動きが見えてくる−リサーチプログラムに参加した若いアーティストやキュレイター達の活動である。例えば今回のレポートにもあるN-markの武藤勇さんはCCAの第一期生で、彼らの活動ミーティングキャラバンに方々から参加したメンバーや各所訪問先には、CCAで学んだ/にいた人々のネットワークから拡がっているようだった。
どちらかといえば縦の繋がり、地域性が強い芸術系大学や文学部の美学・美術史系に対して、CCAの卒業生は、日本全国、世界各国から、集まりそして旅立っており、さらにまた新しい仲間をつくっていく。このネットワーク形成力はおそらく、CCAに行ってみよう、という彼らアーティストの最初のアクション、そしてそこで培った思考と感覚、同じものを共有できる仲間を鋭く嗅ぎ分ける嗅覚からなるものだ。そうした契機を与えていることこそが、実はCCAの誇るべきものともいえるのではないだろうか。
(徳山由香 取材:09/09/2003)
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