国立国際美術館非常勤学芸員などをへて、コンテンポラリーアートの研究、企画、運営に携わる。 2005年10月より文化庁在外研修によって、フランスにて研究・研修に励む。
+ 田尻麻里子
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+ ピエール・ジネール
N-mark は台風の中、広島から北九州へやってきた。 N-mark は、武藤勇さんと野田利也さんという二人のアーティストを中心としたオーガニゼーション。日本列島を縦断してアートスペースを廻り巡り、情報を集め、伝えるというプロジェクト、ミーティングキャラバンを展開し、今回の取材現場となった北九州のギャラリーSOAP前夜のキャラバンのミーティングは広島県灰塚にあるPHスタジオの「船をつくる話」の現場で行われていたのだ。筆者がお話をうかがったのは、N-mark 主催者の一人、ムトウさん。 N-mark は、1998年に結成、翌年には春日井市神領にアートスペースをオープン、展覧会、映画、パフォーマンスなどの活動の場を1年間運営。スペースを失った後もオープンミーティング等の様々なプロジェクトを展開、2002-03年にかけて、名古屋市港区で再びアートスペース「KIGUTSU」を運営。場を主体として発信していくプログラムから、プログラムを主体として発信していくプロジェクトへと、活動を拡げている。彼らの拠点である名古屋において、大都市としてそれなりに条件が整っているはず−県立、市立の美術館があり、現代美術のギャラリー、オルタナティヴスペースがあり、美術系の大学があり−なのに、それぞれがリンクせずうまく機能していない、という歯痒い思いが、N-mark を場所に限定されない行動に駆り立てた。 その際たる例が、今回のミーティングキャラバンといえるだろう。2003年6月から7月にかけてN-mark は、日本国内約20ケ所のアートスペースへ赴き、オープンミーティング−誰でも参加可能なミーティング−を開いた。参加者総数、延べ600人前後。ミーティングキャラバンという活動を端的に言い表すなら、情報の流通と思考の場の旅による共有といえるだろう。美術館のような公的な機関やコマーシャルギャラリーと違って、オルタナティヴと呼ばれる小さなアートスペースや組織は、情報を発信する手段は限られているし、情報収集、ディスカッションもローカルな範囲内に限定されることが多い−そんな各地のアートスペースの情報をN-mark が集め、次の場所へと伝え、またこのミーティングを現地のあらゆる人に開放することによって、思考と議論の場を共有する。さらにミーティングキャラバンは、希望する参加者には、キャラバンに同乗して次の開催地で自らプレゼンテーションする機会を提供する。今回のギャラリーSOAPでのミーティングには、東京からアーティストの藤川悠さんがキャラバンに乗ってやってきており、墨田区東向島の空家にアーティストが自然発生的に移り住み、様々なイベントを開いているという興味深い状況を語ってくれた。 北九州でのミーティングでは、各地のアートスペースの興味深い活動の紹介があった後、ムトウさんがかつてCCA北九州に在籍していたということもあって、この5-6年間にわたるN-mark の活動とSOAPの活動を振り返りつつ、現在の美術界の状況を考えるという貴重な機会をもつことができた。両者に共通していえることは、日本の脆弱なアートシーンの中で、なおかつ地方にいながらアートの活動をしていくという前提を正面からとらえて、決してその中で閉鎖しない、外への経路、ネットワークを確実につくっていこうとしていることである。ムトウさんの「アートシーンのあるところに行くか、あるいは、自分でシーンをつくるかという選択肢の中で、後者を実践している」という言葉に、その強い意志がうかがえた。たしかにアートを志す多くの人が、東京へ、ニューヨークへ、ヨーロッパへ向かうのに対して、いまここで可能なことを、決して足下ばかりを見るのではなく、繋がりうる外へのアクセスをしっかり確保しながら活動することは、孤立に陥らないための非常に有効な手段といえるだろう。そして最後に、これもムトウさんから−自らへの問いかけかもしれないが、アートスペースを廻ってみたけれど、「結果としてのアート(モノ)」がまだ非常に少ないということ、興味あるオルタナティヴな活動はあってもモノがないという切実な問題として提起された。たしかに、秀でて優れた表現を眼にすることは稀な経験かもしれないが、一ついえることは、彼らからこうして思考の場、議論の場を提供されることによって、私たちは自他の批評の時間をもつことができたということ、そしてその後はまた各人が持ち帰ってこれをどう育てるかという各々のモチベーションにかかっているということだろう。このようなディスカッションの場を通して一人でも多くの人間が、心の眼を養い、培うことができれば、N-mark の活動は、私たちの時代の表現のために、すくなからず貢献しているといえるのではないだろうか。
(徳山由香 取材11/07/2003)
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