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+ 徳山由香

国立国際美術館非常勤学芸員などをへて、コンテンポラリーアートの研究、企画、運営に携わる。 2005年10月より文化庁在外研修によって、フランスにて研究・研修に励む。

+ 田尻麻里子

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+ ピエール・ジネール

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PROFILE
PRAHA

札幌にはプラハがある。正式にはPRAHA Projectという9人の建築家、アーティスト、デザイナーらによってアートの実験と環境作りを実践する計画(集団)で、彼らが拠点とする、札幌市内の閑静な住宅地に立つ建物の名前をPRAHA(プラハ)というのだという。代表を務め、実質PRAHA Projectを立ち上げた本人で、建築家の大橋拓さんに、窓の外が吹雪く2月の日に話を聞いた。

PRAHA

PRAHA Projectが活動を開始したのは1998年2月、建築の作品を発表していた大橋やアーティスト達が、既存のギャラリーでの限られた発表方法に飽き足らず、自由に実験的な表現ができるような場所を求めたことに始まる。当初地元アーティストの共同アトリエであったPRAHAを拠点として集まった4人は、個々の活動にとどまるのではなく、集団として活動することによって、より広範な情報発信や活動が実践できるという可能性に気付き、これに着手した。建物は時を経て徐々に改修し、現在は展示などに用いられるフリースペースとミーティングスペース、そしてアーティストのための居住・制作可能なスタジオをもつ。

PRAHA
PRAHA フリースペース

札幌、道内から

こうして発足から既に6年を数えるPRAHA Projectの活動は、展覧会、レクチャー、ワークショップと多岐にわたる。PRAHAの内外で繰り広げられるその行為を、具体的に見てみよう。

98年のPRAHA Project結成後程なくして行われたのは、札幌に関わった 10人のアーティストによる3ヶ月間にわたるリレー展「PRAHA10」、そして札幌の各美術学校に呼びかけて実現した「美術学生によるディスカッション」である。

2003.6.7(sat)
『腕に覚えあり』〜札幌美術機関生の美術討論会〜
ゲストパネリスト
小田井真実(アートディレクター/S-AIR)
谷口顕一郎(凹み研究者/PRAHA Project)
吉崎元章(札幌芸術の森美術館学芸員) http://www.artpark.or.jp/
梁井郎(北海道美術ネット主宰) http://www5b.biglobe.ne.jp/~artnorth/

これらによって、札幌の美術に関わる人材を発掘、また美術をめぐる現況の把握を試みた彼らは、札幌市内の現代芸術ギャラリー/教育機関 CAI/現代芸術研究所や、1999年から始まったS-AIR 札幌アーティスト・イン・レジデンス・プログラム、さらに2002年に帯広で行われた現代美術展デメーテルなど、札幌市内の美術関係機関、関係者、北海道内で起こり得るアートの現場と密接に関わり合いながら活動の範囲を拡げ、内外のアーティストのレクチャーや展覧会を精力的に開催する。
そうしたなかでも、2002年、札幌市内のギャラリーTemporary Spaceとの共同企画によって行われたロジャー・アックリングの滞在制作は、30代前後のPRAHA Projectのメンバーの行動力と、上の世代に属するTemporary Spaceの中森敏夫氏の経験知とが信頼と協力のもとに存分に発揮され、北海道という土地の風土のなかで美しい形で結実したプロジェクトといえるだろう。

2002414
ロジャー・アックリング滞在制作

道外、海外へ

こうした協力関係は当然外へも繋がっており、S-AIRの滞在アーティストであった磯崎道佳との共同企画による「リレーレクチャー4000万キロ」では、福岡、札幌、東京からアーティスト、アートマネージャーらを招いて、2000年から01年にかけて連続レクチャーを開催、アーティストを移動するするものと捉え、地域の内外でのアートの可能性を探る。このレクチャーは一方的に受容されるにとどまらず、札幌のアーティストが福岡で発表の機会を得たり、また講師として招かれた北九州のSOAPの宮川敬一から紹介を受けたLevel 1との交流が始まるなど、いくつかのプロジェクトが生まれたという。

2001826
『PRAHAゼミ03.蔡國強』

PRAHA Projectの企画実現の場は、さらに海外にまで求められる。海外持ち込み企画とでも呼ぼうか、海外の美術機関でのワークショップなどの企画を、札幌で出会ったアーティストの紹介などを経ながら直接交渉し、実現するものである。2003年11月にはフランス、グルノーブルの美術学校にて、大橋とアーティストの白戸麻衣が、同校の学生を対象にワークショップを開催した。内だけの活動に充足して、ややもすれば閉塞的な空気に圧されるのではなく、こうして外へ出て新しい発見をし、経験を積むことから、また次の新しいネットワークへと繋げていくための、果敢な実践行為といえるだろう。

2003116
『フェルナンデス・ショバルへのオマージュ』
〜ぬり絵人形マイちゃんとマイちゃんハウス〜
(グルノーブル、フランス)

実のところ、大橋が率直に語るように「繋がりうる可能性には、全て手を伸ばす」というほどまでに開かれた態度の裏には、この地で同時代の実験的な表現活動を展開していくことは、それほど容易いことではないという状況が横たわる。美術専門の大学がないこと、行政、企業による支援の基盤が整っていないことなどの理由があるが、なかでも顕著なのが、芸術活動に興味を示し、取り組もうという人口の圧倒的な少なさが挙げられるという。

日常へ

そこで、現代美術に関心を持つ若い世代を開拓するための試みが、PRAHA Projectから美術を学ぶ若者達に企画を提案し、アドバイスする形で行われた「Art Net(学校めぐって出張アート)」である。札幌、帯広の高校の校内に、大学生を中心とした美術学生や若い美術作家が自分の作品を展示するというもので、世代の近い若者達が作者、鑑賞者として学校内という日常的な場所の中で出会うということによって、同時代の表現としての美術を身近な距離で捉え合うことのできる、貴重な機会であったという。以下に大橋のテキストを引用しよう。

高等学校側が期待していた“非日常な刺激”に対して、『Art net』が志向していた、「高校生にむけて美術は身近な所にあって、もしかしたら校則のなかにも、可能性があるかもしれないよ」と、優しく問いかけて行く様な“美術の日常化”のギャップは、大きかった。

2001.6.18〜23
Art Ner 札幌開成高等学校
「学校めぐって出張アート」

誤解を避けるために断っておくが、大橋は文章中、「パブリック(=無害かつ安全でなくてはいけない)の概念」を再考すべく、可能な美術の場について論考しており、美術を日常化=平易に理解しやすいものにすることによって受容や普及を高めることを望んでいるわけではない。「Art Net」によって示されたのは、むしろ逆で、日常のなかにおける疑問や異和の中に美術を見出すことを提案するためのアプローチ、すなわち美術の領域を、特別とされる場から日常の場へと押し開き、侵出していく行為であるといえよう。私たちはここに、「アートの実験と環境づくりを実践する」というPRAHA Projectの活動の本質を見出すことができる。

アートの環境の開拓

大橋はいま、自分たちの活動の拠点とするこの建物PRAHAで過去に行われてきたアートイベントを回収し、記録する作業に取り組んでいる。現代の実験的な芸術活動の実践者として、自分達の住む土地を信じて、この地でアートに取り組むという決意からくる自然な行為と捉えられよう。土地の記憶を過去の他者のものとして追いやらず、自らの現在と繋げて生きていくこと、それは、表現が真の強さをもちうるための糧となるだろう。

PRAHAミーティングルーム「みんなのへや」
PRAHA内の建築設計事務所のスペース、先人達の痕跡が残る壁。

個々の活動を繋げていくことによって展開していくPRAHA Projectの活動は、いずれも、札幌のアートシーンを地道につくっていくための行為であり、私たちのアートシーンを確かなものにしていく行為でもある。それはすなわち、自分たちがアートを続けることができるような環境づくり、言い換えるなら、アートが生き抜くための境界線を、開拓していく行為だといえるかもしれない。

(徳山由香 取材:07/02/04)

北海道、千歳の空より

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