Part1
Introduction
消えゆく建物の思い出に、建築物の廃材を使ってウクレレをつくるという「建築物ウクレレ化保存計画」が2000年より進められている。主宰しているのは今回のゲスト伊達伸明さん。
今までに旧明倫小学校(京都芸術センター)や、春日丘高校、師団長官舎、古い三条大橋や廃業になった銭湯の扉などから個人のお宅まで19軒の建築物がウクレレ化され、京都のヴォイスギャラリー、アートスペース虹、水戸芸術館において3回の展示が行われている。この「建築物ウクレレ化保存計画」はうわさを聞き付け興味を持った人が家を取り壊す時発注するケースと、伊達さん自身が新聞などで見つけてウクレレ化を打診するケースと二通り。関西のみならず、広島や関東方面からの発注もありウクレレ化は全国化しつつある。
一つずつ表情の違うウクレレがそれぞれの制作記と建築物の写真とともに整然と展示されていて一見、楽器店のようでもあるこの展覧会では、ウクレレ職人の人ですか?と聞かれることもよくあるらしい。しかし彼は造形作家で、もちろんウクレレは美術作品でもある。といって、音が適当だったりということは決してない。制作過程では音にも念入りに神経を注がれ、楽器としても充分に一人立ちできるものである。そして何と言っても世の中に一つしかない特別なウクレレなのだ。ましてや、持主の思い出が詰まった建物の肌合いの一部がウクレレになっているとなれば、それはもうその人の宝物となることは間違いないだろう。
発注者がいて出来上がったらその人の元に返っていくというしくみは最近の美術作品としてはめずらしく、過去を振り返ると、昔の西欧の肖像画や日本で言うと襖絵や、大名のお姫さまの嫁入り道具などが思い出される。しかしこのような権力の誇示ではなく、ウクレレの場合ば発注者と制作者は対等の立場でありその両者それぞれの思いが一つの作品として成立している。このように以前とはまた違ったカタチで発注芸術が成立しているこのプロジェクトは美術史的にもおもしろい展開だと注目している。
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