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何故に?故に?
 私が歌舞伎に使ったお金と時間・・・それを考えるとついいじましく切なくなる。

 しかし、私が歌舞伎に使ったお金と時間・・・それによって培われたファンとしての目を信じるのなら、“上村吉弥”という人は、素晴らしい役者さんだと思う。

 歌舞伎の世界で、良いお役をして、皆さんに知って頂いている様な役者さんは、“華”という天分を持ち、なおかつ、精進を忘れないでいる人・・・これって、大変なことです。でも、これだけでも駄目、なおのかつかつ、名門といわれる門閥に生まれるか、そこの養子になるか、また、そうであっても難しい・・・厳しい世界です。

 私は門閥否定派では全然ないのです。親から子へ受け継がれる芸、家の芸、それが青く実りだした頃から円熟するまでを観るというのは、ファンとしてとても楽しみだし、400年もの間、歌舞伎が守られ現代に受け継がれてきたのは、こういうシステムのお陰だと考えてます。だから、先般も菊之助さんが勘平をすると聞けば名古屋の御園座まで行ってしまうし、若き音羽屋がこれからどんな勘平を作っていってくれるのかは、やっぱり歌舞伎ファンとして見逃せません。

 平成9年4月、大阪松竹座新築開場を機に、松竹株式会社の英断によって上方の匂いを身につけた役者さんを養成する塾“上方歌舞伎塾”が開塾されました。

 芸能の世界って厳しい。どんなに素晴らしい物でも観客がいなくては成り立たないし、そして、その世界は努力だけでは補えきれない天分というものが何かしら支配をしている。だから、皆が主役になれる訳ではないけれど、だけども一人だけが良い芝居なんていうのも、きっとつまらないだろうと思うし、とにかく要所要所に良い役者さんがいて良い仕事をしている芝居は気持ちイイです。

 “歌舞伎”に魅せられ弟子入りをした若い役者さん達には、まずは自分の与えられた役、一つ一つを大切に、夢を持って可能性に挑んで欲しい・・・私がファンとして劇場に通う糧は「また良い物が観れるかもしれない」という期待、脇も主役も含めてです。

 吉弥さんはその若手の役者さん達の出世頭。いわば指針ともいえる人。だから、大部屋から入っても頑張れば吉弥さんのようになれるのだ、若手が未来に夢を持って欲しいから吉弥さんには益々活躍して頂きたい・・・などとついつい勝手にそう思ってしまうのです。

 でも、六代目“上村吉弥”という名跡を継ぐことを許されるまでになった今も、吉弥さんはそれに安穏とするではなく、更に自分に勉強の場を課すため自主公演を開催される。役者として前向きな姿勢が素敵だと思います。

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