夏は忙しい
今年も夏が近づいて参りました。
関西で潜んでいる限り?は、かなりコアなファンの私であっても、歌舞伎の生の公演を観る回数は限られます。特に最近は、気力、体力、財力、この全ての衰えからか、チラシを見ても、あえてそれを克服してまで劇場に足を運ぼうという心持ちになれず、正直、今年は歌舞伎のために何回劇場に足を運んだのだろう?というのが現状です。あらためて考えると、まだ名古屋どまり、箱根を越していません。これは自分としては驚くべきこと、どうしちゃったんでしょう?
しかしながら、そんな私が、それでも燃えなくてはいけない?いえ、燃えてしまう夏がやって来ました。歌舞伎が好きだと自称する限り、やはり関西での公演は見過ごすことは出来ません。
何故、「夏が来たぁ〜!!」と大騒ぎするのかと申しますと、まず、7月は、私が所属する「関西・歌舞伎を愛する会」が後援する道頓堀の夏の風物詩、恒例「七月大歌舞伎公演」があります。後援ですから、チケットのさばきはやはり他公演の比ではありませんし、公演期間中は大阪松竹座で売店受付を出し、出演俳優のご協力を得てサイン色紙を販売したり、会員にご寄贈頂いた歌舞伎の古書などを販売することで収益をあげ、そのお金で、独居老人の方や外国人留学生の招待事業などをしたりと諸事忙しくなる上に、7月公演もやはり観たい、出来れば幾度か観たいから大変です。
そして、8月。この月は、東京・歌舞伎座での納涼歌舞伎以外、普段、大歌舞伎興行が行われる小屋で、大歌舞伎なるものは開かれてはいません。大幹部さんの殆どがお休みされる為、若手やそのお弟子さんたちの自主公演や勉強会が催されたり、また特別な公演が行われることが多いのです。
普段はあまりない顔合わせや、観たことのない演目というのは興味がそそられます。また、特に若手の人達の勉強会は、その成長ぶりが、歌舞伎ファンとしてはやはり大変楽しみです。ということで、昨年の週末は全て歌舞伎、それも、土曜日はここ、日曜日はここ、という具合でした。東京でもそうした事情でこの時期に勉強会が開催されるので行きたくなってしまいますし・・・1枚のチケット代金が大歌舞伎より安いとはいえ、出かける回数が全然違いますので、夏は体力、気力、財力とキツいのです。
今年は歌舞伎発祥400年ですが・・
若い方の舞台を観て、自分が一番感じたいのは、とてもありきたりだけど、やっぱり“気迫”。基礎を大切に、今、持てる力を精一杯だそうとされている舞台は、知らず知らずに引っ張られて気持ちいい、そうした舞台を観られた時は幸せです。
特に勉強会などでは、らしさより、女方さんなら身体をきちんと殺すとか、丁寧な模写を心がけ、舞台を大切にしている姿勢に心惹かれる気がします。ただ、その気迫も、勘違いな気迫が溢れてしまっている場合は、かえってしんどいだけで苦手というのが、観劇における私の好みみたいです。
そしてもう一つの面白い特徴は、一度大きく感動させてくれた役者さんに関しては、後、少々はずれ?があっても、さほど気にならない。滅茶苦茶良かったときの木戸銭で貯金が出来ているから何かイイんですよ。
歌舞伎が芸能として生き残っていこうとする限り、私のような趣向の客にもある程度対応し、更にお客さんを拡大して頂かないといけない訳ですから、本気になればなるほど大変なことだろうと思います。
今年は歌舞伎発祥から400年、しかし残念ながら、関西での歌舞伎興行はだからと言って平年に比べ多いわけではありません。実際、私の耳にはそうした不満の声が入ってきています。
私も大阪の人間として、歌舞伎が生まれた関西、色んな古典芸能を生み出した関西を、文化都市と思いたいから、「毎月、関西のどこかの小屋で歌舞伎がかかっていても良いのになあー」とは思いますが、毎月関西でも充実した舞台を観ようとするためには、今よりもっと沢山の歌舞伎役者さんが必要で、それよりもっと必要なのはその小屋を埋める観客、歌舞伎を腹で応えて感じてくれる、文句も言うが絶賛もする厳しくて温かい観客なんですよね。
そう考えるとなかなか現実は難しい・・・そんな中でも関西の歌舞伎ファンが、今、現実に燃えられる?のは、やはりこの夏ではないでしょうか。
この夏、行きます!
と、いうことで関西の夏、歌舞伎のラインナップ、私が行くつもりでいる公演を、この記事がアップ日程以降から順番にご案内したいと思います。
まず、6月26日、「四世尾上菊次郎追善 坂東竹三郎の会」。
“一つ家”は観たことありません。そして、松嶋屋の三兄弟が対談されるというのを実際に拝見するのも初めてです。山村流、東山村流、両お家元による振付の舞踊の方も楽しみです。
竹三郎さん、亀治郎さん、上村吉弥さんはもちろんですが、もう、お一人、個人的に眼目なのは姫猿之助さん。前から姫三兄弟の舞台を一度観てみたかったんです。2年ほど前に初めて旅をされる方々の芝居を観て、けっこうカルチャーショックを受けましたから。
6月28日は船乗り込みがあります。
7月3日から27日まで大阪松竹座で開催される七月大歌舞伎
の前行事として、片岡仁左衛門さんはじめとする出演の役者さん達が、道頓堀まで船で乗りつけられます。今年は土曜日の開催ですので、普段はお勤めの方も素顔の役者さんたちをご覧頂けるチャンスではないでしょうか。日程が近づけば、松竹さんより、新聞等でルートが発表されると思います。
その7月公演ですが、“高時”は、何年か前、歌舞伎座で羽右衛門さんのを拝見しましたが、関西での記憶はありません。また歌舞伎の三大名作の一つ“義経千本桜”の‘すし屋’は、‘木の実’から出るため、物語全体の流れや、役の性根を知る意味でも面白いと思いますので、まだ‘すし屋’しかご覧になったことがない方はこの機会にご覧いただけたらと思います。ご存知の方も多いと思いますが、関西でいう『ごんた』は、“義経千本桜”の今回上演部分の主人公、吉野のならず者・権太からきたものです。
7月30日から8月6日は天台宗開宗1200年を記念した「比叡山薪歌舞伎」。
鴈治郎さん、吉右衛門さんらが出演されます。若き日の最澄を描いた創作歌舞伎“比叡の曙”という作品が“橋弁慶”とともに上演されるそうです。行き帰りを少々心配しましたが、帰りは専用バスも出るそうですので、ちょっと安心しました。
8月1日から3日はシアタードラマシティで、片岡愛之助さん率いる平成若衆歌舞伎の“女殺油地獄”を題材にした「新・油地獄 大坂純情伝」です。
片岡秀太郎さんが演出をされ、上方歌舞伎塾出身などの上方の若手勢が出演されますので、関西の若い女性歌舞伎ファンは楽しみにされている方も多いのではないでしょうか。
この作、岡本まさるさんという方は、私は全然知らなかったのですが、水戸黄門など時代劇の脚本を書かれている方だそうです。「ドラマシティで歌舞伎を」ということで担当者の方も随分早くから広報に取り組まれていました。ちなみに愛之助さんとスチールで写っている‘お吉’、お顔が少々分かり辛いですが、秀太郎さんのお弟子さんで上方歌舞伎塾一期修了の片岡千壽郎さんです。
8月9日、10日は、曾我廼家喜劇「山椒の会 第二回公演」。
歌舞伎の三階さんだった曾我廼家五郎、十郎という役者さんが旗揚げした松竹新喜劇のもと、曾我廼家喜劇が生まれて今年は100年。今回は坂東竹三郎さんが特別出演をされ、そして上方歌舞伎塾一期修了の竹三郎さんのお弟子さん、坂東竹雪さんが女方で“へちまの花”のヒロインを勤められます。綺麗じゃないけど?心根の優しい娘です。
実際、竹雪さんはとても優しい方です。私は一昨年の暮れ、山椒の会の主宰者、演出家の米田さんと打ち合わせのため待ち合わせをし、その途中、中座の横で死にかけの子猫を拾いました。中座の横で拾ったから、名前は「ナカ」。皆に「もうちょっと考えてあげたら?」と言われましたが・・・。拾った当初は、取り合えずの命拾いが出来れば・・・もし元気になれば誰か飼い主を探せばいいと思っていました。小学校の低学年以来、ペットなんて飼ったこともなかったし、自分だけで手一杯、扶養家族?を育てる自信もありませんでしたから・・・。その時、偶々、何かの話の余談で竹雪さんにその話をしたのですが、とても猫のことを心配して、貰い手を探そうとして下さったらしいのです。結局、今はその「ナカ」に苦しめられたり癒されたりしながら一緒に生活していますが、その時に竹雪さんが優しくて繊細な人だと感じました。ヒロインの心の綾をどのように表現されるのか、とても楽しみです。
8月23日、24日は、国立文楽劇場での夏の恒例、「上方歌舞伎会」です。
普段、脇から舞台を支えていらっしゃる上方ゆかりの役者さんによる勉強と発表の会で、関西の昔からのファンの方は、この会の前身、自主公演だった「若鮎の会」の第1回から欠かさず観て来たとおっしゃる方も多く、関西・歌舞伎を愛する会のHPや、百千鳥さんが発信されているHPで、この会の歴史を知って頂くことが出来ます。
8月26日、27日は「第二回 亀治郎の会」、市川亀治郎さんの自主公演です。
今年は舞踊のみの公演ですが、昨年がとても充実したものでしたので、今年もまたどんな亀治郎さんが拝見できるのかと期待しています。
そして8月28日は、大阪松竹座で、「上方歌舞伎塾第三期生 卒塾発表会」。
上方の匂いを持つ歌舞伎役者として修行された2年間の成果を披露し、三期生が塾から歌舞伎界へと巣立ちます。一期生、二期生、ともに思ったことですが、集中して修行した2年間の成果はやっぱり凄いです。本当に何も知らなかった子達がここまでになるのだなあ、私の2年間はどうだったのか・・・反省、という略図を毎回たどっているような・・・。
いつもいつでも、一番勢いのあった頃を忘れずに成長していけたら嬉しいのですが・・・。
ちょっとめでたく関西万歳
やっぱり、なかなか忙しいですねえ。そして、こうしたものを観ながら、他の舞台も絶対観てますねえ。6月は宝塚歌劇にも何回か行きますでしょう。舞台は一期一会です。ふとしたきっかけで観た舞台が、人生の楽しみ方を大きく変えることがあります。
私は時折、首都圏の方と比べ歌舞伎を観られる数に不満があったとしても、やっぱり関西で生まれて得したのかなあ・・と、あらためてしみじみ思います。
上方歌舞伎が好きだし、もし、他の場所で育っていたなら、上方歌舞伎について今ほど敏感に感じられていたかな?・・・宝塚歌劇にも行けるし、松竹新喜劇も観られる、「あぁ、関西人で良かったぁ〜」・・・みたいな感謝です。
そういえば、曾我廼家喜劇から100年の歴史を持つ松竹新喜劇と、来年90年を迎える宝塚歌劇って、ある意味もう伝統芸能なのでは?とも思います。どちらも独特の型を伝えながら、発展するところは発展し、受け継がれ愛されて来た芸能じゃありませんか?そしてその両方が関西で生まれたものです。雅楽も、能も、狂言も、浄瑠璃も、歌舞伎も、とりあえず思いついたものを並べてみても生まれは関西だったんです。
ここまで書いてくるとおめでたく、後先を考えなければ、「関西の芸能万歳」って感じなのですが、芸能が、今まで私たちをどう癒して潤してくれたかをキチンと認識して、関西でいる喜びを実感しようと思う今日この頃です。 |