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お初天神のねきにある、割烹<北龍(ほくりゅう)>。
やってきたのは、TTR能プロジェクトのメンバー、山本哲也(やまもと・てつや/能楽大鼓方大倉流/36歳)と成田達志(なりた・たつし/能楽小鼓方幸流/38歳)。
そして、<花形能舞台>で、それぞれシテを勤める上野雄三(うえの・ゆうぞう/能楽シテ方観世流/46歳)、浦田保浩(うらた・やすひろ/能楽シテ方観世流/40歳)
、味方玄(みかた・しずか/能楽シテ方観世流/36歳)と、3日間を通じて地頭を勤める片山清司(かたやま・きよし/能楽シテ方観世流/38歳)。
時計は午後9時をまわっている。
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山本哲也 |
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山本哲也「この企画は、たっちゃん(成田達志)と僕のよもやま話から始まったことで、もともとは月例公演でやりたいと言うてたんですが、いろんな意味で無理やということになって(笑)。とりあえず3回にして、で、基本的には3回とも同じメンバーでやりたい、ということを二人で話してました。単に気心が知れていて、各々(舞台上のことをきっちり)お任せできるお相手ということだけではなくて、一緒に催しを作ろうという思いでやってくださるメンバーで、というのが基本やったんです。主催者と出演者という関係にとどまらない形でと…。出来るだけ、そう思うていただける催しにせんといかんなと思うてるんですが。今回みなさんにお集まりいただいたのは、そういうことでの参加をお願いして、で、あとはテープが回ってる(=録音されてる)っていうのを意識せんお話を…(笑)」
味方玄「忘れてたのに!(笑)」
当日の番組案が配られて、しばらくミーティング…。
山本「(地謡の並び方は)基本的には序列に準じてるほうがいいと思うんやけど、ここにお集まりいただいた以外の出演者の方々には、序列にあまり拘らず、こちらで組ませていただくつもりですとお願いしています。きーちゃん(片山清司)に3日間とも地頭をしてもらうので、きーちゃんの謡いやすいようにしたいんですよ」
成田達志「今日みなさんに番組案をご了承いただいて、まだご依頼していない人は、これからお願いします。大阪と京都の間にある鉄の壁を…」
山本「このコラボレーションでなんとかぶち壊してやろうというのが…」
上野雄三「ねえ。そこがいいね」
味方「鉄の壁なん?」
山本「鉄の壁やと思うてはる人は多いと思うで」
成田「んー、なんていうか…あの…やっぱり…妙な壁がねえ…」
山本「その壁の薄い二人がやってるんで大丈夫やろう、という話をしてるんやけど(笑)」
全員「ははははは(笑)」
大阪と京都の間にある壁…。
といっても、能楽界という狭い社会の事情にすぎないのだが、気質の違いや歴史的な事情も複雑に絡んでややこしい。
はっきり言葉で説明できることもあるし、もやもやとして言葉で説明できない部分もある。
今まで、その壁を崩さなければならないという必要性を感じていたのは、極々少数であったろうし、ましてや、正面切って壁を崩すことなど誰もしなかった。
では、活動の中心を大阪に置くTTRの二人が、なぜ、<花形能舞台>で、その壁を突き崩そうと思ったのだろう。
成田「普段、なんか義理人情でがんじがらめになってしまってて…この世界の中では、わりと、往々にしてあるよね。だれそれの会に呼ばれてる(=出演依頼されている)から、こちらもお呼びしないといけないとかっていうような。それが良いように作用することもあるけど、逆に、演能の質にものすごく影響することもあって…。そのことがいつも、てっちゃん(山本哲也)と話題になっててね。今回もこんな企画になったのは、まさにその一点に尽きると思うねん」
山本「順序としては、たぶんおかしいと思うねん。つまり、旗揚げ公演は義理から入らなあかんのかもしれへんけど…。でも、最初やから、義理抜きでいきたいなというのがあったんで」
片山清司「初めにそう(=義理なしで)したら、ずっとそうなるで」
全員「うははははは(笑)」
成田「あ、そう?」
山本「もうそういう趣旨の会やからって?(笑)んー、京都だと、定期能にも‘当たり’があるやろ?‘当たり’って変な言い方やけど」
成田「いきなり話しにくいとこへ持ってきたな」
山本「定期能ってだいたい3〜5千円でしょう?僕、近所の人から、いっぺんぐらい能を見てみたいってよく言われるのよ。その時に、お薦めしたいなって思うねんけど、絶対に間違いない、お薦めできる、と思うくらいの催しの切符が、いくらするかというと、自分が出演してるような催しでも、やっぱり1万円ぐらいするわけで。で、そう思った時に、気楽に入れて、ちょっとええ時間を持って帰ってもらえるような催しを、自分らで作られへんやろか、というのが、<花形能舞台>のスタートなんです。だから、出演者についても、あんまり普段のお付き合いの度合いとかを考えないことにしようと…」
成田「今回、みなさんに、同人ではなくて、こちらからご出演をお願いして、出ていただくんだけれども、経済的には十分なことが出来ないので、ほんとに、そのことは申し訳ないなと思ってるんですけど…」
大阪の若手囃子方の中でも、山本哲也と成田達志の二人は京都での出演も多い。大阪と京都の違いを肌で感じているはずだ。
…実は、観るほうは、もっとそれを感じてきた。
京阪神で能を観ている人たちの間では、ずっと話題になってきたことだ。
技術の問題だけでもない。
なんとかしたい。
でも、口で言うだけではわかってもらえない…、それでは何も変わらない。 |
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