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本誌log osaka web magazineが初めて主催した、珍しいキノコ舞踊団の大阪初公演『こんにちは。 キノコ+graf 〜meet&greet〜』、その「出会い」の発端から当日までの過程は『福永信の「全地球人に告ぐ」』で詳細に語られています。
舞台が終わってひと月後の座談会。珍しいキノコ舞踊団とのコラボレーションで「環境」を担当したgrafの豊嶋秀樹、公演の制作を担当した中川みとの、そして、企画の福永信。
3人が語る『こんにちは。』のあとの言葉。もしかしたら、それは次への過程そのものかもしれません。

福永:舞台作品っていうのは、やり直しがききませんが、終わってから、ここはこうしたかったとかってありますか。

豊嶋:ない、ない。もう終わってから、あれをどうしたかった、こうしたかったってことは全然ない。ただ、次をどうやろうということは自分の中でメラメラと感じています(笑)。実際、5月にKATHYという3人組の女の子たちがパフォーマンスをすることになりました。Theatre PRODUCTSの展覧会の中でなんだけど、急だったけど「来て来て」って言って、2幕中の1幕分はgrafでセット作りました。

福永:意外な感じはしないですね。

豊嶋:うん。方向性として、そっちに向いている時期なんでしょうね。映画に関わる話もたまたま来てるから、映画と舞台とはまた全然ちがいますが、ぼくとしてはいろんなところに空間を求めていきたいというところはある。
キノコに関しては楽しいからまたやりたい。それが大阪での次の公演になるのかもしれないし、東京にもっていきたいなっていうのもちょっとあるし。でも、同じことをやるのは嫌やねんやろな、きっと。

中川:今回の公演の特徴として、キノコも初めてだし、そもそもダンスを見ることじたい初めて、という人が多かったということがありますね。ダンスの公演はややもするとダンスをいつも見ている人だけで固まってしまうことも多いから。

豊嶋:「ちがうのにも行こう」って思うようになるかもしれないよね。

中川:そうなんです。それに、アンケートを見るとよくわかるんですけど、grafとキノコの次の公演を希望する人もとても多いです。公演が終わってからもメールが来てて……。

豊嶋:ってことは、すごくおもしろかったんや。

中川:いい公演でしたよ、すごく。遠方からもたくさんいらしてくれたし。上演時間の問い合わせも多くて、それは、その日のうちに帰らなければならないからで、上演時間が例えば2時間あると「のぞみ」に間に合わないということだったりとか。

福永:うれしいね。

中川:うれしいですね。

福永:出口あたりにいると、お客さんの顔が、会場の中は暗くて見えないのが、出口に来ると明るくなってパッと不意に表情が浮かび上がってくるんだけど、みんないい顔してて、その表情が見れただけでも幸せだった。あんな表情、つくれっこないですからね。

中川:上気してる感じでしたよね。ま、暑さもあったんですけど。

福永:そういう表情を見たとき、「ああ、なんか成功しているなあ」
「したんだなあ」って思いましたね。

中川:受付で小冊子を売っていたら、お客さんが帰り際に「すごくよかったです!」って言ってくれたりね。すごく熱く「次回もぜひやってください」って。

福永:観客が自分から、やっている側の人間に「おもしろかったです」とかいうことじたい、勇気のいることだとぼくなんかは思うけど、今回はほんとにそういう声をよく聞いたね。

中川:チケット予約がそもそもメールのやりとりですから、お名前がだいたいわかっていて、受付でご本人だとわかると、「この人があのメールの……」って、一方的に知り合いみたいな感じで。

福永:そうそう、今回、画期的だったのは、個人の女の人が直接、メールで前売り券を販売するっていうシステムでした。

豊嶋:いいねぇ(笑)。

福永:申し込む側もちょっとした一文を書いてくれていて、何百通っていう返信を出す中川さんも負けずに一文、二文くらい書いて、手紙になっているんですよね。

豊嶋:まだメール来たりする?

中川:来ました! だからしばらくメールアドレスを閉じずにおこうって思っているんです。

福永:本当にぼくら、今回の公演で、お客さんと不思議な気の合い方をしたなあって思います。ぼくらスタッフなのに、お客さんがぼくらのこと、気にかけてくれるんですよ。とてもうれしかったです。
ダンスの本編とは関係ないことなのかもしれないけど、こういうこともふくめて、全体として『こんにちは。』っていうひとつの表現にまとまっていたようにも思う。

豊嶋:伊藤さんが「ダンスの中で、観客と演技する側との境界線を点線くらいにしておきたい」っていう話をしてたやんか。grafもわりにそういう考えをもってて、家具とか別に眺めるものじゃなくて、使われて初めて、とかさ。制作のあり方も結局、そこにリンクしていた。

中川:そうですね。システマティックにやるんじゃなくて。

福永:不思議なのは、誰が言い始めたわけでもないのに、おのずからみんなの気持ちがそういう方向に向かったということだね。

中川:そう、すごく自然発生的に。仕事を誰かが振り分けたわけではないんですよね。それぞれがやるべきことをやっているうちに、無理なく分かれていった。「やってくださいって言ったじゃないですか」っていうことが全然なくて。できることをみんなが自然にやって、カバーしあっていたからよかったんだなって。

豊嶋:それって「プロのアマチュアリズム」みたいなことやんね、きっと。結局、組織じたいがまだプロ化されてないわけやん。プロ化されてたら、自分のやることが最初からはっきりしているわけやし、きっとそこだけやるのが仕事になるでしょ。でも、(今回のスタッフは)それぞれの領域ではプロやけど、組織体としてはアマチュアな組織やったと思うねやんか。それはgrafもふくめて。ま、伊藤さんらはダンサーとしてはプロとしておるけれども、でも、一体となったときには、そうやったと思うねやんか。それはぼくなんかはgrafをやっててすごくわかるわけ。それぞれにみんな自分の得意分野だけがあって、すると「さあ、何かやりましょう」ってときに、やったことのないことでもある程度できちゃう。ビジョンはある。方法も目の前にあって、自分のやれることを考えていく。結果としていいものができるという自信は絶対ある。それが「プロのアマチュアリズム」かなって思う。初めてだからできた、というのもあるけどね。

中川:月1回とか……。

豊嶋:やったらキレるよね(笑)。

福永:今回を経験してしまうと、「前、ああだったから……」っていう前提ができちゃうしね。「こういうふうにやんなきゃいけないかな」とかね。横目でこのあいだのを意識しながら妙な動きになってしまうとか。けれど、かたちに残るものではないし、記憶にしか残らないものだから、記憶がうまいぐあいにうすれてきたときに、またいいタイミングでみんなが出会えれば、「第2弾」ってわざわざいわなくてもいいものができるかもしれないですね。

豊嶋:次! 次やろうよ。

福永:うん。

豊嶋:その話がしたい!(笑)

福永:キノコとgrafは、いってみれば、不意に出会ったみたいなものですが、100%ORANGEのチラシも不意に実現したものです。最初から考えていたわけではなくて、中川さんから「伊藤さんからタイトルが来たよ」って電話があって、そのとき「こんにちは。」っていうんだって聞いてさ。それまでは、お金ないし、自前でチラシ作ろうかって言ってたんですよね。

豊嶋:脚の写真……。

中川:そうそう、脚の写真とか言ってた。なつかしいですねえ。

福永:で、なんかそんなもんかなと思ってたけど、『こんにちは。』ってタイトルを伊藤さんが具体的に出してきたときに、「この人たちしかいない」って、100%ORANGEが浮かんで、すぐに電話した。「こういうタイトルで、『こんにちは。』っていう言葉で思いついたことをそのまま絵にしてくれたらいいので」というぐらいしか伝えられなかったんだけど、しばらくしたらラフが届いた。「精一杯の『こんにちは。』を考えました」って、メッセージつきで。

中川:すごく評判よかったです。公演が終わってからも問い合わせがありましたしね。

福永:ダンスだからさ、もう残っていないからさ。手掛かりとして、というか、これをたよりに自分の頭の中で思い起こしたり、想像したり、そこがおもしろいところだよね。

福永:今回すごくいいかたちだなあって思ったのは、振付家、舞台監督もふくめ、ダンサーたちが大阪に滞在できるような環境があって、本番4日前くらいから滞在してもらって、すごくぜいたくだったと思う。もっと欲をいうと、本当はもうちょっとながく……。

中川:まるまる1カ月とかね。

福永:そうだね。

豊嶋:アーティスト・イン・レジデンスや。

福永:レジデンスのイメージがすごくあって、ぼくの経験では、長期滞在とか、レジデンスみたいなものは、いろいろなノイズがこばんでも入ってくるところがあるから。その地域の人と出会ったり、そういう要素があるから。「よそから来たよ」っていうよりも、「1カ月ぐらいいるよ」とか「3週間くらいいたよ」とか、そういう中で作っていくっていうのがあったらおもしろいですね。grafについて、サーカスのイメージがあるって以前、言ってたでしょう? サーカスっていうのも、その場所に仮住まいして、公演をうっていくよね。

豊嶋:graf bld.の最上階をホテルにしたらええねん。通常は一般客が泊まれるようにして、公演があるときはアーティストが泊まれるように。

中川:いいですねぇ。それ、すごく、いい。衣食住が本当に整う。

福永:そういえば最初に会ったときも、豊嶋さん、具体的なプランを言い出してたな。それを思い出したよ。キノコをまだ見ていないし、伊藤さんにもまだ会っていないのに、ほとんど、今回実現したプランと近いこと、すでに言ってた。

豊嶋:近かったよね。

福永:それなのに、直前まで仕込みをしていた……。

豊嶋:伊藤さんがもう来ているのに会場工事してたときは、自分でも笑ったな(笑)。

中川:私も「ハコしかないよ」って言われたけど……。

豊嶋:ハコもできてなかった(笑)。

中川:とにかく、時間はなかったけど、NPOのremoからお座布団を借りたりとか、大阪市でいえば、アーツアポリアから客席の椅子を借りてこれたり、ワークショップの手配を手伝ってくださったりとか、何より「大阪市のウェブマガジンです」ということで協力してくださるところも多くて、それらをうまく組み合わせて、ひとつの公演を成り立たせたということはありますね。時間もないし、お金もないし、スタッフも少ないし、もう、だいじょうぶかなって思ったときもありましたけどね。

豊嶋:景気が悪いからちゃう? いつも、思うもん。景気よかったら、もっと大バジェットのほうに飲み込まれちゃうからさ。でも、悪条件だと、工夫をする。

中川:うん、うん。

豊嶋:で、職にあぶれている人も多いし(笑)。

福永:時間がある(笑)。

豊嶋:そうそう。

福永:それはデカイなあ。

豊嶋:でも、絶対そうやと思うで。

中川:たしかに、今回の公演と不景気って、関係あるかもしれませんね。

豊嶋:ヘタに回復せんほうがいいと思う。

豊嶋:以前、デザイナーズウィークが東京であったときに、ぼくら椅子の代わりにビールケースを出品したんやんか。実験家具っていうテーマだったしさ、周囲はカッコイイことやってんねんけど、そういうのに対する、アンチテーゼもあったから。ビールケースを2段重ねにして、スツールとかさ。1段で椅子、とか。モノのないときって、代用するわけやんか。代用ってすごいクリエイションやと思う。ないから、なんとかそれで役割を代用させようとする。買ってきて終わり、じゃなく。

中川:ビールケースってね、学生演劇の人たちは客席とかに使うんですよね。意外と網目が細かくて座り心地、悪くなかったりして。

豊嶋:全デザイナーは、ビールケースと自分の作っている椅子とのちがいを真剣に考えるべきや。

福永:埴谷雄高の『死霊』の中に、なぜか屋根裏部屋に住んでいる男がいて、そこにビールケースがいっぱいある、いっぱいあってそれが椅子になったり台になったりする場面があります。『死霊』は戦後すぐ執筆されたものだけど、今の感覚に近いのかもしれない。もちろん見た目に焼け跡があるわけじゃないけど、もう一度掘立小屋から作り直して、道を区画整理して、歩み直すっていうタイミングなのかもしれませんね、こういう話を聞いたりしていると。

豊嶋:おれが貸した本、花森安治さんの『一銭五厘の旗』やったもんな。

福永:そうだったね。

豊嶋:初めて会ったときに、なんであんな本、貸したんやろ。

福永:届いたんですよ。

豊嶋:そうそう。しゃべっているときに、たまたま宅配便が届いて、それが注文していた古本の『一銭五厘の旗』で、「読んだことある?」って聞いたら「ない」って言うから。あれも戦後の焼け跡からの、モノのない時代の豊かな暮らしへ目を向けた本だった。

中川:そこから始まっていたんですね。

福永:不思議だな。

福永:来年、再来年とか近い将来は、もちろんgrafも珍しいキノコ舞踊団も大きな仕事が決まっていたり、プロジェクトがあるだろうけど、きっとなんかまた、いいタイミングでだれかが「やろうよ」って言ってしまう瞬間が来ると思う。今回のお客さんから「やりましょうよ」とかね。

中川:「そろそろちゃいますのん」とか。

豊嶋:でも、結局、自分で言い出すねんやろな。

福永:さっき「見る側と作る側の境界線を点線のようにする」っていう話が出たけど、これを見たお客さんがその点線をまたいで「スタッフで参加したいよ」とか、今回スタッフだった人が「今度はお客さんで」とか自由に行き来できたらいいね。ぼく、桟敷で見ていて、なんかね、泣きそうになったよ。物語があるわけじゃないんだけど、物語がないからこそだと思うけど、まるで知らない国の言葉を聞いているような……。知らない言葉だから、意味はわからない、悲しいとかうれしいとか、そういうことではないんだけどね。そういうことのほかにも、感情はあるんだね。あ、(豊嶋氏を見て)もうなにか考えてる!(笑)なにを考えているんですか。

豊嶋:今? 電気がもっといっぱいあるわけ。

中川:電気? ああ、照明ですね。

豊嶋:100個くらい。

中川:100個? すごい!

豊嶋:なんか、そんなイメージが。

福永:明るいということですか。

豊嶋:それはまた独立調光なわけ。光の集団みたいな。

福永:ああ、100個って、ものすごい明るいような……。

豊嶋:めちゃくちゃ明るくもなる。光の束になる。

福永:光の束……。どうやるんですか?

豊嶋:照明さん、手足、体全部でフェイド、とか(笑)。10人並んでる、とか(笑)。

中川:めちゃくちゃスゴイですね。

豊嶋:かっこいいよな。照明さん、みんな同じ服着てて、サングラスかけて。

中川:オペブースにも明かりが入ってて、それもひとつのパフォーマンスになっているっていう。

豊嶋:かっこいいよ。ガラス張って、そこに10人並ぶ。クラフトワークみたいやな(笑)。

[2003年4月22日/18時〜19時/京都]