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井内:大阪AISは若手音楽家の演奏活動支援として始まったのですが、実際にAISの活動を2年間やってきてみて、それぞれご自身にとってAISがどのように支援として機能しているか、また今後の私たちに対する課題などあれば、お話ください。

高田:井内さんとはこのAISで知り合って、演奏会の時や、それ以外でも大阪に来た時にプライベートでもお話をする機会があったのですが、彼が思っていることは、私が25、6歳の頃に思っていたことを、実行しようとしているんですね。私も若かった時に、自分で大学生を集めて自主演奏会をやったことはあるのです。自分でチケットを販売したり他のことを色々やりながら。井内さんと話していて、すごく熱意が伝わってくるんです。こういう人はどこかにいるんだろうなと思っていたのですが、直感的に「大阪にこういう人がいるんだ」と感じました。とりあえず、動いてみないとわからないっていうのが最近の僕の考えなのですが、井内さんもすごく手探りの中で、大阪市の中で何をやっていくか動きながら考えているので、私も自分自身の経験を時々話したりしています。私が井内さんの何が好きだったかって言うと、「聴衆をプレイヤーが作っていく」っていう考えにすごく惹かれたんです。例えばチケットの事ですが、最初から採算を取ろうとして、色々な団体に声をかけて、組織票で聴衆を満員にしていく。じゃあ満員のコンサートがいいのか?とか。一番大事なのは感動を共有すること。それはプレイヤーにとってはとてもプレッシャーなのですが、今来てくださっているお客さんは、この世の中で何かを求めて来られています。AISの支援は3年間ですが、この3年間が終わって初めて私はスタート地点に立つと思うのです。ですから、この3年間で色々なことを全部一度にしようとしないで、一つ一つこなしていくことが大事だと思っています。僕らも弾いてみるたびに、井内さんの意見を一つ聞いて、私たちも一つ意見を言う。というように少しずつやっていった方が、今の課題を全部挙げてしまうよりはいいのではないかと思います。一度にやってしまうとお客さんは必ず飽きてしまう。今回AISで選ばれた人は楽器も違うし、色が違う人が揃っているので、そこから色々な意見が少しずつ出てくることは、すごいパワーになると思います。あまりうまくまとめられていないのですが、色々な意見を一つ一つ取り入れていく、それを3年間続けていくことが重要だと思います。今一度に完成してしまうと、必ずお客さんは飽きてしまいますというのが、僕の素朴な意見です。

萬谷:私は今大学生で、大学院に進むことも決まったので、学生の間にこのAISでの演奏活動をさせていただくことになるのです。いずれ卒業して、ちゃんと音楽で食って行かなきゃという覚悟をしなければ、とは思うのですが、今は学生なので実家の助けで生活しています。その中でいかに次への土台を作っていけるか。高田さんがスタートラインという話をされていましたが、私にとっては将来色々なことが出来る可能性がある中の、一つだと思うのです。今こうやって演奏会を大阪でさせてもらえるっていうのは、大阪での萬谷衣里という一つの形なんだろうなと思います。今、学校は東京なのですが、東京での音楽活動ってのはまた違っていて、東京ではリサイタルをしたこともないですし、演奏会の機会ってのはそう多くないんです。自分がそこでまたどうアプローチできるのかっていうのが、今後の課題の一つだと思います。大阪AISでは、そういうこれから先のことを考えつつ、まず自分のやりたいことなどを試していける様な気がしています。大阪AISでは、いいホールにピアノが用意されている。「どうぞ弾いてください」と、選考に選ばれた者には全てが用意されている。それだけで私はとてもありがたいです。私はそこに行って自分の音楽をすればいい。一人でやろうとしたら、最初から最後まで、会場にしてもピアノにしても、人集めにしても全て自分でしなければならない。要望というのは今すぐに思い浮かばないのですが・・・ピアノ一台の演奏会と考えた時に、特に目新しいもの、珍しいものってのは思い浮かばないんですね。ただ、目新しい演出とかをすれば人が集まるというものではないと思っているので、まずアコースティックなピアノ一台の演奏会でしっかりとやっていかないと話にならないと思います。でも、もし可能性があるとしたら、少し趣向の違ったものも出来たらとは思っているのですが、まだ具体的には思い浮かんでいません。

芳村:AISさんでしていただいてありがたいと思っていることですよね。自分たちでコンサートを企画すると、といっても、実は私には経験がないのです。私はたぶん恵まれていると思うのですが、私がコンサートをする時はいつも誰か企画者がいて、全てが用意されている中で、持ち出しもなく演奏をしていたんです。私はそれが普通だと思っていたのですが、それを自分でする事を考えると、今やっていただいているように、ホールを用意して、チケットの窓口をしてもらってというような準備をしていただいていることはとても助かっています。私たち演奏家はそういった助けなしでは、演奏に集中できないのです。もちろんそういったことが助けになっているのは当然なんですけれども、もっと嬉しいことは、AISは、「大阪にクラシックをもっと広めよう」、「あ、クラシックって結構いいやん」と市民の方に思ってもらえるような方向でこの企画を進めていっていることが私にとってありがたいです。というのは、ギターのリサイタルってのはどうしてもギターをやっている人しか来ない場合が多くて、そういう場で私はずっと演奏してきたのですが、そうすると、お客さんがみんなギターをやっているので、「もうこの曲聴いたことあるから、もっと珍しい曲をやって」という声があり、どんどん奇抜なというか、現代曲ばっかりの演奏会になってしまうんです。そういう曲ばかりをしていると、例えば友達に誘われたりして、初めてギターのコンサートに来た人は、そういうコンサートに来て難しい現代曲ばかりやっていると、二度と行きたくないって思うと思うのです。そういうコンサートに、私はいつも疑問を感じていたんです。もちろんそういうコンサートもそれを求めているお客さんもいるので必要だとは思うのですが、それだけじゃダメなのではないかなぁと思っていたところに、この企画に参加できることが決まって、初めてクラシックギターを聴く人にも「クラシックギターっていいな」と思ってもらえるプログラムを安心して組めます。また、逆に、AISのコンサートではお客様にアンケートをとってくださるのですが、その中でお客様の生の声を聴くことが出来るのです。それが私にとってはとても勉強になって、「初めてギターを聴く人はこういうのを求めているんだ」とか「初めて聴く人でもこういう曲はもってきていいんだな」とかいう目安が最近出来てきているんです。それが私にとってとてもありがたいです。

井内:それでは最後に選考委員の先生方から、ここにいる演奏家達に、激励のメッセージなどありましたら一言お願いします。

福本:私は皆さんのコンサートは少なくとも一回は聴きにいっているのですが、どうしても堅苦しいというイメージがクラシックにはつきまといますが、それぞれのコンサートでは皆さん少しお話も交えていて、演奏以外からもその人の人柄が伝わっていて、とても聴きやすいコンサートになっていると思いますので、ご自身の望んでおられることに向かってやっていただくことだけだと思います。あとは、それがどのようにお客様に伝わるかは、それぞれの問題です。高田さんが言ってましたが、演奏家が自分の演奏を楽しんでなかったらダメだと思います。例えば、「今演奏しているこの曲が僕はこんなに好きなんだ」とか「この曲のココがこんなにきれいでしょう」とか、そういうことが伝わる。それが出来れば名演奏家なのかもしれませんけどね。でも、そういうことが出来る可能性を持っておられる方達なので、そういう演奏に向かってやっていっていただきたいと思います。私が客席で聴いていると、この企画のお客さんはクラシックにあまり馴染みのない方も多いと思うのです。そういう人達も、演奏を進めているうちに、みんな本気で聴いてくれるようになっていってると思うのです。皆さんも演奏していてそれは感じていると思いますが。そういうことはとても大事なことだと思いますので、この企画を大切にして演奏を続けていって欲しいと思います。

北野:演奏家の皆さんの心に留めておいて欲しいのですが、演奏家っていういのは、風邪をひいたら注射を打って治すと言ったような特効薬的なことは無理だと思うのです。漢方薬的な、日々の努力ってのがすごく大事なんです。少しプレッシャーをかけるならば、この演奏会に対してはいかにファンを拡げるか、それは芳村さんがおっしゃったようにギターのファンを拡げるといったこともありますが、この企画のファンを拡げるかということもあると思います。大阪にこういう文化が根付くか根付かないかは、皆さんにかかっています。私はこうして皆さんを審査させていただいて、選ばせてもらってとても幸せな気分になっていますが、皆さんが20年30年先に同じように、次の世代の音楽家を支援するといったように、回っていると思うのです。それは演奏家同士だけではなく、ファンについても同じ事が言えると思います。大阪ってのはやはりお笑いの文化という感じがします。そういう方から見るとクラシックってのは少し気取っているように見えるのかもしれませんが、そうではなく、「こんなにいいものだよ」という事を広めていく重責を担われているのが皆さんだと思うのです。大阪の地でAISという制度が出来て、これが打ち上げ花火に終わらず、光り輝き続ける、継続させるという事は、最初に選ばれた人が、3年間何をやっていただけるかにかかっています。それによってファンが増えてくるだろうし、次に選ばれた方が楽になっていく。最初に選ばれた宿命のようなものを感じていただいて、しんどいのですが、ファンをたくさん拡げていただく。そのためにはやはり演奏家自身が知り合いにも声をかけていったりとかいう企業努力も必要でしょう。こういう企画では、演奏会場に行ったらお客さんがいるだろう、ということが一番怖いことだと思います。それがあると、演奏家として隙がある。隙があると演奏にも隙がある。だからこういう機会であっても出来るだけ知り合いなどを集めてくるなどの企業努力のようなことをやっていくことが、サービス精神にも結びついてきて、それがファンを拡大することにつながるし、それは自分の評価にも帰ってくる。私はそれを信じて今まで演奏活動をしてきました。次の世代の皆さんにもそういうことに気を付けながらやっていただいて、20年30年後にAISが続いていたら、今の私と同じようなことを言いながら、皆さんがその次の世代を選んでいく。そのようにファンの拡大に気を付けながら続けていくことが出来れば、大阪の市民もこういう活動をやっていることに誰も文句を言わないと思います。AISの関係の方には、この企画は継続が一番大事だと思いますので、是非長く続けていただきたいですので、そちらの方もお願いしておいて私の言葉としたいと思います。

 皆さんの非常に熱の入ったお話が録音されていたので、文章にすると多少読みづらい点があるかと思いますが、編集するとどうしても私の主観が入ってしまいますので、そのままの熱意を伝えたくて、最小限の編集以外はそのまま掲載することにしました。非常に長文となりましたが、お読みいただきました皆様に、大阪AISの持っている「何か」が伝われば幸いと思います。
 お客様からのアンケートにもあったのですが、今回のシンポジウムを一番聞いていただきたかったオーディションの受験者の来場が、ほとんどなかったのが残念です。この議事録がそういった人たちの目に触れることを願っています。


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