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21 高嶺格インタビュー

 

 
                             聞き手+構成=森本アリ+森本万紀子
                  写真:清水俊洋(『アロマロア・エロゲロエ』)/森本アリ(その他)

このインタビューは、2006年秋に発表された、高嶺格演出による舞台作品『アロマロア・エロゲロエ』をめぐるものです。高嶺格といえば現代美術作家として知られていますが、パフォーマンス・グループ、ダムタイプに在籍していたり、パフォーマンス作品やビデオ作品も多く、Noismやイスラエルのバット・シェバ舞踊団のダンス作品でコラボレーションも行っています。また2004年に横浜美術館での出品拒否騒動で物議を醸した高嶺のビデオ作品『木村さん』は、猥褻などの議論がバカバカしい、広く一般に観ていただきたい人間の存在意義ついて深く胸を揺さぶられる作品です。僕と高嶺とは十年来の付き合いなのですが、高嶺は個人的な作品をつくりつつも、そこには常に人とのつながりが根底にあり、舞台作品の演出への進出はある意味必然だったように思われます。

『アロマロア・エロゲロエ』は、兵庫県伊丹市のアイホールが若手演出家/振付家へ新作委託をし、3年計画で3作品発表する「Take a chance project」シリーズの一環です。その依頼を受けた高嶺は、2005年、客員教授として着任していた京都造形大学の映像舞台学科の授業を通して、学生たちと『もっとダーウィン』を共同制作し、発表。(この作品に関しては、log osaka内のPEOPLE欄 Vol.71 高嶺格インタビュー に詳しいので、ぜひお読みください。)そして『アロマロア・エロゲロエ』は、その第2弾として翌2006年に発表されました。

両作品とも学内制作によるため、各々アイホールでの本公演の約1ヶ月前に京都造形大学内にて公演しています。『アロマロア・エロゲロエ』の場合は、学内公演での出演者は25名でアイホールでは13名、また内容についても9割は異なり、別の作品と言って差し支えないものでしょう。両作品共に、学生たちの良い意味で訓練されていない身体性、若くみずみずしい感性が発揮された作品です。『アロマロア・エロゲロエ』のアイホール公演では、クライマックスで学生出演者全員が暗い照明の中で全裸で目をつぶって歩き回るシーンが大きな感動を呼びます。

今年の夏にも3作目の舞台作品が発表されます。そして今回は出演者を一般より公募し、アイホールでのワークショップを経て発表されます。乞うご期待!




                 《とりあえずダンスですが》



アリ  僕はまずノンダンサーの良さを聞きたいと思って。舞台上で素人とプロが混在していたりすると、プロがめっちゃ見劣りすんねん。それは訓練されている身体が“出来ちゃってる”みたいなところで全然面白くなくて、素人さんがやっていると何をやっても面白い。僕も極端やねんけど(笑)。素が見える。高嶺の舞台作品は、ある程度学生をコントロールをしないでいるところで面白いものが生まれてるよね。

高嶺  自分の作品がそうなんだけど、僕はもともと演技をするとか、虚構の自分、フェイクのものを作るということを、どうしたら出来るかが分からないし、素の自分が舞台に乗っている以外のやり方が分からない。多分もともとそうで、だから素の自分を舞台に乗っけるということも、意欲的にそれを一個のテーマとして立ててやっているわけじゃなくて、そうにしかならないっていう感じやね。

アリ  去年の『もっとダーウィン』は群舞とかダンスシーンが結構あったけど、今年の『アロマロア・エロゲロエ』ではほとんどなくなったよね。言葉重視でもないけど、もっと演劇的。『もっとダーウィン』の方が抽象的なものが多かったし、2部でダンサーのソロがあったから、それも含めてもっとダンサブルだった。

高嶺  今年はアイホール公演の時にダンス系の子がいなかったのが大きいんちゃうかな。今年の授業は学生の参加人数がすごく多かったの。『もっとダーウィン』のウケが良かったので、それを見ていた子が今年3回生になってガーッと入ってきたのと、彼らが1回生の時に僕が授業を持っていたので、お互いをちょっと知っていたのもあって、すごく人数が多かった。だからその中から、学内公演の出演者は25人いたんだけど、学校で伊藤キムの特別講義があって、それと伊丹公演が日程的に重なっていたから、ダンス系の学生がみんな抜けて芝居系の子が残った。だからダンスになるか芝居になるかもメンバーによるっていうか。僕は別にどっちがやりたいっていうのはないし、だいたいその境目もわからないし。

アリ  作品としてはどうなん? 美術作品、ビデオ作品やインスタレーション作品と舞台作品との分け方というか。自分の所在はもうちょっと少なくしてるやん、もちろん。オレ印をつけないでしょ。

高嶺  でも美術作品でも似たようなもんやよ。ブリコラージュというか。オレ印もってないし。

アリ  うん。そして他者の介在を求める。

高嶺  一から何かつくれるとは全然思ってないからね。



                     《授業》



高嶺  『アロマロア・エロゲロエ』は前期だけの半期枠の授業で作ったから、すっごい集中した前期で、その間はもうほんと舞台のことだけ考えてた。やっぱね、舞台を作るのは大変やわ。美術よりも経験値が低いせいなのかなあ。人間相手やしなあ。体力使うなあ、ほんまに。
 今回、授業の間はすごく苦労していて、まあ人数が多いからだと思うんだけど、一対多になったら、学生は“言われ待ち”みたいになるというか……。僕が全部アイデアを考えたり配役をしたりする気は全然ないし、とにかく人として変わってもらえなかったらあまり意味がないと思っているから、それがどうやったら出来るのかなと思ってね。とりあえず飲み会を何回もやった。

アリ  まあ、とりあえず知り合わないと、っていうことやね。

高嶺  そうそう。仲良くなってリラックスしたら、信頼関係って作れるんかなあって。それで飲み会をやって、楽しかったけど、やっぱり授業に来ない子もいっぱいいた。
 最初の授業の時に、「去年は全肯定からはじめたけど、今年は全否定からはじめます」と言って、“自分が守っているものはなんですか”とか“敬語についてどう思うか”みたいなことをアンケートで書いてもらったりした。どこから始めるか、その手がかりみたいなものを求めていたんだと思う。どこかでひっかかって来ないかなと思っていろいろ話をして、普通に最近見た作品で何か面白かったものがあったら教えてくれとか、小紋(注:高嶺のお子さま)を連れていって“赤ん坊を観察しよう”とか。それもかなり滑っていて、「可愛い〜」みたいなんで終わってしまったんだけど(笑)。
 

 
高嶺  僕が気になっているアボリジニーのダンスとか、イヌイットのビデオとかをいろいろ見せて、要するに自分の興味のあるもの、憧れているもののサンプルとして僕は見せたのね。
 その授業でずっと時間を一緒に過ごすわけだけど、「最終的に作品という形をとる必要はないから」とか言って、日常生活のレベルで何かおかしいとか、変えたいということが、どこでどう共有できるか、僕がやっているのは日常を再現するための技術じゃなくって、日常を変えるためにやってるんや、と。自分も変えないといけないと思っている、「フツーの生活」みたいなのがあって、その延長で作品作ってもしょうがないと思ってるんや、と。そんなことを話して。
 でも抽象的な話だから、なんだか皆ポカンとしていて。僕も言葉足らずで説明もへたくそだったから、ただの変な人、みたいに思われてたような気がする。
 で、どんどん授業に来る学生の数が減っていって、余計に分からない(笑)。どうやってこの後それを結実させていけばいいのかが、ほんまに分からなくなった時もあったけど、とりあえずワークショップで動いたりするのをずっと一緒にやってた。

アリ  高嶺はそういう身体的な訓練は受けてないよね。

高嶺  受けてないよ。だからバーレッスンなんかできないから、例えば他の授業でヨガのレッスンをやっている子がいたら、「やってやって」と言ってやってもらったりとか、まあ持ちつ持たれつ、思いついたことをその場その場でやったりしてた。

アリ  その辺は準備なし、行き当たりばったりな授業をわりとやっていたってこと?

高嶺  うん。プログラムは何も、始まる前には考えてないので、まあ顔を合わせてから。だから、僕も不安だけど学生はもっと不安やったんちゃうかな、今年も(笑)。学生にもワークショップをやってくれって言って、一人ずつネタを考えてきてもらって、例えば“目をつぶって絵を描く”というのをやる子がいたり、“いろんな発声をしてみる”というのをやった子もいたり、そういうのを何度かした。それで何か面白いものが出れば、というのと、あとやっぱりみんなが何に興味があるのかが知りたかったということ。

アリ  それって録画しとくの?

高嶺  ビデオ撮ってます。この子はこういうシチュエーションになったらこんな声で喋るとか、こうやってくれって言ったら、ああ、こんなことが出来るんや、ああすごいすごい、とかっていうのを。

アリ  じゃあもう他愛無い仕草とかも撮ってたり。

高嶺  そうそう。その情報の蓄積みたいなのを、僕は多分やってるんやけど。その時間がないと、いきなり面談とかで何の役やってくれ、みたいなのは……。

アリ  さっきの素人も含めてやけど、何見てたって誰見てたって、ずーっと見てたら面白くなるもんじゃない、人間って。面白い人が僕の周りに多いだけなのかもしれんけど。人間観察、面白いよね。

高嶺  すごい面白い。だから引き出しにその面白かったものを全部ストックしておくみたいな感覚で。

アリ  でもまあ裸にするのも含めて、よっぽど知り合わないと、出来ない関係がいっぱい築かれている。もちろんワークショップをさせて粒を立たせているというか、人間が現れるような、一人ずつを分かろうとしていろいろやってる。捉え方が違うやん。ダンサーとして駒として使っているんじゃなくて、やっぱり基本は共同作業っていうか、その子が出てくるように。

高嶺  基本的にはそうやね。でもすごく知っているわけじゃないからね。4月から週5コマずつ、7月終わりまで80時間くらいだけだし、人数も多いから、そんなに深く知り合えるほど時間はない。しかも一応先生と生徒っていう関係でもあるから、そんな立ち入った話とかもしにくいし。してたけどね(笑)。っていうかこう、「生徒のことを深く知ろうとしている先生」ってうざい、みたいなんあるやん。「知りたいって言うけど、一体なにを知りたいんですかぁ?」みたいな。「もっと仕事みたいにサバサバ付き合いたいんですぅ」みたいな。微妙な距離感やねん、お互いに。
 だからなかなか出て来なくて苦労してたの。4月から始まって6月いっぱいくらいまでそんな感じだったと思う。で、発表公演が近づいてきて、もう時間がほんとにないから、このままじゃあかんわと思って、こんなことしたい、こんなことしたい、っていうのをワーッとやっていった感じ。この時には一応、引き出しにはいろいろあったし。ふふふ。
 でもやっぱり一個の作品を作るっていう、それが始まってからは全く雰囲気が変わってきた。具体的な目標があるとないとでは、やっぱり違う。いい意味でも悪い意味でもそうだなと思った。

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