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日々是ダンス。踊る心と体から無節操に→をのばした読み物


21 高嶺格インタビュー

                    《ハダカ2》



高嶺  あっ、裸になるで思い出したけどね、僕の周りで最近すごい裸になってて。

アリ  すごい裸になってるの(笑)?

高嶺  最近やった講座があって、パブリックとプライベートの関係性とか、その境界線辺りをやって欲しいっていうので、野外で裸になって写真を撮るのと、プライベートで性的なビデオを作るっていう2つをやったの。一般講座やから、いろんな年齢の人がいて、でも定員超えるくらい来たんよ。20人。

アリ  20人集まって、パブリックな場所で裸になって写真を撮ってきなさいと。男性女性入り乱れて20人?

高嶺  そう。でも写真を撮ってきたのは13人で、ビデオでもうちょっと減って10人くらいになったから、脱落者もいたんやけど(笑)。
 で、まず1日目が集まって説明会。僕は19歳の時にいっぺんストリーキングで四条河原町で捕まっているんだけど、その時の話とか、イスラエルの女友達が、家では家族全員ずっと裸だったっていう話とか。あと、スペンサー・チューニックの写真とか、自分の作品を見せて。

アリ  ストリーキングで捕まってるって、学生の延長線上で? 趣味(笑)?

高嶺  いや、もう20年くらい前の話だけど、大道具のバイトに行ってて、楽日で皆で大道具さんと打ち上げに行った時に、恐いおじさんたちに「お前脱げ」って言われて、「はいはい」ってパパッて脱いで、「じゃあ2軒目行くぞー!」って歩いてたら捕まった。最初のお店の人が通報したらしいんだけど(笑)。だから100mくらいしか歩けなかったんだけど……。なんていうんやろね、それまで感じたことのない新鮮な、このままどこまでもいける、みたいな感じになった。通行人もいっぱいいるんだけど、ああこの中で僕が一番自由なんだ、って。“自由”って、観念的な自由じゃなくて、体が自由になった、みたいな感じね。そんな話をした。
 あと、身体的なワークショップとかをちょっとやった。パブリックというものが、いわゆる屋外のパブリックもあるけど、ここに集まった“お互い”というか、写真を見せ合ったりするグループもパブリックだということもあるから、わりと親密な空間にしとかなあかんなと思ったから。目を見つめ合うとか、マッサージをするとか、コミュニケーション系をいろいろやった。
 で、みんな撮ってきたの! 写真の時がもうめちゃめちゃ面白くて、例えば30代半ばくらいの、すごい真面目そうな感じのOLの女の人が、「いつも朝通ってる通勤路でやってきました」って。朝8時半やで。すっぽんぽんでちゃりんこ乗ってな。四条烏丸やで! あの辺、朝8時半とかだから人がいっぱいいるんよ。そこを嬉しそうにパーッて駆け抜けてる写真。

アリ  写真? 笑顔? それは最高やなあ。それは誰かと組になって撮るの?

高嶺  その人がすごいのは、ちゃんとしてて、知り合いの写真家2人お願いして、この隅とこの隅で撮ってほしいと。その写真家の人は、「やりたいことは分かったけども、俺は捕まるのはイヤやから、赤信号に絶対引っかかったらあかんで」って。で、ちゃんとリサーチして、ここの信号を何時何分に青に変わる時に出発したら、1回も引っかからずにここのポイントまで行けるっていうのを何回かやって、それで撮ってるの。

アリ  ああもう最高やなあ。

高嶺  その写真は、周りのおっさんとかが、!%$?&@!みたいな顔で映ってんねん。すっごい面白い。
 40代の女の人は、過敏性皮膚炎で乳がんでおっぱいも切ってるし、身体的にコンプレックスがすごくあると。「大体そんな話を周りに出来る人がいない。私は一体どうしたらいいんですか」みたいなこと言ってた人が、市バスに寄り添ってピースしてる感じのを撮ってきて(笑)。「えっ、これは周りは人いなかったんですか?」って聞いたら、「いや、いましたけど」(一同笑)。「意外と平気でした。でもバックミラー越しに運転手さんとずっと目が合ってました」。この人、次の時は大股びらきで掃除機と戯れてるのとか撮ってきたから、もうびーっくりした(笑)。
 若い女の子は、ローソンの看板の上に上れるところがあって、そこがいいなと思ったから、上がって脱いでたら、向かいの通りに人だかりが出来てしまった、と(笑)。他にも、全身マヨネーズだらけになってたり、友達たくさん集めて応援してもらいながらマスターベーションしてたり、みんなめちゃめちゃや。でもほんまに面白かったわ、全部で3回しか集まってないんだけど。

 

 
アリ  すごいな。ほんまにそんなん? 1回目で課題を出して説明をしたりして、2回目に写真撮ってきてくださいって言って、3回目ビデオ撮ってきてください。

高嶺  そうそう。あいだ2週間ずつ空けて。でも面白かったのは、自分の作ってきたものに対してコメントを1人ずつもらったら、皆むちゃくちゃ喋るねん。「もうね、私ね、ここに行ってこうしたらね、警備員さんに怒られて……、で、逃げてー」(一同爆笑)。「で、次はこんなところに行ったんですよー」みたいなの、すっごい嬉しそうに喋る。自分の作品をプレゼンするのに、こんなに嬉しそうな人なんて見たことないわ、っていうくらいに喋る。

アリ  震災でも、経験者は喋る時にみんな生き生きしてるのよね。生死の境をさまよった、そういう感じなのかもしれんけど、自分の身を張ったことをしたら、充実感がすごいんやね。僕は震災の時はいなかったから、経験談を聞くことが多いねん。聞くと、なんか一生懸命。わりとニコニコしてる。

高嶺  そうなんやろな。分かるなあ、それも。

アリ  いやー、めっちゃおもろいなあ。そんだけの短時間でそこまで出来るのがすごいよね。

高嶺  いや、よかった。世の中まだまだ捨てたもんじゃないわ。みんなあっという間に仲良くなってたしね。終わった後、「ずいぶん楽になりました、ありがとうございました」って感謝された(笑)。いやいやこちらこそ、と(笑)。

アリ  あの猥褻陳列で見せられなかった高嶺格氏が、って(笑)。

高嶺  「次はあなたを脱がします」(一同爆笑)。

アリ  じゃあ高嶺のいま興味あることは、精神的に人を裸にすることじゃなくて、物理的に人をどんどん裸にしていくことってことでいいんかな、結論としては。これからは人を脱がせてなんぼ(笑)。

高嶺  あはは。でもさあ、自分の作品でも裸はたくさんあるけど、どれもエロじゃないねん。いや、残念ながらほんまにそうやと思う。『木村さん』だって、あれがなんで検閲されるかって言うと、猥褻だからじゃなくて、猥褻じゃない裸だからだと思ってる。
 ミシェル・フーコーの言葉があってさ。学生にも、この講座でも話したんだけど、ええと、たしかこんな言葉。
 「人々が互いに愛し合いはじめることが問題なのだ。制度は虚をつかれてしまう」。
  ダムタイプの『S/N』で使われてたから知ってるんやけど。前後の文脈では、同性愛的な性のあり方がなぜ危険視されるのか、についての言葉やねんけど、『S/N』やってた頃にはずいぶんこのことについて考えた。で、まだまだ考え続けてるんやと思う。

                                 (2006年12月17日 敬称略)

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