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日々是ダンス。踊る心と体から無節操に→をのばした読み物


2008年11月号 『2001年壺中の旅』レビュー他

ダンスと都市の交差点
「踊りに行くぜ!!vol.9」@前橋+別府(巡行型公演)


                                    text:メガネ
                                           画像提供:JCDN
                                         (写真撮影者は写真上に記載)
 

◆ 『中心市街地ダンス巡行!』@別府 11月15日(土)18:30出発
振付・演出、坂本公成+別府WSメンバー「別府商店街ダンス化計画」@platform06/07

 のっけから観客の「ダンスを見る」構えを鮮やかに切り替え、見る者/見られる者に二分される関係にも揺さぶりをかけたのがこの作品。まず始めに観客は、Platform06/07に通されると舞台とおぼしき板張りを囲んで陣取った。が、舞台に上がって挨拶を始めた坂本は、「じつはこっちが前になる感じです」と、商店街とPlattform06/07を区切るシャッターを指して客席を組み替える。やられた、と思いながら席を移すと、スタッフとは雰囲気の違う男性がシャッターを上げてゆき、向かいの店の降ろされたシャッターを背景に、店構えをフレームとして商店街そのものを舞台と見る格好に。何が起こるのか興味津々の観客の前を、個性的なファッションの女性が颯爽と通り過ぎた、と思ったら子供がだーっと駆け抜ける。最初のうちは、パフォーマーと一般通行人の見分けがつかない。そのうち、二度、三度と登場する者が出てきておやおやと思いだすあたりで、歩行の途中ですっと立ち止まる者があらわれ、無関係と思っていた人々の動きがランダムにシンクロしてゆく。そのあたりから演ずる構えをとる身体が次第に通行人から際立ってゆき、同時に一般通行人からも様々な反応が引き出されてゆく。虚実が入り交じる通りの上で、演じる人、立ち止って注視する人、目を向けながらも足を止めない人、視線をそらせて立ち去る人々の身体が微妙な違いをなし、視線の的は拡散される。そして時に、観客も通行人の好奇のまなざしの対象となる。視点やフレーミングにより、日常の場面もダンスであり得るとする坂本の考えを反映して、「見る」という行為の大切さに目を開いた導入であると同時に、シャッターや路面を利用したアンサンブルや個人の振付のあたりでは、このイベントに集まったパフォーマーの想いのようなものも垣間見える気がした。


 


 
 
 
◆ 百田彩乃・高山力造「spare」@platform01

 水の入った1本のペットボトルをめぐり、男女が繰り出す丁々発止のコンタクト作品。ボトルはときにボーリングのピン、ときに茶道の碗と、パフォーマーの扱いにつれ意味合いを変える。「何をしている」というところをとっかかりにダンスを見てゆく人は少なくないが、その点でもフレンドリーで楽しめる小品だ。このペアは前橋でも目にしていたので、筆者には、作品の成長/変化を見るという「踊りに行くぜ!!」ならではの楽しみもあった。時間構成や振付は変わりないが、別府では、一色に塗られたコンパクトなスペースの中で、動きの精度や二人の間合いの密度がより高まった。それはペアワークの成熟によるのかも知れないし、もちろん場所や観客との距離の違いもあるだろう。場所はダンサーだけではなく、観客の鑑賞の枠組みにも影響を及ぼす。ここでは間口いっぱいに設けられた客席に、通りを背にして座る劇場に近いかたちとなったため、観客は前の作品とは打って変わって二人の間で交わされる細かいやりとりに集中し、「何をしている」からダンスそのものへと目を向けてゆくことができたのではないか。                             ↓撮影:杜多洋一


 


 
 
 
◆ 室伏鴻「quick silver BEPPU version」@八坂通り

 小雨の中、別府で一番繁華な場所であると同時に昭和な雰囲気を纏わりつかせた通りに、ただならぬ風貌の男が佇んでいる。銀塗りをしていなくともまごうかたなき異形の出現に、一般通行人や酔客までもが足を止めて魅入っている。「昔、この街には、金粉ショーで、お世話になったことが、あります」。誰にともなくそうつぶやくと、室伏鴻は、街灯にしがみつくような格好で、じわじわと蠢き出した。線ではなく細かい点として見える動きは、体に潜む昔の記憶と対話しているかのようにも見える。時々うう〜とうなり声が漏れる。室伏の銀塗りパフォーマンスに接するたびに、自分が知る由もない時代、とりわけ「戦後」という言葉が生々しかったであろう時代に、この体を通してならアクセスできそうな気がしてくるのが不思議だ。やがて着衣をとり銀塗りの半ばはげた背中を観客にさらした室伏は、移動しながら濡れた路面に何度もばたんばたんと倒れ込んだ。視線を一身に集めつつも、見る者の体を決して寄せ付けない異形の身体に、観衆は海が割れるように左右に道をあけながら室伏を追った。


 
 
 
◆ contact Gonzo「triptych/reflections on a damaged life」@やよい天狗通り

 それまで観客に混じって移動していた男子が三人、リュックを降ろして互いの距離を測り、おもむろに殴り合いを始める。彼らがやっていることは一体何なのだろう? 身体技術としては格闘技に近い行為を、彼らは「接触の技法/痛みの哲学」というセンスのいいキーワードで方向づけている。それを手がかりにするなら、彼らがめざすのは、スペクタクルの場における関係の非対称性が消滅したり、転倒したりする瞬間のように思われる。例えば見られずに見ることは可能だが、触れられずに触れることは不可能だ。その境界面における力の均衡が崩れた状態を生み出しつつも、彼らが志向するのは暴力とは逆の側だ。なるほど、暴力が衆目を集める過程では、見る者は自らの感覚を麻痺させ、現場で起こっていることから身を切り離すが、自分の身体を最も意識する機会である「痛み」において、観客とパフォーマーの距離は一瞬ゼロになる可能性を持つ。勝敗を決しない遊戯性や、インスタントカメラを用いた撮影行為なども、観客を含む人々の相互的な関係に関わることなのだろう。そして、そういった基本的なことがら以外はすべて、コントロールされない。この日は三つ巴状態が間延びではないだらだら感のうちに持続し、見事にまちまちな観客の反応を引き出していた。


 


 
 
 
◆ Abe”M”ARIA(作品タイトルなし)@海門寺公園
    (を予定していたが、筆者が鑑賞した15日は雨天のため国際通りソルパセオに戻って実施。)

 次の公演を求めてのそぞろ歩きを中断するかのように、耳をつんざく女性の叫び声が聴こえ、激しいビートのノイズミュージックが始まった。どこに見るものがあるのか、それが何なのか、さまよう視線は他の鑑賞者のそれをガイドに、群衆の中でびりびりと体を振るわせるAbe”M”ARIAに辿りつく。その全身からは終始、衝動に発するかのような振動が振りまかれて辺りの空気を揺らしてゆく。終盤に用いられた椎名林檎の曲と同様、こういうやむにやまれぬ感じをクールにコントロールしながらやられると、個人的にはぐっときてしまう。そういったダンサーとしての出力もさることながら、Abe”M”ARIAの真骨頂は、独りよがりとなれ合いに陥らず、新たな関係を生み出し続ける客いじりの巧さであった。ダンスで路上に人垣ができるのも、ダンサーを追って群衆が移動するのもよく目にするが、前橋で同じことをやったときは、観客が蜘蛛の子を散らすように逃げ惑い、これが新鮮だった。見たい、けれども近づくのは怖い。そこでは目にしようと詰めかける観客と、距離をとろうとする観客が常に動き続け、その運動が商店街を満たした素晴らしいエンディングをもたらした。



 
 
 
◆ 他者とのあいだを体験する空間、ダンス

 さて、「踊りに行くぜ!!」巡行型公演@別府商店街を、パフォーマーの身体が、居合わせる者の視線と身体をリアルタイムで束ねたりばらしたりするという側面に焦点をあてて見て来た。その過程で参加者は、動きながらパフォーマーや他の観客との距離を刻々と変化させていった。これを身体の境界にかかわる体験と捉えるなら、これほどヴァラエティーに富む身体との距離/境界をダイナミックに更新しつつ、その様子を一緒に歩いている集団の運動としても目にできる機会は、稀なのではないかと思われる。それは、観客と相互的な関係を結ぶ具体的な方法論を持ったアーティストが参加していたことや、個々のパフォーマンスが、地元の語り部によるお話の時間を挟みつつ、類いまれなコントラストをなしていたことにもよるのだろう。全体の公演の中で結び開かれた関係が、終演後の歓談に流れ込んでいたことは先に述べた。このような体験が参加者にとって充実したものであったなら、たとえそれと意識されずとも、都市にまた別の公共空間を求める運動や行為につながってゆくのではないだろうか。その意味で「踊りに行くぜ!!」の巡行型公演は、ダンスの可能性と都市の問題が結びつく具体的な手がかりを示してくれた。


 
  「踊りに行くぜ!!vol.9」は、この後も12月12日まで 茅野 佐世保 広島 宮崎 栗東 豊岡 でご覧になれます。記事で触れた室伏鴻さんは栗東公演(←チラシ画像)にも出演されます。是非お見逃しなく。詳しくはコチラ>>> http://odorini.jcdn.org/
 

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