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一九九一年十月十九日。中崎町のカフェ「天人」の片隅に残された、日めくりカレンダーの日付である。その日以来眠ったように時を沈殿させていた町家が、十年の歳月を経て、再び呼吸を始めた。町の記憶と、そこに住まう人の記憶と——。そんなこんなを受け継ぎながら、新しい記憶を刻む再生町家を訪ねて。
『空堀レトロ』は昭和の駄菓子屋さん。大人たちは童心に帰り、子どもたちは素朴でたくましい駄菓子の魅力に引き込まれていく。

空堀かいわい。若者たちが地元のお年寄りに道を尋ねながらそぞろ歩く。何が彼らをひきつけるのか。町おこしに打ち込む建築家と気鋭の研究者が歩いた。考えた。語り合った。

ゲスト
大阪市立大学専任講師 中嶋節子
なかじま・せつこ●滋賀県生まれ。京都大学大学院工学研究科修了。専攻は近代都市史・日本建築史。歴史的街並みや近代建築の保存・再生事業・調査などにも参加。

案内人
「からほり倶楽部」代表 六波羅雅一
ろくはら・まさかず●1961年、大阪市生まれ。松野八郎綜合建築研究室を経て、88年六波羅真建築研究室設立。2001年4月、空堀商店街界隈長屋再生プロジェクト「からほり倶楽部」設立。02年1月、大阪市中央区谷町6丁目の長屋を自宅兼事務所として改築。

三方の角に町家が残っている「町家の辻」。六波羅さんと中嶋さんの歩く共同研究「空堀町家考現学」の出発地点に。

風情あふれる町家の辻


 空堀は秀吉大坂城をガードした惣構で、大坂冬の陣後に埋められた空堀ゆかりの町。大正から昭和にかけてニュータウンとして開発が始まり、いまは歴史を刻んだ古い町家を再生する町おこしが、市民の手と情熱で進んでいる。
 谷町六丁目。「この辻、いいでしょう。隅切りされた町家がこれだけしっかり残っているのは珍しい」と六波羅さん。長屋を改造した六波羅さんの自宅兼事務所から東へひと辻。四つ角のうち、三つの角に町家が建っている。中嶋さんは興味深そうに見渡す。
「本当ですね。大阪の近代町家らしい特色をよく留めています」
 食堂にバッグ店。さまざまな表情をもつ「町家の辻」だ。南下すると、「石丸会」の門が目に入る。路地の奥には町家が軒を連ねる。
「この近辺では町家の地主や家主さんが同じ場合、町内会のような独自の組織をつくっていたのではないでしょうか。路地は外ではあるけれども、門からいったん中へ入るような中間的な空間をつくりだしている」(六波羅さん)

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「いっしょに住むモラルやルールがいつのまにか育まれるような」
「門の中では知らない人同士でもあいさつできる。路地の役割も含めて長屋は現在の集合住宅の問題点をかなりクリアしている


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