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空堀は坂のある町。坂道を歩くと目線が変わりリズムが生まれる。
暮らすには少し不便だが、単調になりがちな日常に変化をつける異空間だ。

起爆剤はセルフビルド

味わいのある石畳の路地。所有者が竹細工などで趣向を凝らし丹念に管理している。長い歴史を重ねてきた都心部に暮らす「町家の美意識」が匂いたつ。

 懐かしい昭和の駄菓子を集めた『空堀レトロ』の店先で、タウン情報誌片手の女性グループと出会う。「神戸から来ました。香港の友人を案内してるんです」。お目当ては裏手にある創房『心裸』のスリランカカレーだという。
 「心裸」は長屋を改造。和みの空間が広がり、陶芸教室や紅茶喫茶が出迎えてくれる。昨年二月、陶芸家が専門業者に頼らず、自身で解体から内装までを手がける「セルフビルド」手法でオープンさせた。
「普通に大工さんらに依頼すると、床や壁のビニールクロスを張り替えるだけでも、相当な費用が必要になる。しかし、『心裸』さんは自分たちでできるんだということを証明してくれました」
「町家再生の起爆剤がセルフビルドであったことは、とても大阪らしい始まり方だなと思います。町家の残し方はいろいろあるでしょうが、自分たちの力という姿勢に明るい未来を感じますね」
 奇抜なビルではない。ありふれた平たい長屋が、新たな空堀を象徴するランドマークになっている。

長屋再生店舗『心裸』の内部。仕切りを取り去り、玉砂利を敷き詰めた和みの空間が広がる。和風プラスアジアンティスト。

宝物が眠る町

 「町家の辻」に戻って東へ。石畳を敷き詰めた路地は竹細工で装飾された典雅な佇まい。「路地マップがあれば楽しいでしょうね」と中嶋さん。
 突き当たりに町家が見えてきた。右にはカギ型に折れ曲がった坂道がある。
 観音坂。フラットな大阪平野では貴重な上町台地ならではの光景だ。絵筆を執りたくなる絶好のスケッチポイント。ふたりは坂の上から町家をながめながら「路地ごとにお地蔵さんかお稲荷さんがある。大阪の原風景、ここにあり」「季節の移ろいが感じられ、イベントも組みやすい。宝物がまだまだいっぱい詰まっているという感じですね」。
 坂を上りきると谷町筋。南へ進めば空堀の商店街と交差する。平日の昼下がりながら地元の買い物客が行き交い、商店主との会話も弾む。だらだらと西へ下って、南へ少し上ると、長屋を改造した集合店舗『惣』。オープンは今年七月で、六波羅さんが代表を務める「からほり倶楽部」がプロデュースした長屋再生ショップである。

 

 

「石丸会」の門の前で。小さな門が路地と表通りと適度に分断し、路地で暮らす住民の連帯感を育んでいるという。都市生活を知りぬいた大阪人の知恵だ。

新旧の共生で賑わいを

 木造二階建ての店舗に五つのシッョプがあり、一階の「クーデリーカフェ」でティータイム。
「この長屋は解体作業の見積もり中に、私が偶然通りかかり、解体するのを待ってくれとお願いしたところから始まるんです」
「柱一本で家の履歴が分かる。子どもさんの身長を測った柱の傷も大切な歴史です。新建材を張ると隠れてしまいます」
 「からほり倶楽部」には「新旧の共生」という理念があるという。
「人も建物も新しいものと古いものが共生できてこそ、町が賑わいます。かつて空堀には東賑町、西賑町という町名がありました。町名どおり、新旧の共生で賑わいを取り戻していきたい」
 歩けば歩くほど、味わいが増す町だ。

(左上)空堀再生の起爆剤となった長屋改造店舗『心裸』。
(右上)元『小玉湯』は今駐車場に。
(左下)風情のある町家の右手に観音坂。
(右下)二階建ての長屋を再生した複合店舗『惣』。

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