3月30日(日)
「第二回文楽チョキチョキ勉強会」の日だ。募集の30人を越える37人が参加。これ以上増えたらどうしよ、といううれしい悲鳴をあげてしまう。今日のゲストは、小林昌廣さん。芸術生理学の開拓者(?)。文楽、歌舞伎などの伝統芸能の愉しみを語ってくれた。小林さんは、そういう芸能の"空気"が好きなんだなあと実感。多分、演者が見えていなくても、三味線の音が漏れ聞こえてくる場に自分がいることが大好きなんだ。新しい試みとして、"お菓子"も用意した。去年のフィールドワーク受講生だった中澤茜さんの手作り。文楽の本質である、"三業一体(大夫、三味線、人形)"を味で考えて、甘味噌、黒糖、和三盆の3つの甘みを合体させた和製クッキーのようなもの。それぞれ個性の強い甘みだけれど、3つ一緒に愉しむと意外な美味しさになる。最初は、みその風味に驚いたけれど、けっこうクセになる。アンケートでも好評だったし、こういう"文楽チョキチョキ"をしていってもいいな。
おうちに帰って、原稿書き続き。ひー。
3月31日(月)
朝からリハビリ。痛いなあ。なかなか直らない。やっぱり腕をあげてのバンザイは出来ないし、「なんでやねん」のツッコミ手は出来ないし、いつ直るのだろう。そして、直るのか、これは。リハビリは、けっこうギュギュと腕をのばしたり、曲げられたりするので、体力を消耗する。
お昼から原稿書き。うーん、うーん、夜に一回目の原稿を入れる。編集から「悪くはないけれど、もう一回がんばって」。だろうな。自分でも、もっとイケルはずだと思っているし。深夜に『ぴあ』原稿書き。
4月1日(火)
『ぴあ』の締め切り。ヘロヘロ。こういう時に限って、いっぱい直しがくるんだよなあ。キリキリ、マイマイ。なんとか6時アップ、電車にのって京都のギャラリーそわかへ。『熊野アート・プロジェクト』で一緒だったカメラマンの今井さんが参加しているグループ展のオープニングだ。徳田さんも来ていて、熊野話で盛り上がる。今井さんの作品は、写真を何十枚、何百枚とコラージュして、曼陀羅や動物のカタチを創り出したもの。ファイルで想像していたよりずっと大きくて、生々しい感じがした。私は動物ものが好きかな。他、田邊晴子さんも参加していた。3年ほど前、初めてであった時は、大学を卒業したてだったのに、もうお母さんになっていた。時間の流れが速い。って私が止まっているのか。
4月2日(水)
昨日、そわかで飲み過ぎた。よろよろしながら、お昼過ぎ、国立文楽劇場へ。明日、舞台稽古の撮影をするのだが、その時の撮影ポイントを知るためにビデオを見ることにしたのだ。『絵本太功記』。なんだかこう、奇妙な世界観である。主君を討った武智光秀が主人公なのだが、彼自身は心は動かず、周りの家族達、母、妻、息子とその嫁が、人間としての感情をむきだしにする。それぞれが個性を発揮する"見せ場"があって、悲壮なお話のわりには、晴れやかな見どころ満載の舞台だ。悲劇はこうやって愉しむのだ、という古典の力業を見せつけられる。
4月3日(木)
朝から文楽劇場。舞台稽古を撮る。文楽は、本番前に1回しか通し稽古をしない。そこですべてが決まっていく。この日は、足遣いや左遣いも黒子をかぶらず、顔を見せている。だから、舞台は人でいっぱいになっている。おもしろいのは、介錯とよばれる下働きの若い人達。師匠のほんのちょっとの合図を読みとって、小道具を置く位置をなおしたり、道具をどこでわたすか、ドタバタと動き回っている。本番では、彼らの姿は見えない。でも、船底で必死でやっているだろうなあ。『絵本太功記』は、吉田玉男、吉田簑助、吉田文雀の3人の人間国宝、桐竹紋寿というベテランが勢ぞろいするゴージャス舞台だ。そこに吉田簑太郎改め、三世桐竹勘十郎が主人公の武智光秀で登場する。うわー、すんごいプレッシャーだろうなあ。こちらまで、緊張してしまう。やっぱり舞台はいい。迫力が違う。汗だくの勘十郎。前にインタビューした時は、「最近、舞台で汗をかかなくなった」と言ってたのに、滝のような汗をかいている。これは、舞台稽古だからかもしれない。この時に全力を出して、思いっきり、やりすぎぐらいに演じておくと、本舞台で余裕を持ってやれるってことか。文楽は制約が多い。だけど、その制約をぎりぎりまでつきつめると、"個性"になる。それは、抽象的なことじゃなくて、実体としての"個性"が見える、そこにある。面白い!
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