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(c)現時点での活動状況
現在、アーツアポリア事業は、《サウンドアート》と《アントルポッの放課後(現代美術についての、レクチャーを中心とする研究会)》の二つの部門、そしてそれらのサポートである《事務局》(ウェブ制作、ライブラリー、ボランティア受け入れ等をも含む)を中心とする。サウンドアート部門には、ディレクターとして小島剛がおり、『アントルポッ』メンバーは、青山勝美術研究者)、小山田徹(美術家)、清水克久(美術家)、松井智惠(美術家)、森口まどか(評論家)である。事務局スタッフは、マネージャーである中西美穂(週5日)、制作サポート事業(各プログラムネットワーキングツール)スタッフでライブラリー専門の上田のぞ美、web担当の河上隆昭(週2〜4回)、その他専門分野スタッフとして見習い中スタッフ(大学などに通いつつ)3名(それぞれ週1日)が主な構成員であり、行政側担当者(月2回〜)が居る。また、プログラム催し物(月1〜3回)の準備&本番&かたづけのためのボランティアが、14人ほど(実働は5〜6人)居る。また、警備と宿直要員として、クリーンブラザース(後に詳論の予定)のメンバーが居る。(今までの活動状況については、こちら)。
ただし、この事業は、10年間継続するものであり、現在、まだその2年目であることを忘れるべきではないだろう。中西美穂より聞いたところ、大阪市内で活動中の芸術関連の動きとの連携を目論んでいるとのことである。つまり、今ある部門はあくまでも、今あるものであり、後々部門は新設されたり、あるいは整理統合されたりすることもあり得る。(だから、その改変状況に応じ、建物及び部屋の利用の状態も、今定まったもの、予定されているものとは異なるものとなるだろう。事業は、定められた空間に応じて展開するのではない。小山田の言葉(*16)を借りて言うなら、「用意された空間」に適合してゆくのではなく、むしろその進行状況に応じて「獲得する共有空間」において、展開するのである。)
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<図C 赤煉瓦倉庫の将来予定図>
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(d)まとめ
ゲオルク・ジンメルは、エッセイ「額縁」(*17)にて述べる。「芸術作品の本質は、しかしそれだけでひとつの全体を成し、外界との繋がりを必要とせず、その糸の一筋一筋を中心点に逆に紡ぎかえすことができるという点にある」と。作品は、「内的な統一と、それがすべての直接的な生から遠ざかった一つの圏内に存在する」という状態、つまりは内向きの統一と外からの隔離とが、同時的に成り立つ状態にある。実生活の日常性から隔たった、切り離されたところ、それとの曖昧な混淆状態から脱したところにおいて作品は内的統一を得る。隔離は、統一に欠かせぬ条件である。
この外向きの(日常に対しての)閉鎖と、内向きの統一とを強めるものが額縁である。「額縁は周囲のものすべてを、とはすなわち眺める者までも、芸術作品から閉め出し、こうして作品を、芸術作品の美的な享受がそれによってはじめて可能になるほどの距離に保つのである。」額縁は、作品を実生活と区別し、それら相互の曖昧な混淆を撤廃する。作品と、部屋の壁の装飾との違いは、額縁の有無による。だからといって、額縁の中に隔離された作品は、実生活の担い手である我々一般人との関わりを、全く絶った、隔絶された状態にあるわけでもない。
隔離とそこでの自己充足は、関わりの条件である。「芸術作品がこのような自足性を持ってはじめて、しかもこの自足性を持つゆえに、それはわれわれにまことに多くのものを与えることができるのである。先に述べた独自の存在のありようとは、ますます深く、ますます充実してわれわれのうちに入り込むべき跳躍の、助走のための後退なのである。」つまり、作品は、日常性とは異質な芸術作品に固有な世界に引きこもり、そしてそこで内向きの生成が創造として突き詰められるところから、鑑賞者の居るところへと踏みこんでくる。この「跳躍」は、日常生活との隔ての無い、曖昧な混淆の上に敷かれた道を通って来ることを意味しない。隔てを隔てとして、明瞭な区別として保持したままに、日常とはあきらかに異なるものとして、そこを飛び越え関わってくることをいうのである。
アーツアポリア事業は作品であり、赤レンガ倉庫は額縁である。周辺の居住地域からも、商業的な遊興施設の地域からも、それらとは別に営まれている活動を隔てて閉ざす障壁である。そして倉庫が強化する内的統一の状態は、静止した作品、閉塞状態を意味しない。その内部では、「糸の一筋一筋を中心点へと紡ぎかえす」かのように、絶えることの無い求心的な活動が、志向されている。その意味で、アーツアポリア事業は、動的な、形成途上の作品であると言える。それはまだ、始まって間も無い。だから跳躍の前段階、内的充足の段階にあると言えるだろう。その作品の状況については、今回十分述べられていないが、稿を改め論じ直してみたい。 |
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