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“ばかのハコ船”

『どんてん生活』で評価を得た山下敦弘監督の最新作『ばかのハコ船』が今年の3月完成した。卒業制作の長編第一作目の前作が3年前の東京国際映画祭から評価され助成を受ける。それを機会に制作を始め、途中の資金難を乗り越えて、さらに文化庁からの援助を得てようやく完成にこぎつけた作品だ。この映画が、実質“PLANET+1 ”発・富岡邦彦プロデュース第一弾となる。配給会社も決まり、来春の東京/テアトル新宿公開を皮切りに大阪/テアトル梅田、その他全国各地でお目見えするだろう。

そもそも山下監督も、“シネトライブ”という“PLANET+1 ”企画の映画祭に参加。この映画をまず大阪のナナゲイで自主公開し、いきなり同じ年の夏におこなわれたPFFで招待作品となる。99年夏のことだ。同時に柴田剛監督『NN891102』も招待された。PFFの招待作品の枠は、いつも旬の日本映画の新作がラインナップされているのでなかなか要・注目プログラムなのだ。配給会社にいた自分も仕事上ということもあったが、もちろん趣味も手伝って興味津々でチェックをし、この時に初めて噂に聞いていた彼らの作品を目にし、彼らと出会った。

正直言って、驚いた。自主制作映画を目にする機会はそれまでも頻繁にあって見慣れていたものの、いわゆる“自主映画”によくありがちな内輪受け、というか自己満足な部分があまりない。荒削りでスマートさはなくエンターテインメントとしてどうか、というとまだまだなんだけど、何か外側(観客)にむけて発信していこうとする“本気”を感じた。いままでの“自主映画”に対する自分のイメージが払拭される。…ちょっと違うのではないか。1年後くらいに彼らのサポートに少し関わる機会があり、富岡さんと話してみると、どうやら彼も大いにそれを感じて触発され、熊切監督はじめそれにつづく山下、柴田、本田、宇治田、元木、村主、山本他等々をサポートしていくようになったのだという。彼らの輪の中に何度か加わらせてもらってみて感じるのだが、映画に取り組んでいる彼らはみていて本当に清々しい。

完成後、今年4月におこなわれた香港国際映画祭でのマーケット向けの上映HongKong Asia Screeningを皮切りに、バンクーバー、東京国際映画祭、釜山等々『ばかのハコ船』=“ばかハコ”は今年、海外をまわっていた。
日本では今年七夕の日、“シネトライブ2002”のクロージングイベントとして“ばかハコ”は特別プレミア試写として、初めて一般にお披露目された。会場は、大阪十三にある“ナナゲイ”。

会場でも度々笑いがおこったように正直、なかなか面白いものに仕上がっている。今までにあまり観たことのないような新しい“感覚”。言葉だととてもチンプになってしまうが、こんな笑いのセンスの映画は日本映画では珍しい、のではないか?紛れもなく弱冠25歳・山下監督の等身大映画なのだ。こだわりの画づくりからはじまって、独特の間合いの演出。監督をはじめ、とりまく彼らの結晶がこの一本の映画に込められているのかと思うとそれだけで感動モノで、少しでもこの映画に関われたことをとても嬉しく思えた。

そして、山下監督は目下商業ベースでの映画の制作準備にとりかかっている。
彼のクルー、おなじみのメンバーがまた結集している。
今回はオリジナルではなく、つげ義春『リアリズムの宿』。
原作モノへの新たなる挑戦だ。
こちらも“PLANET+1 ”プロデュース。
鳥取にて12月8日いよいよクランクイン…。

[ 8/10 ]