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<花形能舞台>の人びと〜片山清司の場合〜
 片山九郎右衛門邸は京都東山区新門前通りにある。
 だから、“門前(もんぜん)の先生”。
 片山清司はここで育った。
 祖母は京舞の4世井上八千代(いのうえ・やちよ/現・井上愛子/人間国宝、芸術院会員)、姉は5世八千代…。
 インタビューをしている間中、ずっと京舞の稽古をする声が聞こえていた。


今度、立命館の大学院で授業をなさるそうですね

片山「後期からなんですけど、この4月に開設された先端総合学術研究科で、伝統芸能を研究されている赤間先生の授業で。僕がやるのは、あくまでも実地研修みたいなこととか、劇場に足を運んでいただいた時にどういう見方をしたらいいのか、道具に触ってもらったりとか、というようなこととかなんですけど」

それは面白そうですね

片山「稽古能を院生の人に見に来ていただいて、どういう形で能が作られていくのかを知っていただくとか、そういうことをしようと思って。それと、もう一つ、手伝っていただこうと思っているのは、いよいよ絵本の第2弾の話が進みそうなので、その絵本のコンテを使ったり、DVD化してゆくのを皆でしてみよう、という…結構たいへんなんです(笑)」

絵本というのは、一昨年に出版された<お能の絵本シリーズ>。清司さんが文章も書かれてますが、まず、絵本を出そうと思わはったきっかけは何やったんですか?

片山「きっかけはねえ…、やっぱり、漫画が出たことかな」

能の漫画ですか?

片山「はい。漫画っていうのはどうなんかな、と思って。で、なんか他のものを考えた時に、自分ら役者やし、本だけで完結されてしまうのってちょっと辛いなと思って。やっぱり舞台を見てもらおうと。それで、余白の部分があったほうがいいっていうか、自分の想いを込めて見られる印刷物てなんやろなと思ったときに、あんまり書き込みのない本やな、と思って。書き込みがなくって、言葉にdouble meaningっていうか、ちょっと薀蓄の入れられる部分があるような、それでいて易しい文章のものって言ったら、やっぱり絵本やな、と」

なるほど

片山「それと、僕らが最終的に印刷物で手許に残してるのは何かなというと、絵本かな、と(笑)。うちのんだって古くなってるけど、やっぱり残ってるし。まあ、古くなって汚くなって、‘こんなもん、うちの子には持たせられないわ’って言い出さはったら、もう終わりですけど(笑)。ま、でも、絵本て、そういう耐久性があるのかなと思って」

なるほどなるほど。

片山「それと、まあ、学校を回って子供に能に親しんでもらうことをしていて、でも、最初は徒手空拳(としゅくうけん=手だてがないこと)で行ってたんですよ。そしたら、しんどくてね。一緒に行く役者の人数も、たくさんで行けなくなってしまうと、やることを絞らないといけないし。‘こんだけのことを伝えたいから、せめてストーリィなとイメージなと、もうちょっと膨らまして待っててほしい’と思って。そんなら、貸出し用の絵本を作ってやろうと思ったんです。だから、一番最初は、貸出し用のペラペラの薄い本から始まったんです。それから、出版社とかけあって、市販できるようなものを作れるところまで漕ぎつけたんですけど」

学校から要望があったわけではないんですねえ

片山「絵本を作りたいって言うたら‘あるといいですね〜’っていう、なんかそんな程度の冷ややかな反応やって。‘ほな、やったろやないかっ!’って(笑)」

出たっ!負けず嫌いっ!(笑)

片山「いえいえ(笑)、そんなことはないですけども」

私、清司さんと同い年でしょう?私が能を好きになった理由を考えてゆくと、その大本は、子供の頃に与えられた絵本に行き着くんですよ。ちょうど、私たちが幼稚園くらいから小学校にかけて、<世界の童話シリーズ>(小学館刊)っていう、ものすごく質の良い絵本のシリーズがあって、日本の中世の絵物語とか、もうとっくに廃刊になってて、でも、みんな大事にしてるみたいで古本屋にもなかなか出ないんです。あれの存在が大きいな、と思うんですよ

片山「そうそう。そういう想いもあって、ちゃんと作ったら、いったいどれくらい費用がかかんねやろと思って訊いてみたら、ひっくり返るような金額で(笑)」

ええええっ?!(←具体的な金額を聞いた)そら、ひっくり返る(笑)

片山「(笑)そんなん、とても無理やと思ったんやけど、まあ、いろいろ方法を考えて。それと、子供の頃にあった少年少女向けの日本の昔話を集めた絵本の中には、テープ付きのものもあったんですって。それを見たり聴いたりして育ってると、無条件に感動する話とか残ってるし、そういうふうに記憶に残ってるものっていうのは、それが基準になってくるでしょ」

影響大きいですよね。

片山「そういうものの中に能の話もいくつか入ったらいいのにな、と思って。で、採算を度外視して作れる方法を考えたんです」

絵本だから、文章が平易であるということもそうなんですけど、絵がよくないと駄目なんですよね。それも、いわゆる今のアニメーションのような発色の鮮やかな色というのではなくて、ほんとに日本画的なっていうか、大和絵っぽい、‘いい色’。そういうのが、今の新しい絵本にはなかなかないんです

片山「第1弾を作ってみて、難しいなと思ったんですけど、やっぱり、あんまり色数が多かったり描き込みが多すぎると、大人はそっちのほうがよくても、子供は反応しすぎて気が散ってしまうので、絵はある意味、素朴なほうがいいのかな、と。高度な絵は、確かに原画に力があっていいんやけど」

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