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<花形能舞台>の人びと〜味方玄の場合〜
 インタビューをしていると、その場にいる周りの人たちの、彼のことが気になってしかたがない空気が伝わってくる。
 不思議なオーラのある人だ。
 かと言って、決して近寄り難い人ではない。
 好奇心旺盛で、人の中に入って話をするのが大好きで、自然に人の輪に溶け込んでいるような人である。


中学生の頃から桂枝雀さんの落語を聴いてはったそうですが(笑)、きっかけはなんですか?

味方「そこからきましたか(笑)。んー、桂枝雀という人がいはるって聞いて、その頃、『枝雀寄席』っていうのが月1回、深夜にテレビであったんですよ。それをちょいちょい見るようになって、‘この人は面白い人やな’と思て。最初の一人しゃべりが面白かった」

それがきっかけで寄席に?

味方「最初は父(味方健/みかた・けん/シテ方観世流)に連れられて行ったんです。誓願寺で毎年10月の日曜日に<策伝忌(さくでんき)>というのがあって、策伝上人という人は、戦国時代の住職さんで、“落語の祖”と言われてる人なんですけど、その人の供養の日に有志の噺家さんたちが集って、本堂で落語会をやってて。それを聴きに行ったりしてて、落語を聴くというのは面白いことやと思うてて。(京都府立)芸術会館で枝雀さんの独演会があって、当日、一人で行ったら切符あったし。その頃は売切れになんてならなかったから」

中学生が一人で落語会に行くというのも珍しいですけど、他の演劇も、その頃から見に行ってはったんですか?

味方「うん。僕、“労演(ろうえん=勤労者演劇協議会)”の会員やったから」

労演に?いつから入ってたんですか?

味方「(笑)高校生の時から…」

舞台を見るの、よっぽど好きなんですねえ。高校生で労演に入ってる人も珍しいと思うけど(笑)、なんでです?

味方「(笑)なんやしらん…ああ、労演はね、母が入ってて、行けない時に僕が代りに行ったりしてて。労演に入ったら毎月1回見られるし、それええやん!と思て」

その頃で印象に残っている舞台は?

味方『テンペスト』!」

どなたがなさった『テンペスト』ですか?

味方「憶えてないねんけど、強烈な印象やった…。それから何年かして、グリーナウェイが『テンペスト』を題材にして撮った『プロスペローの本』ていう映画を朝日会館で公開してて、それも強烈によかった…」

映画も好きなんですよねえ。それも一人で?

味方「小さい頃は連れてってもらってるよ。『ゴジラ対ガメラ』とかはね(笑)。中学生になったら友達と行くやん。でも、かわいらしいの見てんねん。『セーラー服と機関銃』とか『翔んだカップル』とか(笑)。それも二番館みたいなとこで3本立てとかで(笑)」

(笑)なっつかし〜

味方「そのうち、映画は面白いと思うようになって。その頃、映画好きの母が、‘済んだ時にすぐよかったと思うんじゃなくて、あとでだんだんよくなってくる映画がほんまにええねんで’って言うてたの憶えてる。‘ああ、なるほどなぁ’と思て」

素敵なお母様ですねえ。そういうこと言うてくれはるの、羨ましいなあ

味方「んー、母とは、そんなにしゃべるわけではないけど…照れるし(笑)。でも、僕の好きなことを引っ張ってくれた人やね。絵を描くのにしても芝居見るのにしても…。舞台見てもらって、‘よかったよ’と言われて一番安心するのは母やし。父は同業者やけど、母は冷めた目で見るやん?‘どうやった?’って訊いて、‘うーん…’とか言われると、‘え!?どこがあかんかったん!?’って(笑) 。あるレベルを超えると‘よかったよ’になる。『井筒(いづつ)』の時は、‘身体はええけど、…’って言われて、ガクーンときた(笑)。ああ、中身がまだ詰まってへんねんな、と思て。そうそう、この間、国立博物館で雪舟展を見て、もちろん別々に行ったんやけど、あとで母が‘私はあんまり好きとちがう’って。‘ああ、わかるわかる!’‘んー、そんな上手とちゃうやん?’って(笑)」

(笑)んー、雪舟は有名なのが、もひとつなんですよねえ。中学、高校と美術部だったと伺いましたが

味方「それは早く帰りたかったから(笑)。中学の時は全員クラブに入らなあかんかったし。僕ら中学生になったら、もう忙しいやん。囃子の稽古も行かんなんし。せやし、美述部(笑)」

油絵でしょう?どんなん描いてはったんですか?

味方「そんなんで、忙しいから、あんまり活動はしてないけど、ゴッホの模作とか(笑)。グォ〜ッとクネクネの木とかのやつ(笑)」

あ、お母様の書かれたエッセイ、拝読致しましたよ

味方「はずかし〜(笑)」

小学生の頃、おうちで弟(味方團/みかた・まどか/シテ方観世流)さんと、“定期能”をやってた話(笑)。チケットも作って、色紙を切り抜いて模様を貼ったボール紙とケーキ箱のリボンで作った<腰帯(こしおび)>とか、お気に入りの風呂敷の装束とか(笑)。玄少年手作りの紙の能面は何面くらいあるんですか?

味方「60面ぐらいある(笑)」

すごい!どうやって作ったんです?

味方「一番始めは、能を見て家に帰って印象だけでガーッと描いて、ちょっと大きくなると、本を見て描く。その頃になると、ほんまに模写チックになってた。腰帯もみんな自分で箱を作ってて、ちゃんと取ってあるよ(笑)」

楽しそう。可愛い…んー、…変な子やね(笑)

味方「ん?(笑)」

能フェチ(笑)

味方「(笑)うん、能フェチやった(笑)」

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