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OBPアーツプロジェクト → 03

最後にもう一度、OBPアーツプロジェクトの今後の課題についても聞かせてください。

公共性を保ちつつ、アーツの質を向上させるには、最近増えてきているNPOとも一緒に組んでいけたら、と思っています。
実際、去年はアーティストの稲垣智子のレース編みの作品をパフォーマンスで公開したのですが、その時はCASと組みました。それはもう、とても幻想的でした、仕事帰りの人々も足を止めて見入っていました。これもCASというNPOと協働したプロジェクトです。CASの笹岡さんとは1年以上前から「OBPでなにか一緒にできればいいね」といっていたところから、少しずつ信頼関係を築き、実現したものです。NPOは非営利の団体ながら、アーツの専門家集団である、という点で企業としては安心してパートナーシップを組めます。そして将来的には共同研究みたいなこともできればいいのだけれど。
あと、やはりこれも質の向上をめざして、若手キュレーター育成というのもやっていけたらと思っています。既に美術の専門機関で働いていて、なおかつ職場とは違うことをしてみたいという若手の人たちにも実践の場を提供してみたい。それに、学生たちのやっていることも、現場で働く若い先輩に見てもらって、批評してもらえたら。これも学生たちの作品の質の向上につながるでしょう?いまはまだ学生たちも実施することで頭が一杯で、それがどう見える、ということまで気が回っていないから。

こうやって、結果的に、いろんな人が出入りするようになってくれたら、まちがおもしろくなると思うんです。企業人と学生、アーティスト、出会うべくもない人が、OBPで出会う。大半は無関心にすれ違うかもしれないけど、中には興味を持って会話が生まれたり、そのひと時にほっとしてまた仕事に向かう人もいたりする。人それぞれがいろんな価値観をもって生きているんだ、ということをお互いに認め合えれば、みんなもっと楽になれる。アーツって、そういうことに気づかせてくれる、すごい力を持っている。だから、大切なものだし、生きていて良かったと確認できるもの、とみんなに言いたいんです。

松本さんからあるエピソードを聞いたことがある。
お父さんは、大阪市内で町工場を経営されていた。引退されて一部が使われないままになっていた。まだ新聞記者だった10年前、このスペースを使ってなにかおもしろいことをしたいな、と思っていたそうだ。当時、芝居の稽古場を探していた演劇や大阪市の関係者が聞きつけて、視察にも来た。結果的にはそれは実現しなかったが、当時の担当だった大阪市の文化事業の方と、今の仕事をするようになってから面識ができて、繋がったそうだ。「ずっと種をまきつづけてきて今があるのかもしれませんね」という松本さん。
そう、彼は常にオルタナティヴ−もう一つのもの−の可能性を探り続けている。昨日も、今も。きっとそれが、彼にとってのアートマネジメントなのではないだろうか。


結局は個人の体験に還元されるアート、これを「おもしろい」と思う一人一人がアーツを支えている。そういう意味では、OBPアーツプロジェクトがこうして実績をあげてきていることは、松下グループ社内に確実に、「これっておもしろいね」と思う人が増えている証だろう。ちなみに2月にはこれまでの活動に対するアンケートをOBP内で実施、3月には過去の活動をまとめた報告書が発行される予定である。これほどまでに、企業とアートが接近している状況を報告できたことを、感謝すると共に、皆さんに呼びかけたい。
ご一緒に、楽しみましょう♪

  text/徳山 由香
 

 

special thanks to:
OBPアーツプロジェクト実行委員会、日本アートマネジメント学会関西部会、学生参加者の皆様、松下電器、松下興産、パナクリエイト

 

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