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山本「今回ね、そら、技術っていうものの裏付けは絶対必要やと思うんやけど、それだけではなくて、舞台に上がる時に、どれだけストイックな気持ちで上がってくれはる人かっていうのが、人選の重要なポイントやったんです。ピーンと張り詰めたものを持ってはる人と持ってはれへん人がいると思うねん。少なくともここにいてはる4人(片山、上野、浦田、味方)には、そういうものを感じたので、お願いしたんです。たぶんどんなシチュエーションになっても、そういう部分を持ってはる人たちやと思ったから」
成田「普通、どこの会でも、ちょっと上の人(=師匠格の人)が(出演者の中に)入ってるもんなんやけど、今回はお願いしてないねん」
山本「敢えて、そうしたかったんよ」
成田「で、まあ、きーちゃんに3回とも地頭をやってもらうし、能の作り方としては、きーちゃんがベースになって、3番(=3つの能)を作っていくということになると思うんやけども、どうなんやろう、こういうのんは。やっぱり、おシテの思いで作っていく時に、やりにくいのかな、こういうことは」
上野「いや、いいな、と思いますね、この企画は」
山本「僕ら、もう、上の人に見てもうて、一から言うてもらわんならんということでは、具合悪いと思うので、自分らだけで何が出来るのか、いっぺんちょっとやってみたかったんです。それで、敢えてどうしても上の人を置きたくなかったんですけども」
上野「いい緊張感がね、上に立つ人がいなくても、また違う緊張感が今回すごくあると思うし」
成田「保浩さんなんか、どう思ってはるのかな?」
浦田「うん、僕も今まで、上に立つ人がいる舞台しかやったことないから。どうしてもそういうやり方しか出来ないから」
上野「ぬるくなったりは…そんなことはないか…逆に緊張するか」
浦田「うん、逆に。常にいはる人がいないわけやから。普通は、居てはることが当たり前みたいな感じやから」
敢えて、指導者の立場の人を置かなかった。
見られていないから好き勝手なことをやる、というような次元に彼らはいない。
縛ろうとする枠枷がないから何でもあり、というような次元にも彼らはいない。
それは、守ってくれるもののない、より厳しいところに自分たちを置こうとする、彼らの覚悟でもある。
能が好きだから。
成田「今回、3回とも、きーちゃんに地頭をお願いするわけやけれども」
山本「3日間でしょう?これ。よかったねえ、3日連続にならなくて(笑)」
片山「他人事みたいに何言うてんの(笑)」
山本「日が続いてたら、申合せと合わせると連続6回謡うことになってたのよ(笑)」
成田「まあ今回、1週間おきになってるわけやけど、3回とも地頭っていうのは…きつい?」
片山「そんなんやってみな(笑)。でも、今、番組見てたら、3回とも結構しんどい演目やな…『邯鄲』て結構しんどいよな」
成田「ああ、そやねえ」
片山「『邯鄲』の〔楽(がく=舞の一種)〕になる前のところで、僕ら(=片山家の謡い方)は、結構ノって(=比較的テンポアップして)、ずっと最後までノっといていくんやけど、その謡い方で慣れてる人らは、一緒に謡ってて別にどうもないけど、そういう謡い方に慣れてない人が地謡に混じってる場合は、誰かが‘そのへんからゆるんで(=テンポが遅くなって)くるんやないの?’って異を唱え出すと、やにわにしんどうなってくる」
味方「(一緒に)謡ってて、違うサイクルがそこここで起こってくるんですよ」
成田「ああ、舞台上で?」
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片山清司 |
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片山清司。
父は人間国宝である九世片山九郎右衛門。
祖母は、これまた人間国宝の井上愛子(四世井上八千代)。
姉は五世井上八千代で、その夫は九世観世銕之丞。
極め付けのサラブレッドである。
二十歳を前にした頃、父の承諾を待ちきれずに、故・八世観世銕之亟の指導を仰いだ。
彼とそんな話をしたことはないが、数年前、苦しみもがいているような舞台が続いた。
立場上、年齢よりは背伸びをした役が続いていたし、身体の中で、摂取したものが消化しきれずにいるような、アレルギー反応を起こしているような…。
今、一つのハードルを乗り越えたように、父から受け継いだものと、八世銕之亟から受け継いだものが、彼の中で、ゆっくりと練り合わさってきているのを感じる。
やがては芳醇な香りを放つようになるだろう。
言わなければならないことをきっちり言えるところも、父、九郎右衛門譲りだ。
彼を3回とも地頭に据えたのは大きな意義があるだろう。
一方、味方玄は父、味方健の代から能の世界に入った。
弟の團(まどか)も能の道を選んだ。
味方玄の師匠は片山九郎右衛門。
父の師匠の家とは違う、片山九郎右衛門を自ら師匠に選んだ。
端正な姿の美しさにも恵まれ、技術的にも早熟な彼の舞台は早くから評価されたが、何かが足りないように思えた。
いつからだろう…彼の能が変わったと思ったのは…。
技術の高さや姿よりも、身の内から溢れ出るような有機的なものを感じるようになった。
片山清司と味方玄の間には、お互いを認め合う、絶対の信頼があるように思う。
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味方玄 |
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