坂東竹三郎の会
ところで、竹三郎さんの会のチラシ、このスチールの鬼婆さんは迫力がありますね。
水 口「斜め上の、綺麗な方と同じ人間とは思えんでしょ?」
思い入れが入った写真ですから、こういった写真はどちらを先に撮られるんですか?
水 口「これはねえ、婆の方だけを撮ったんです。綺麗な方のは前の写真です」
あ、前のお写真ですか(笑)
竹三郎「(笑)前じゃないですよ、つい最近の写真」
水 口「30年ほど前の写真ですわ(笑)」
竹三郎「(笑)最近のんです」
(笑)同じ人とは思えない写真ですものね。
竹三郎「(笑)今回は、松竹座の方、宣伝の方にとてもご尽力頂きましてね。
そういえば随分昔、中座の夜の部で、有馬の猫、猫化けしましてね。その宣伝用の劇場の前に出る歌舞伎絵、そこの下の方に、錦絵で、私がする猫化けも入っていて喜んでおったのですが、暫らくして中座の前を通ったら、猫化けだけが消されて、なくなっていたんですよ。
“おかしいな”と思って宣伝の方に聞いたらね、クレームが出て消されたらしくってね。それはそれで、この世界では仕方のないことなんですが、その宣伝の方が男気があるというか、反骨精神があるというか、“とにかく夜の部を一杯にしましょう”ということで、猫化けの前夜祭をしてくれたんですよ。猫化けのお化粧とか、猫の品評会とか(笑)、“綺麗で賞”“重たいで賞”とか、猫に賞を出してね。とにかく、その日は凄かったんですよ。猫を連れた人で中座が満員になって・・・(笑)。こんなに猫がいるんかとびっくりしました。
おかげで、よい宣伝になって、25日間、夜の部に、お客様がびっしりと入って頂きました。今度の公演は残念ながら1日だけですが、それでも良くして頂いてね」
今日も早くから、宣伝の方が、新しく刷れたばかりのチラシを持って来て下さいました。やはり、舞台は関わる方の“気”ですよね。
竹三郎「そうです。スタッフの皆さんがこうしてして下さってるんですから、私達は、来て頂いたお客様に、“ああ、この芝居に来て良かったわ”と帰って頂く、それが使命ですからね。今回の公演は、一世一代のつもりでね。一回きりの公演ですからね。前の中座でさせて頂いた公演、“肉付きの面”も1回だけでしたでしょ。“行きたかったのに〜”と、有難いことに、多くの方におっしゃって頂けたんですよ」
あの時も本当に多くのお客様が入って下さいましたですよね。
水 口「完売になってたんちゃいます?」
竹三郎「今回も松竹座にお客様が入りきらないくらいに来て頂けたらと・・・(笑)。
そのためには、私達出演者が頑張らないといけません。
皆様、どうか、どうぞ宜しくお願いいたします。
では、説明を宜しく(笑)」
水 口「(笑)・・・えー、江戸の武蔵野に一つの家がありまして、そのあたりを通りかかった旅人が消えるという、不思議な現象が次々におこります。
というのは実は、そこに住む老婆、このお役が竹三郎さんですが、この老婆が旅人を泊めては殺して、お金を取っているという・・」
竹三郎「要するに殺人強奪です」
水 口「今の時代のね、不条理な殺人とか、強盗とかと同じ感じですよね」
竹三郎「テーマがね、前の“肉付き”は、嫁と姑の問題だったんです。ちょうど当時は、嫁と姑の問題がテレビでもよく流れてましてね。
今回の物語も今の世相にあってるなあ・・・と。ついこの前もテレビを見ておりましたら、何にもなく人を平気で殺す・・これはそれのハシリと言ってはアレですけど、昔、そういうことがおこったというお話なんですよ。その後、私の鬼婆は後悔するようになっているんですが、そりゃ後悔しないと、殺しっぱなしじゃねえ〜。殺したらこういうことになるっていう教えがちゃんと付いているんですけどね」
水 口「竹三郎さんの婆に1人の娘がいるんですけれど、それを市川亀治郎さんが勤められます。浅茅という娘です。そこに偶々来た若者、絶世の美男子、観之介に、娘・浅茅が惚れてしまうんです。本来は母親の言う通りに殺人の手伝いをしないといけないんだけれども、惚れてしまった為に、その美青年、観之介を逃がしてしまうんです。
・・・さあ、その後どうなるでしょう。この後は芝居でお楽しみを〜(笑)」
これは是非、観ないといけませんね(笑)。
水 口「その絶世の美男子、亀治郎さんに惚れられる役を、ここにいる竹三郎さんのお弟子、竹志郎さんが勤めます」
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坂東竹志郎さん |
竹志郎「坂東竹志郎でございます。宜しくお願いいたします」
カッコいい(笑)、ありがとうございます。
この演目は78年ぶりの上演ということで、竹三郎さんも水口先生も流石にご覧になったことはない?(笑)・・・と思うのですが、この演目はどういう風にして選択されたのですか?そして、竹三郎さんも、一世一代の会だからこそ、綺麗に綺麗にされたお役をどうしてお選びにならなかったのかをお伺いしたいのですが。
水 口「これはね、実は“肉付きの面”の時に、既に候補にあがっていたんですよ。前からやりたかったお芝居の一つで、その時も“どっちやろかなー?”って、迷った作品でした」
少し“黒塚”的な感じがしますが・・
水 口「“黒塚”はこの後に出来てますからね。これを観て、“黒塚”が出来たのかもしれませんね。今やると“黒塚”が有名ですから、これが“黒塚”を真似たかのように思われるかも知れませんが・・・(笑)。ですので、少し本を変えましたけどね」
この演目は水口先生が?竹三郎さんが?
水 口「これは竹三郎さんがどっかから見つけてきはって・・・“やりたい、やりたい”言うてはったんです」
竹三郎「(笑)これはね、偶々今回、菊次郎の追善ということで、関西での78年ぶりの上演というのも事実なんですけどね、昔、ある時、プロマイドを見ておりましてね、“綺麗ですねー”って言ったら、菊次郎が“失礼な、これは俺だよ”って言いましてね。それが今度、亀治郎さんがして下さるお役、浅茅役の菊次郎の若い日のプロマイドだったんですよ。偶然といえば偶然なんですけどね。なんかその時のことがとても印象に残っておりましてね。
考えすぎかも知れませんが、“菊次郎がやるように言うてくれてんのかなあ・・・”とも、思おたりしているんですよ」
水 口「それはね、東京で昭和23年、前の猿之助さんの一座で、菊次郎さんが浅茅をされたものではないでしょうか」
竹三郎「そうですか・・」
今回、澤潟屋の市川亀治郎さんに御出演頂くというのも、何かご縁を感じますねえ・・・。
もう一本の舞踊、これは、竹三郎さんは東山村流のお家元でもあられる訳で、今回、こちらの振付もなさるんですね?
水 口「そうです。竹三郎先生と、山村流のお家元です」
竹三郎「山村のご宗家にお願いしましてね。ただ、ご宗家のお手を煩わせるのも申し訳ないので、うちの門下生も4名ほどだして頂くのですが、この4人の振付だけは私がさせて頂きます」
水口先生も綺麗どころで踊られる(笑)とかは、ないんですか?
水 口「(笑)ないです。ないです」
(笑)水口先生は、昨年の竹三郎さんの“古稀の会”で戸無瀬をされて・・・お綺麗ですからねえ。
これには竹三郎さんは綺麗綺麗で出られるんでしょ。
竹三郎「ええ、ええ。もう、綺麗でもないんですけどね(笑)」
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