----どうしてインドネシアに?
「日本の民家は、すでに保護の対象で、動物園の動物のように“飼われている”状況なんです。社会の中で機能していない。僕が行ったのは20年前ですが、当時の僕は、インドネシアには、まだ社会に共有されている伝統的な建築様式があると考えていた。そこに行けば、家のデザインの意味が分かるかと思ったんです。建築と人間の原点を見ることが出来るかと…」
----原点は、分かりましたか?
「結局、『住宅は人間が住むようには出来ていない』という結論にいたりました」
----ええ!? 人間が作ったものなのに?
「インドネシアの伝統的な家では、屋根裏が非常に高く、広く作られていますが、そこに人があがることも、見上げることさえ、禁じられている。なぜなら、上は祖先が住む神聖な場所だから。他にも禁忌がすごく多い。そんなの生きている人間には、住みやすいわけがない。結局、家というのは人間ではなく、死んだ祖先や神が住むためのところ。人間はその下を間借りしているだけ」
----大変そう…。テレビでこんな家を建てているところを見たことがあります。村中の人が参加するお祭りみたいでした。
「そう。伝統的な農村では、たいてい共通の形式の家に住んでいて、家を建てることは、村が共有している世界観や人生観に参加することなんです。家を建て、結婚し、子供を産み、祖先の祭壇を守り、やがて自分も祖先になる。家を建てることが、生きてゆく意味を確認することだったんです。だから家を調べれば、そこの社会や所属している人間の多くのことが分かると言えた」
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