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巨大な家の屋根裏は祖先神にささげられた禁忌の空間。人は祖先の家を間借りして一生をおくるだけかもしれない。インドネシア・フローレス島リオ族。

----佐藤さんは、文化人類学者なんですよね。

「いえ、建築人類学者です」

----?

「学生時代は元々建築を勉強していて、建築家になるつもりでした。卒業後は設計事務所に勤めていましたし。でも、ちょっと行き詰まって2年で辞めてしまったんですよ」

----理由は?

「かっこよく言えば、デザインの意味が分からなくなったから。たとえば、窓を丸くするか、四角にするかという判断を求められた時、その根拠が分からなくなった。美意識やアート的といったあいまいなものではなく、もっと明確なデザインの原点になるようなものが知りたかったんです」

----それは、でっかい壁にぶち当たってしまったんですね。

「それから2年ほどプータローをしていて、大学院に戻ってインドネシアの伝統的な建築を調査し始めました」

家が船でなければならない理由? 船は祖先が乗ってきた乗り物であり、死者の霊魂が祖先の国にかえるための乗り物でもある。インドネシア・スラウェシ島トラジャ族。

----どうしてインドネシアに?

「日本の民家は、すでに保護の対象で、動物園の動物のように“飼われている”状況なんです。社会の中で機能していない。僕が行ったのは20年前ですが、当時の僕は、インドネシアには、まだ社会に共有されている伝統的な建築様式があると考えていた。そこに行けば、家のデザインの意味が分かるかと思ったんです。建築と人間の原点を見ることが出来るかと…」

----原点は、分かりましたか?

「結局、『住宅は人間が住むようには出来ていない』という結論にいたりました」

----ええ!? 人間が作ったものなのに?

「インドネシアの伝統的な家では、屋根裏が非常に高く、広く作られていますが、そこに人があがることも、見上げることさえ、禁じられている。なぜなら、上は祖先が住む神聖な場所だから。他にも禁忌がすごく多い。そんなの生きている人間には、住みやすいわけがない。結局、家というのは人間ではなく、死んだ祖先や神が住むためのところ。人間はその下を間借りしているだけ」

----大変そう…。テレビでこんな家を建てているところを見たことがあります。村中の人が参加するお祭りみたいでした。

「そう。伝統的な農村では、たいてい共通の形式の家に住んでいて、家を建てることは、村が共有している世界観や人生観に参加することなんです。家を建て、結婚し、子供を産み、祖先の祭壇を守り、やがて自分も祖先になる。家を建てることが、生きてゆく意味を確認することだったんです。だから家を調べれば、そこの社会や所属している人間の多くのことが分かると言えた」


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